科学写真(読み)かがくしゃしん

改訂新版 世界大百科事典 「科学写真」の意味・わかりやすい解説

科学写真 (かがくしゃしん)

写真の物理・化学的,あるいは技術的特性を利用し,測定,解析の媒介として供する写真。感覚の主観性を排し,精密正確,客観的な記録資料を得る認識手段。対象の記録とともに長さ,面積,時間,照度の測定を目的として撮影するが,レンズなどの光学系,露光,感光物質,現像処理の各場面において,きわめて高い精度が要求され,これが一般の写真と違う科学写真の特徴的な一側面となっている。科学写真の始まりを顕微鏡写真に例をとると,1840年にフランスの科学者ドネAlfred Donnéが早くもダゲレオタイプで顕微鏡写真を撮影し,45年には《ドネの顕微鏡講義》に80枚の図版をアクアチント法による銅版画にして公刊している。顕微鏡の発明(1590)以来,銅版画にしたスケッチは少なからず発表されていたが,空想による恣意(しい)的な解釈が混ざり合い,資料としての客観性を欠くものが多かった。写真による図版で,初めて価値のある科学的な資料として供用することができたのである。

 科学写真を機能面の特性から分類すれば,(1)目視レベルの事物記録,(2)写真測量,(3)光学像の記録,(4)時間像の記録,(5)不可視線の記録とすることができる。これは方法の分類でもあるから,研究目的によって各項は複合するのがふつうである。原子核写真(粒子線写真)のように素粒子研究固有の方法もあり,これは(4)(5)にかかわりながら,なお,きわめて限定的な方法であり,通常こうした特殊な写真を科学写真と呼ぶことが多い。(2)の写真測量というとき,広義には被写体の位置,形状を測定する技術をいうが,ふつうは地表面を対象とする場合をいう。空中写真と地上写真によるものがあり,種々の方法で図化されて測量の資料となり,あるいは地図が製作される。写真測量法の応用として,X線による人体の調査,雲や雷光のように動く現象の測定,犯罪現場の記録法,考古学への利用などがある。(3)の場合,例えば天体望遠鏡は一般のカメラと同じく光学像の記録装置であるとしても,明らかに単一目的に使用される特殊装置である。顕微鏡や分光撮影装置(分光写真)なども同様で,この分野の光学機器は種類が多い。天体撮影では星のスペクトルの研究や,位置の測定,明るさ(等級)の測定など,写真(天体写真)によって初めて研究が可能になる。ホログラムによる立体像,魚眼レンズやパノラマカメラによる空間の解析,ガストロカメラによる消化器官内部の観察なども代表例といえる。(4)は時間によって変化する現象を記録する方法で,(a)光(線)エネルギーの蓄積,(b)視覚域をこえた高速度・低速度現象の観察,(c)軌跡写真がある。(a)は天体撮影における長時間露光を代表とする方法で,微量の光エネルギーを確認する有効な手段となっている。(b)は映画のコマ落し,あるいはスローモーション撮影でよく知られている方法。また特殊なスリットカメラによる連続写真は,分解能力が高いので定量測定に利用される。(c)は運動体の速さ,方向,加速度の調査によく利用される方法で,流体力学の研究ではアルミ粉や煙の軌跡を水槽や風胴を使って撮影する。(5)は可視光線以外の電磁波を利用する撮影法。赤外線(赤外線写真),紫外線(紫外線写真),X線(X線写真),γ線,β線の利用がおもなもの。可視光線ではあるが,シュリーレン写真や偏光写真も,電磁波の特徴を巧みに利用した観察方法となっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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