神道五部書(読み)シントウゴブショ

デジタル大辞泉 「神道五部書」の意味・読み・例文・類語

しんとう‐ごぶしょ〔シンタウ‐〕【神道五部書】

伊勢神道で根本教典とされる5部の書。すなわち天照坐伊勢二所皇太神宮鎮座次第記・伊勢二所皇太神宮御鎮座伝記・豊受皇太神宮御鎮座本紀・造伊勢二所太神宮宝基本紀・倭姫命世記

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精選版 日本国語大辞典 「神道五部書」の意味・読み・例文・類語

しんとう‐ごぶしょシンタウ‥【神道五部書】

  1. 上代伊勢神宮祠官が、祖伝をもとに伊勢内外二宮の本縁を記述したと伝える五部の書の総称。実際の成立は鎌倉中期とされる。「天照坐伊勢二所皇太神宮御鎮座次第記」(別名「神記二」「阿波羅波命記(あわらわのみことのき)」)、「伊勢二所皇太神御鎮座伝記」(別名「神記一」「大田命訓伝」)、「豊受皇太神御鎮座本紀」(別名「飛鳥本紀」「飛鳥記」)の「神宮三部書」に、「造伊勢二所太神宮宝基本記」「倭姫命世記」を加えて、近世以降「五部書」と総称するようになった。以上の五部書はいずれも、二宮祭神の本縁と二宮成立の次第を述べたもの。伊勢神道はこれらの書によって成立し、中世以降の神道諸流に影響を与えた。

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改訂新版 世界大百科事典 「神道五部書」の意味・わかりやすい解説

神道五部書 (しんとうごぶしょ)

鎌倉時代の神道書。鎌倉時代に伊勢の外宮の神官たちの間で生み出された神道の教説を,一般に伊勢神道,度会(わたらい)神道と呼ぶが,数多く作られた教典の中で特に重んぜられた五部の書を総称していう。いずれも長い題名を持っているが,各1巻で短編。《天照坐伊勢二所皇太神宮御鎮座次第記》は,天照大神と豊受大神の神格と,二神の伊勢鎮座に至るまでの次第を述べた書,《伊勢二所皇太神御鎮座伝記》は,神鏡の祭祀を中心に伊勢神宮の由緒を記し,《豊受皇太神御鎮座本紀》は,外宮の沿革を明らかにして内宮との関係を述べ,さらに外宮の祭儀を説明する。また《造伊勢二所太神宮宝基本記》は,両宮の殿舎造営や形式などについて神秘的な解説を加え,《倭姫命世記》は,天地開闢以来の神々の祭祀について概観し,神宮の成立を説明する中で,神道の教説を明らかにしようとしている。中世には,神宮の伝承を歴史的に述べようとした前3書が神書として重んぜられていたが,近世になって山崎闇斎をはじめとする垂加流の神道家が,後2書の反仏教的な主張を高く評価したために,神道五部書という呼び方が一般にひろまった。五部書はいずれも奈良時代には成立していたと記されているが,江戸時代中期に吉見幸和が偽書であることを論証して以来,長い研究史を経て,鎌倉時代中期にまず後2書が作られ,ついで前3書が書かれたと考えられるようになった。五部書は,室町時代以降吉田神道,垂加神道などの神道家に尊重されたが,各書の間には思想的に一致しない部分もあり,神祇の伝承と密教,さらに中国の古典の所説等を習合して反仏教的な立場を主張しようとする論理には,とらえにくいところが少なくない。そこには古い神祇信仰の伝承を教説として再編しようとする苦渋があらわれており,中世の思想の動向を考える上で見落とすことのできない文献である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「神道五部書」の意味・わかりやすい解説

神道五部書
しんとうごぶしょ

伊勢(いせ)神宮の外宮(げくう)(豊受(とようけ)大神宮)祠官(しかん)が鼓吹(こすい)した度会(わたらい)神道(伊勢神道)の根本教典で、次の5部をいう。

(1)『伊勢二所皇太神宮御鎮座伝記(にしょこうたいじんぐうごちんざでんき)』(『御鎮座伝記』『大田命訓伝(おおたのみことくんでん)』『神記第一』ともいう。継体(けいたい)天皇元年、神主飛鳥(あすか)の撰(せん)と伝える)
(2)『天照坐(あまてらします)伊勢二所皇太神宮御鎮座次第記(しだいき)』(『御鎮座次第記』『阿波羅波記(あわらはき)』『神記第二』とも。阿波羅波命らの撰と伝える)
(3)『豊受皇太神宮御鎮座本紀』(『御鎮座本紀』『飛鳥記』『上代本紀』とも。継体天皇の代、神主飛鳥の撰と伝える)
(4)『造伊勢二所太神宮宝基本紀(ほうきほんき)』(881年、荒木田神主の行真の書写と伝える)
(5)『倭姫命世記(やまとひめのみことせいき)』(768年、禰宜(ねぎ)五月麻呂(さつきまろ)の撰と伝える)
 近世以降、吉見幸和(よしみよしかず)の『五部書説弁』などの批判研究により、後人による偽託の書であることが明らかとなり、建治(けんじ)・弘安(こうあん)(1275~88)ごろに度会行忠(ゆきただ)の手になったと推定されている。古来、禁河(きんが)の書として神境界の河を越えて外にもたらすことをはばかり、あるいは60歳以下の者には披見させないほどに貴重典籍の扱いを受けた。

