密教法具(読み)みっきょうほうぐ

改訂新版 世界大百科事典 「密教法具」の意味・わかりやすい解説

密教法具 (みっきょうほうぐ)

密教の修法を行うために用いる特有の仏具。密教法具は当初,最澄,空海,常暁,円行,円仁,恵運,円珍,宗叡の入唐八家によって請来されたが,おのおのに若干の異同があって整合性を欠く。この時代のものを大別すると金剛杵(こんごうしよ)と金剛鈴(こんごうれい)が主流をなし,異種に独鈷(どつこ)杵の端に宝珠をつけた金錍(こんべい)があり,そのほか輪宝(りんぼう),羯磨(かつま),四橛(しけつ),盤子(ばんし)(金剛盤),閼伽盞(あかさん),護摩(ごま)炉,護摩杓などがあるが,供養具まで完備するには至っていない。やがて,壇上に火舎(かしや)(香炉)を中心に六器(ろつき),花瓶(けびよう),飯食器(おんじきき)などをそろえた一面器,さらに四面器を配するなど,密法法具の整備拡充が進む。和歌山県那智経塚の出土品の中から,四橛,羯磨,花瓶のほかに,4口の火舎や六器などの一括遺品が発見され,平安後期には一応,大壇(だいだん)が形成されていたものと考えられている。

(1)金剛杵 古くインドの武器で,帝釈天や金剛力士の持物でもある。密教では,杵(きね)の形をした中央の握り両端に鈷の突起をつくりその鋭さによって煩悩を打ち破り,菩提心(仏性)をあらわすための法具である。両端の鈷数や形によって独鈷杵三鈷杵五鈷杵,九鈷杵,宝珠杵,塔杵,九頭竜(くずりゆう)杵などがある。独・三・五鈷杵は古いが,宝珠・塔杵は新しく,九鈷杵,九頭竜杵はチベットの杵の影響を受け,宋,元代に多い。(2)金剛鈴 修法の際,これを鳴らして仏心を呼びさます驚覚(きようかく)の法具で,(れい)の柄に金剛杵をつけるため,金剛鈴と称する。柄の形により独・三・五・九鈷鈴,宝珠・塔鈴などがある。五鈷鈴は空海請来鈴(東寺)をはじめ作例が多い。独・三鈷鈴,宝珠・塔鈴は那智経塚出土(平安時代後期)が初出である。九鈷鈴も九鈷杵とともに宋代に多い。(3)金剛盤 金剛杵と金剛鈴を置く台で,縁のある三角様の盤に三脚がつく。内部をくぼませ,盤面に輪宝や金剛杵などを毛彫りするものは空海請来型であり,盤面が素文式のものや鈴座つきのものは遺品が多い。(4)輪宝 投擲し,回転する刃によって相手を殺傷する武器であったが,仏教では仏の説法のシンボルとなり,転輪聖王(てんりんじようおう)の七宝の一でもある。密教においては煩悩を打ち破る法具として重視され,大壇の中央に置かれる。(5)羯磨 羯磨金剛の略で,2本の三鈷杵を十字に組み,四方にのびる十二鈷は,流転の十二因縁を破り,涅槃寂静の十二因に変ずる法具で,〈請来目録〉の〈四口〉の記載は現在と同じ使用法を思わせる。(6)四橛 壇の四隅に立て,橛(くい)の役を果たすため四橛といい,これに壇線をめぐらし,浄域とする。(7)供養具 壇上の諸尊を供養するため,手前中央に香をたく火舎,左右内から外へ六器,飯食器,灑水(さいすい)器(香水),塗香(ずこう)器を並べ,四隅に花瓶を置く。壇外には燭台,閼伽(あか)桶を置く。護摩の修法用には護摩炉,五穀などを火中に投ずる護摩杓もある。密教法具のうちでは,空海請来品は大型で鈷先鋭く,唐風の雄偉な趣がよくあらわれている。平安時代になると鈷の反りも穏やかで,法具の縁も薄く,軽やかで瀟洒になる。また鎌倉時代のものは反りも強く,縁も厚くなり,重厚感を増すなど,時代の特性がよくあらわれている。(8)修法壇 インドでは土壇を主としたが,中国や日本では木壇を用い,壇の高さは古式は低く,時代とともに高くなる。その形式によって華形壇,箱壇,牙形壇,密壇の4種がある。
大壇(だいだん)
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「密教法具」の意味・わかりやすい解説

密教法具
みっきょうほうぐ

天台,真言の両宗における灌頂,護摩など密教の修法に用いる道具の総称。華鬘 (けまん) ,幡,三具足 (みつぐそく) などの堂内荘厳 (しょうごん) 具とは区別される。密教寺院では本尊や,両界曼荼羅の前にそれぞれ修法壇である大壇が設けられ,各種の法具を置く。そのおもなものは四厥 (けつ) ,輪宝,金剛杵 (しょ) ,金剛盤,金剛鈴,羯磨 (かつま) ,華瓶 (けびょう) ,六器,飲食器 (おんじきき) ,火舎,護摩炉,由杓,灑水器,灯台,修法壇,礼盤などで,インドの武器や日用具から変化したものが多い。密教法具の一部は奈良時代に雑密の伝来とともに輸入されたが,平安時代初期に最澄,空海をはじめとする入唐八家によって,中国の密教法具が伝えられた。密教の隆盛とともに各流派の分派により法具の形式ばかりでなく,配置の方法などに特有の修法が行われた。

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