鎌倉後期の豊受(とようけ)大神宮(伊勢(いせ)神宮外宮(げくう))の祠官(しかん)、度会神道(しんとう)の代表的な学者。権禰宜(ごんねぎ)行継(ゆきつぐ)の子として嘉禎(かてい)2年に出生。16歳で禰宜に補せられ、1304年(嘉元2)に一禰宜(いちのねぎ)に進み、西河原(にしがわら)長官と称せられた。禰宜在任53年間にわたり、翌嘉元3年閏(うるう)12月27日、70歳で没した。神宮相伝の秘儀や故実(こじつ)を基にして、おそらく『神道五部書』など度会神道の主要著述を手がけたとみられる。さらにその神道思想の形成と唱道に努め、その思想はのちに度会家行(いえゆき)によって大成され、度会神道(伊勢神道)と称されるに至った。また1296年(永仁4)、内宮(ないくう)(皇太神宮)側との皇字沙汰(こうのじさた)において、その論争の指導的な役割を果たした。著作には、まず『伊勢二所(にしょ)太神宮神名秘書』1巻があげられる。同著は1285年(弘安8)末に成り、伊勢の両正宮はじめ諸宮社に祀(まつ)る祭神の神系や由緒(ゆいしょ)を概説した、神宮の貴重な文献である。序文に「夫(そ)れ日本は神胤(しんいん)なり」とあり、神国、神器、神勅をめぐる日本の永遠性を力説している。また1300年(正安2)ごろに勘録した『古老口実伝(ころうくじつでん)』1巻は、神明の遺勅や両宮の規範、宮中勤務心得など、神宮の諸事に関する伝承性豊かな内容である。
[中西正幸 2017年10月19日]
『神宮司庁編『度会神道大成 前篇』(1957・神宮司庁/複製・2008・吉川弘文館)』
鎌倉時代の神道家。伊勢神宮外宮権禰宜行継の子で,祖父行能の養嗣子となった。家のあった地名によって西河原(現,伊勢市宮後)と称した。1251年(建長3)外宮の禰宜に任ぜられ,1304年(嘉元2)に一禰宜に進んだ。神祇の古典に通じ,神宮の故実に広い知識をもっていた行忠は,老荘をはじめとするさまざまな漢籍を学び,密教の知識も吸収して,伊勢神道の教説の基礎を築いた。1285年(弘安8)に著した《伊勢二所太神宮神名秘書》1巻は,《神道五部書》を中心とする初期の伊勢神道の所説を明確にしたものとして,のちの神道家たちに大きな影響を与え,99年(正安1)ころにまとめられた《古老口実(くじつ)伝》1巻は,神宮のさまざまな問題についての度会氏の家伝をまとめたものとして,重要な書である。そのほか,明確な証拠はないが,行忠の手によったとみられる神道書は少なくない。和歌をよくし,《新後撰集》《続千載集》に詠草が収載されている。
執筆者:大隅 和雄
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(白山芳太郎)
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1236~1305.閏12.27
鎌倉後期の伊勢豊受(とようけ)大神宮の神官・神道学者。父は行継。1251年(建長3)禰宜(ねぎ)に補任。83年(弘安6)一時三禰宜の職を解かれるが,85年に関白藤原兼平の命によって著した「二所大神宮神名秘書」が,亀山上皇にも読まれて,87年に復職。1304年(嘉元2)一禰宜となり,翌年没した。「古老口実伝」「奉仕秘記」「心御柱(しんのみはしら)記」などの著があり,伊勢神道の興隆発展に大きな役割をはたした。
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…ことに伊勢両宮のうち外宮(豊受大神宮)は祭神が御饌都(みけつ)神であるところから万民の食物をつかさどる神徳ありとし,ひいては農耕以下生産の守護神なることを強調して,信徒を広く集める勢いでは内宮(ないくう)をしのぐほどに立ち至ったらしい。 1282年(弘安5)内宮造営料木のことに容喙(ようかい)して外宮禰宜(ねぎ)の一人度会行忠は職を免じられたが,これを機に京都に移り住み広範な教養を身につけたらしく,自著《二所太神宮神名秘書》を亀山上皇に奏覧し,その功により87年復職した。そして96年(永仁4)注進状に〈豊受皇大神宮〉と記したことの当否をめぐって内宮側との紛争が激化したころには,〈わが陣営には《倭姫皇女世記》《宝基本記》などの貴重典籍あり〉と呼号するようになっていた。…
…鎌倉時代に外宮の度会(わたらい)氏は内宮の荒木田氏と対等の地位を得るために,多くの書を渉猟して研究の結果を述作した。それを集成したのが《神道五部書》で,主として度会行忠の作と知られている。最も古い《倭姫命世記(やまとひめのみことせいき)》は宣命体を用いた。…
※「度会行忠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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