昔話。親切を施した人が、思いがけない謝礼を得ることを主題にした致富譚(たん)の一つ。年の暮れに、爺(じじ)が、正月の買い物をするために、婆(ばば)の織った布を売りに行く。途中、道端の地蔵が雪をかぶっているのを見る。爺は、布を売った金で笠を買い、地蔵にかぶせて帰る。婆も喜ぶ。夜中に地蔵がお礼に金銀を持ってくる。爺と婆は、それでよい正月を迎えることができる。雨にぬれている観音に笠をかぶせてやった娘が幸せをつかむという話は、各地の寺院の縁起としても知られている。名古屋市南区笠寺町の笠覆寺(りゅうふくじ)は通称を笠寺といい、その縁起は、古浄瑠璃(こじょうるり)の『笠寺観音御縁起』(1677ころ)にもなっている。「竜宮童子」の昔話も、年の暮れに門松を海に投げ入れた人が、竜宮から、金を体から出すことのできる童子をもらう話であるが、「笠地蔵」にも、地蔵の体から米が出たという話がある。これらは、新年には異郷と一体化できるという観念を基盤にした説話である。年越しの夜に来訪者を親切にしたために富を得る昔話は、ほかにもある。泊めてやったみすぼらしい旅人が、元日の朝は金塊になっていたという「大歳(おおどし)の客」の昔話や、火種をもらうかわりに、棺桶(かんおけ)を預かったら、中身は金であったという「大歳の火」の昔話などがある。年越しの夜には神の巡遊があるという信仰を背景にした昔話で、「笠地蔵」の昔話も、笠を神仏に贈る親切の趣向が、年越しの夜の神巡遊の説話に結び付いたものであろう。この種の神の巡遊を主題にした昔話は、ヨーロッパではキリスト教的な宗教譚として発達しているが、非キリスト教地域の東アジアにも広がっている。
[小島瓔]
昔話。無欲な爺が笠をかぶせた地蔵から幸運を授けられる話。地蔵の数や爺の職業は一定していないが,沖縄を除く日本各地に分布する。これは地蔵信仰の普及と関係があろう。貧乏な爺が正月用品を調達に行く途中,雨にうたれる地蔵を見る。地蔵に笠を献納して無一文で帰る。大晦日の夜更けに地蔵が正月の餅や薪を運んできて,爺の家の前に積み上げていくと語られる。この昔話の筋は,大晦日訪れるとされる神の姿と重なるものであり,地蔵の笠は正月神のあかしの被り物(かぶりもの)ともみられている。地蔵の形をとりながら,この昔話が〈大歳(おおとし)の客〉に分類される理由もそこにある。貧乏な爺が,大晦日を境にして米,餅,薪,金銀などに恵まれた福富爺に一変すると語られるのは,大晦日に幸運招来や運命の転換が果たされると信じた素朴な古人の心意をうつしたものであろう。この昔話を寺伝にする笠寺,笠覆寺がある。
執筆者:野村 敬子
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