日本大百科全書(ニッポニカ) 「神経皮膚症候群」の意味・わかりやすい解説
神経皮膚症候群
しんけいひふしょうこうぐん
神経、とくに中枢神経の障害と皮膚の病変とが併発することを特徴とする病気をいう。神経皮膚症候群のリストにあげられているものは多く、学者によっても範囲が異なる。また、まれなものが少なくない。病気の性質別に、まず先天性のものから主要なものを次にあげる。
母斑(ぼはん)症およびその類症では、多くの場合、中枢神経病変と皮膚病変が併発する。しかし、母斑症のなかには、普通は神経障害を伴わないものもある。
色素失調症は遺伝性の原因不明の疾患で、発症するのはほとんどすべて女児である。多くは出産時もしくは出生から1週間以内に水疱(すいほう)を主とする病変を生じ、これらはやがて暗褐色で彗星(すいせい)の尾の形あるいは泥しぶきを浴びたような形の皮疹(ひしん)に置き換えられる。この色はしだいに淡くなり、普通は消失する。中枢神経の病変は脳炎様のものといわれているが、病理解剖された例はきわめて少なく、通常みられるものは、その後遺症と思われる脳室の拡大や麻痺(まひ)その他の症状である。目、歯、骨などにも種々の病変がみられる。
色素性乾皮症では、精神発達が正常の場合と、精神発達の遅れのみられる場合や同時に種々の神経症状のみられる場合とがある。とくに、色素性乾皮症に小頭症、重症精神障害、低身長症および性腺(せいせん)発育障害を伴うものをデ・サンクティス‐カクオーネde Sanctis-Cacchione症候群という。
魚鱗癬(ぎょりんせん)およびその類症に関する知見は近時つまびらかとなり、多くの疾患に分類された。それらのなかに神経皮膚症候群に属するものが少なくない。ダウン症候群の大部分は染色体異常症であり、まれに染色体に異常のみられないものもある。精神発達の遅滞がみられる。皮膚は成長するとともに魚鱗癬様となる場合が多い。
生来性の代謝異常症が、知能発達障害と同時に、特異の皮膚症状を呈することがある。一例として、フェニルケトン尿症では、フェニルアラニンをチロシンに酸化する酵素が欠乏していることによって、フェニルアラニンが体内に蓄積されて心身の障害をおこす。フェニルアラニンの競合作用によってメラニンの産生が抑えられ、皮膚および毛の色が淡くなる。早く発見し、フェニルアラニンに乏しい特別食をとることがたいせつである。このほかにも、先天性の代謝障害で種々の物質が体内に蓄積して、皮膚と中枢神経とに障害をおこすことがある。
また後天性の全身病のなかにも、神経皮膚症候群をおこすものがある。ベーチェット病では皮膚粘膜に特異の病変があるが、中枢神経病変をおこすことがある。全身性紅斑性狼瘡(こうはんせいろうそう)で脳の病変がおこり、知能の著しい障害、精神病、けいれんなどをおこすことがある。多発性結節性動脈炎もまた、脳の動脈を侵して、神経皮膚症候群をおこすことがある。
[川村太郎]