[中西正幸]

『神宮司庁編・刊『度会神道大成 前篇』(1957)』『神宮古典籍影印叢刊編集委員会編『神道五部書』(1984・皇学館大学出版部)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「神道五部書」の解説

神道五部書
しんとうごぶしょ

伊勢神道の根本教典とされる5書。いずれも鎌倉初~中期の成立と推定される。「天照坐(あまてらします)伊勢二所皇太神宮御鎮座次第記」は,両宮の鎮座の次第と別宮や相殿神について記述する。「伊勢二所皇太神御鎮座伝記」は猿田彦(さるたひこ)神の託宣や神鏡の祭祀を記す。「豊受(とゆけ)皇太神御鎮座本紀」は古代の大神主飛鳥の撰に仮託されており,外宮の歴史や祭祀をのべる。「造伊勢二所太神宮宝基本紀」は両宮の殿舎の解説を加えている。「倭姫(やまとひめ)命世紀」は禰宜(ねぎ)五月麻呂に仮託して,大御神の遷幸や倭姫命の奉仕を記述する。度会(出口)延佳(わたらいのぶよし)がこれらの5書を重んじて以来,高く評価された。

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百科事典マイペディア 「神道五部書」の意味・わかりやすい解説

神道五部書【しんとうごぶしょ】

鎌倉末期までには成立していたと考えられる伊勢神道の秘書。伊勢外宮(げくう)を内宮(ないくう)とならべ,または優位に置こうとする目的をもったもので,永仁年間(1293年―1299年)までは公開されなかった。思想的には鎌倉時代のものと考えられている。五部は《天照坐(あまてらしいます)伊勢二所皇太神宮御鎮座次第記》《伊勢二所皇太神宮御鎮座伝記》《豊受(とゆけ)皇太神宮御鎮座本紀》《造伊勢二所太神宮宝基本紀》《倭(やまと)姫命世記》よりなる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「神道五部書」の意味・わかりやすい解説

神道五部書
しんとうごぶしょ

『天照坐伊勢二所皇太神宮御鎮座次第記』『伊勢二所皇太神宮御鎮座伝記』『豊受太神宮御鎮座本紀』『造伊勢二所太神宮宝基本記』『倭姫命世記』の5書をいう。『日本書紀』などによって,アマテラスオオミカミの白銅鏡よりの化生,天孫降臨の神勅,三種の神器,五十鈴川上の鎮座を物語るほかに,外宮の祭神をクニノトコタチノカミとなし,外宮と内宮の関係を内外表裏の関係であるとする意図と,神道に教義をもたせる意図が看取される。平安時代末,鎌倉時代初期に,伊勢外宮の神官の手になるものと推察される。北畠親房,一条兼良など,後世への影響が大きい。

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旺文社日本史事典 三訂版 「神道五部書」の解説

神道五部書
しんとうごぶしょ

鎌倉初期,伊勢神道の中心的教典
伊勢神宮外宮の神官度会 (わたらい) 氏によって,内宮に対する外宮の優位を説くため書かれた。反本地垂迹説の立場で,北畠親房 (ちかふさ) の神国思想の根拠となるなどのちの神道説に及ぼした影響は大きい。『天照坐 (あまてらします) 伊勢二所皇太神宮御鎮座次第記』『伊勢二所皇太神宮御鎮座伝記』『豊受皇太神宮御鎮座本紀』『伊勢二所太神宮宝基本紀』『倭姫命 (やまとひめのみこと) 世記』の5部からなる。

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世界大百科事典(旧版)内の神道五部書の言及

【伊勢神道】より

…そして96年(永仁4)注進状に〈豊受皇大神宮〉と記したことの当否をめぐって内宮側との紛争が激化したころには,〈わが陣営には《倭姫皇女世記》《宝基本記》などの貴重典籍あり〉と呼号するようになっていた。この《倭姫命世記(やまとひめのみことせいき)》《造伊勢二所太神宮宝基本記》などが,後世〈神道五部書〉とよばれるものだが,ここに,神宮の古伝承をもとに,さらに外宮の神徳の種々を掲げた典籍を根拠として,いわゆる伊勢神道の教説が唱えられるようになった。 その主張する点を見ると,まず外宮の祭神御饌都神は,《古事記》《日本書紀》にみえる天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)や国常立神(くにとこたちのかみ)と同神であり,この神が天地開闢(かいびやく)にあたり天照大神と幽契を結んで永く天下を治めることにしたのだとして,天照大神の権威を世界観の上から基礎づけようとしている。…

【偽書】より

…鎌倉時代に外宮の度会(わたらい)氏は内宮の荒木田氏と対等の地位を得るために,多くの書を渉猟して研究の結果を述作した。それを集成したのが《神道五部書》で,主として度会行忠の作と知られている。最も古い《倭姫命世記(やまとひめのみことせいき)》は宣命体を用いた。…

【神道】より

…中でも〈祝詞〉は,重要な教典といえよう。 中世に入って神道説の形成が進むと,空海などに仮託した教典が続々と生み出されたが,その中で伊勢神道の教典として作られた〈神道五部書〉は,その後の神道説に大きな影響を与えた。また古代末以来,各地の神社でさかんに作られた神社の縁起は,民俗的な神道の教典であり,それらの中には絵解きや説経などの芸能と結びついたり,絵巻や草子などに形を整えられたりして,広く知られるようになったものも少なくない。…

※「神道五部書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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