音取(読み)ネトリ

デジタル大辞泉 「音取」の意味・読み・例文・類語

ね‐とり【音取】

音楽演奏する前に、楽器音調を試みるための、短い一種序奏神楽雅楽能楽などで、多くは笛を主に行われる。
雅楽で、管弦合奏の始めに作法として行う一種の序奏。楽器の音調を整え、雰囲気を醸成する。

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精選版 日本国語大辞典 「音取」の意味・読み・例文・類語

ね‐とり【音取】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 演奏に際して、笛の調子を基準に、楽器や声の音程を決めること。
    1. [初出の実例]「口伝云、鞨鼓、三鼓、禰取者奏乱声之間為之」(出典:教訓抄(1233)一)
    2. 「ときの調子は大事のものにて候に、たれにかねとりをふかせばや」(出典:義経記(室町中か)六)
  3. 雅楽の管弦などの際、初めに作法として行なう序奏。楽器の音調を整えることから、雰囲気を出す一定の型のきまった作法的なものになった。演奏する楽曲の調子によって違う。唐楽(左方)では、笙・篳篥・笛・羯鼓琵琶・箏の順、高麗楽(右方)では、笛・篳篥の順で参加する。〔教訓抄(1233)〕
  4. 能楽の笛の特殊な奏法の一つ。普通、ワキ登場の際に小鼓の特殊奏法「置鼓」と組み合わせて演奏される。また、能「清経」の小書(特殊演出)の名。〔日葡辞書(1603‐04)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「音取」の意味・わかりやすい解説

音取 (ねとり)

日本音楽の曲名。ただし,この名をもつ曲はいくつもあり,かつ,いずれもごく小規模,あるいは独立性が稀薄である。

 雅楽には,唐楽六調子の音取その他がある。六調子の音取は各調子に一曲ずつあって,いずれも各調の《調子》(楽曲としての調子)を小規模にしたものである。最初に笙(しよう)と篳篥(ひちりき)の二重奏があり,そのあと竜笛(りゆうてき)と羯鼓(かつこ)の二重奏がつづく。琵琶,箏がある場合はさらにそのあとに両弦の二重奏が加えられる。終始,拍の規定されないリズムで奏するこの音取は,管絃の催しに際して,番組の冒頭に奏されるもので,三管(笙,篳篥,竜笛),両弦(琵琶,箏)の各奏者が複数いるときは,いずれも主席奏者のみが演奏する。音取は,六調子それぞれの旋り(めぐり)(旋律の動き方)のもっとも特徴的な部分によってできているため,そのあとに演奏する曲が属する調子の雰囲気をあらかじめ用意する効果をもっているが,元来は,楽器の状態を調べる作法であったといわれている。なお,音取という言葉は管楽器に関連して用いられるのが本来で,上記の音取においても,両弦の声部は七撥(ななばち)/(ななつばち),爪調(つましらべ)という。そのほか,雅楽には,舞楽で用いられる音取として《沙陀調音取》《迦陵頻(かりようびん)音取》《抜頭(ばとう)音取》《還城楽(げんじようらく)音取》(以上唐楽),《小(こ)音取》《高麗平調(こまひようぢよう)音取》《高麗双調音取》(以上高麗楽)などがある。これらは,冒頭に〈調子〉を奏さない舞楽では最初の当曲の前奏として用い,一つの当曲の次にそれとは別の調子の当曲が配されている舞楽では,あとのほうの当曲の前奏として用いる。構成声部は管楽器と羯鼓(左方(さほう))または三ノ鼓(右方(うほう))で,管楽器は主席奏者による独奏である三管,あるいは篳篥と高麗笛がいっしょに吹き合わせる点が,六調子の音取とは異なる。さらに神楽にも和琴(わごん),篳篥,神楽笛による固有の音取が奏される。

 能においては,能管に音取という旋律がある。これは,高音(たかね)とか六ノ下(ろくのげ)などという名をもつ数節からなる非拍節的な旋律で,小鼓の置鼓(おきつづみ)(特殊な囃子事の一つ)と合奏される。合奏法は,まず能管の第1節,小鼓の第1節,能管の第2節,小鼓の第2節というような交互演奏で始まり,やがて両者の併奏になって同時に終止する。能の囃子のなかでも,きわめて特異な構造になっている。《翁》付脇能のほか,老女物やとくに重要な小書(こがき)付きの能の冒頭に一曲の序曲として用いられる。そして曲柄に応じたいくつかの旋律があって,〈真(しん)ノ音取〉〈鬘(かつら)ノ音取〉などという名称が用いられる。そのほか,特別なものとして〈恋ノ音取〉があり,これは《清経》の能に〈恋ノ音取〉という小書がついたときに,シテ・清経の霊の登場に用いられる。これは小鼓なしの能管の独奏曲で,笛方は常の位置より少し前に出て橋掛りのほうに向かって,静かに吹き出す。するとシテが姿を見せるが,能管が吹き止めるとシテの動きも止まり,深い静寂だけが舞台に広がる。再び能管の音とともにシテは動くともなく舞台に近づいてくる。その繰返しは独特の効果をあげるのであり,恋ノ音取は,笛方のもっとも重い習(ならい)になっている。

 歌舞伎囃子にも能管に同名の旋律がある。ただし,この場合は〈寝鳥〉と書く。ポルタメントで山型に上下行するもので,多くは大太鼓のドロドロといっしょに,幽霊や妖怪の登場する場面に用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「音取」の意味・わかりやすい解説

音取
ねとり

(1)雅楽で用いる前奏曲。「禰取」とも書く。比較的短い無拍節の曲で、これから演奏する曲(これを「当曲」という)の調子を知らせる。各楽器の主奏者によって奏され、楽器の音合わせの役割も兼ねる。唐楽管絃(かんげん)では笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、横笛(おうてき)、鞨鼓(かっこ)、琵琶(びわ)、箏(そう)によりかならず当曲の前に奏され、「壱越(いちこつ)調音取」「平調(ひょうじょう)音取」など、雅楽の六調子に1種ずつ固有のものがある。唐楽舞楽では特定の曲に限って定められ、『陵王(りょうおう)』に対して「沙陀(さだ)調音取」(単に「陵王音取」とも)、『迦陵頻(かりょうびん)』に対して「迦陵頻音取」などがある。高麗楽(こまがく)では篳篥、高麗笛、三(さん)ノ鼓(つづみ)により奏され、高麗壱越調の音取として「意調子(いじょうし)」とそれを簡約した「小音取(こねとり)」、そのほか「高麗平調音取」「高麗双調(そうじょう)音取」がある。神楽歌(かぐらうた)、久米(くめ)歌、大和(やまと)歌などでは笛と和琴(わごん)によって奏される。

(2)能楽で、曲の初めのワキ登場の際に能管1本で奏される囃子(はやし)。小鼓(こつづみ)の「置鼓(おきつづみ)」とともに演奏される。翁付(おきなつき)能楽ではかならず奏される。

(3)歌舞伎(かぶき)の下座(げざ)音楽で演奏される能管の旋律。通常「寝取」と書き、幽霊などが出るときに大太鼓の「どろどろ」にかぶせて吹かれ、不気味な効果を出す。

[橋本曜子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「音取」の意味・わかりやすい解説

音取
ねとり

雅楽のなかの管弦において行われる一種の「音合せ」。音取の規模を大きくしたものに「調子 (ちょうし) 」「品玄 (ぼんげん) 」などがある。各楽器の音頭が担当する。のちにそれが芸術的,形式的に高められて,演奏の形態も一定し,また楽曲の演奏に先立って,必ず奏されるようになった。六調子に一種ずつあり,たとえば壱越 (いちこつ) 調の楽曲の前には壱越調の音取を奏する。重奏の形式は初めに笙 (しょう) と篳篥 (ひちりき) が重奏し,篳篥の旋律が終らないうちに竜笛 (りゅうてき) と羯鼓 (かっこ) が奏し,竜笛のパートを受継いで最後に篳篥と琵琶が掛合う。なお,高麗 (こま) 楽にも音取のたぐいが存するが,演奏の形式は異なる。また神楽など儀式音楽における音取は合音取 (あわせねとり) というが,演奏の形式は異なる。

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百科事典マイペディア 「音取」の意味・わかりやすい解説

音取【ねとり】

雅楽の管弦の演奏で,音律を調整し,その調子の雰囲気を準備する小曲。調律方法が形式化して曲になったもの。
→関連項目調子

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世界大百科事典(旧版)内の音取の言及

【管絃】より

…これらが,前述した御遊の催しのなかで生まれたことはいうまでもない。(1)音取(ねとり) その日の演奏会で行われる曲の調子を宣し,あわせて演奏者同士の音合せを行う短い曲である。唐楽のスタイルと楽器編成をもつ管絃ではつねに唐楽の六調子,すなわち壱越調(いちこつちよう),平調(ひようぢよう),双調(そうぢよう),黄鐘調(おうしきちよう),盤渉調(ばんしきちよう),太食調(たいしきちよう)のいずれかが用いられる。…

※「音取」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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