舞楽装束(読み)ぶがくしょうぞく

改訂新版 世界大百科事典 「舞楽装束」の意味・わかりやすい解説

舞楽装束 (ぶがくしょうぞく)

日本の雅楽に用いる装束で,大別すると,日本古来の歌舞(うたまい)の舞人装束,管絃の装束,舞楽装束となり,一般にはこれらを総括して舞楽装束と称する。

歌舞とは,神楽(御神楽(みかぐら)),大和(倭)舞(やまとまい),東遊(あずまあそび),久米舞風俗舞(ふぞくまい)(風俗),五節舞(ごせちのまい)など神道系祭式芸能である。〈御神楽〉に使用される〈人長舞(にんぢようまい)装束〉は,白地生精好(きせいごう)(精好)の裂地の束帯で,巻纓(けんえい)/(まきえい),緌(おいかけ)の,赤大口(あかのおおくち)(大口),赤単衣(あかのひとえ),表袴(うえのはかま),下襲(したがさね),裾(きよ),半臂はんぴ)/(はんび),忘緒(わすれお),(ほう)/(うえのきぬ)(闕腋袍(けつてきほう)--両脇を縫い合わせず開いたままのもの),石帯(せきたい),檜扇(ひおうぎ)(),帖紙(畳紙)(たとうがみ),(しやく)を用い,六位の黒塗銀金具の太刀を佩(は)き,糸鞋(しかい)(糸で編んだ(くつ))を履く。手には鏡と剣をかたどった輪榊を持つ。歌方は衣冠単(いかんたん)(衣冠)で,履物は浅沓(あさぐつ)である。〈大和舞装束〉は,舞人は衣冠単で,一﨟(いちろう)・二﨟は五位の赤袍,三﨟・四﨟は六位の緑袍で,赤単衣,指貫(さしぬき),笏を持ち浅沓を履く。歌方は狩衣(かりぎぬ)である。〈東遊装束〉は,巻纓,緌の冠に,挿頭(かざし)(桜,山吹,撫子(なでしこ),菊等)をつけ,桐竹に雉(きぎす)の青摺の袍,肩に,蜷結(になむすび)板引の飾り紐をつけ,表袴は舞人のみ竹に雉の模様が摺ってあり,いわゆる陪従(べいじゆう)の装束,歌方は無地の白袴で,膝継ぎがある。ほかは人長舞装束とほぼ同じ。履物は,舞人は糸鞋,歌方は浅沓である。〈久米舞装束〉は,末額(まつこう)の冠(冠の額に赤い布を巻いてある)に赤の袍,靴氈(かせん)の深沓を履き,梨子地の太刀を用いるほかは人長舞装束とほぼ同じ。歌方は衣冠単である。〈風俗舞装束〉は,東遊装束とほぼ同じである。〈五節舞〉は女舞であり,髪を大垂髪にして金銀色の梅花,金蒔絵の櫛を飾り,装束は緋色に白と萌葱(もえぎ)色の唐花,尾長鳥を配した唐衣(からぎぬ)の下に,青と紫の袍を着用し,長袴をひき,蘇芳(そほう)色の扇を持つ。

管絃の奏者が着用する装束は,海松色直垂(みるいろひたたれ)といわれるもので,茶と緑の絹糸で織られた俗にいう玉虫色の精好(せいごう)地で仕立てられた直垂と袴で,直垂の背には菊綴(きくとじ)が3個ある。頭装は,精好紗に黒漆をかけ下部を白布で縁どりした〈揉立烏帽子(もみたてえぼし)〉で,履物はふつう牛革を黒漆で塗り固めた浅い形の〈烏皮沓(うひぐつ)/(くりかわくつ)〉を用いる。

唐楽とうがく),高麗楽(こまがく)等,外国から伝承した舞楽に用いる装束の総称で,襲(かさね)装束(別名唐(とう)装束,常(つね)装束とも),蛮絵(ばんえ)装束,別装束,童(わらべ)/(わらわ)装束の4種があり,それぞれに左方(さほう)(唐楽系),右方(うほう)(高麗楽系)の別があって,左方はおもに赤系統の色,右方は青・緑系統の色のものが多い。

(1)襲装束 中国唐代の遺制と思われるもので,舞楽の大半はこの装束を使用している。左方では,《春鶯囀(しゆんのうでん)》《賀殿(かてん)》《承和楽》《北庭楽(ほくていらく)》《安摩(あま)》《二ノ舞》(この曲では一﨟は左方,二﨟は右方を用いる),《万歳楽》《皇麞(おうじよう)》《甘州(かんしゆう)》《裹頭楽(かとうらく)》《万秋楽(まんじゆうらく)》《蘇合香(そこう)》《一曲(いつきよく)》《輪台(りんだい)》《振鉾(えんぶ)》等に,右方では,《新鳥蘇(しんとりそ)》《古鳥蘇(ことりそ)》《退走禿(たいそうとく)》《進走禿(しんそうとく)》《延喜楽(えんぎらく)》《仁和楽(にんならく)》《進蘇利古》《胡徳楽(ことくらく)》《皇仁庭(おうにんてい)》《綾切(あやぎり)》《地久(ちきゆう)》《蘇志摩利(そしまり)》《振鉾》等に用いられ,それらは,兜(甲)(かぶと),袍,下襲,半臂,忘緒,金帯(きんたい)(左方)または銀帯(ぎんたい)(右方),指貫,赤大口,踏懸(ふがけ),糸鞋,以上で一具となる。管方(かんかた)も襲装束を用いるが,袍は,羯鼓(かつこ),三ノ鼓の奏者のみが着用する。

(2)蛮絵装束 近衛府の官人の制服に由来するといわれ,興福寺,春日神社,法隆寺東大寺等の寺社で舞楽が行われたときに多く用いられた記録がある。古くは襲装束と並んで用いられていたようであるが,現在は曲目によって区別がある。左方では《五常楽(ごしようらく)》《春庭楽(しゆんでいらく)》《喜春楽(きしゆんらく)》《桃李花(とうりか)》《央宮楽(ようぐうらく)》《壱鼓》等,右方では《敷手(しきて)》《長保楽(ちようぼうらく)》《白浜(ほうひん)》《登天楽(とうてんらく)》等に用いられる。冠,蛮絵の刺繡(ししゆう)のある袍,下襲,表袴,赤大口,金帯または銀帯,笏,糸鞋,以上で一具となるが,特殊なものとして,《春庭花(しゆんでいか)》(《春庭楽》の二帖のときの曲名)の場合は,太刀も用いる。

(3)別装束 個々の曲に固有の装束で,左方では,《散手(さんじゆ)》《抜頭(ばとう)》《陵王》《胡飲酒(こんじゆ)》《蘇莫者(そまくしや)》《還城楽(げんじようらく)》《打球楽(たぎゆうらく)》《青海波》《採桑老(さいそうろう)》《太平楽》等,右方では,《貴徳》《還城楽》《抜頭》《納曾利(なそり)》《八仙》《林歌(りんが)》《陪臚(ばいろ)》等が別装束を用いる。このうち《青海波》《太平楽》《採桑老》《八仙》《林歌》以外は裲襠(りようとう)装束といわれる古代の貫頭衣(かんとうい)で袍の上に着用し,毛縁(けべり)と金襴縁(きんらんべり)とがあり,毛縁は《散手》《抜頭》《陵王》《胡飲酒》《蘇莫者》《還城楽》《貴徳》《納曾利》で用い,赤,茶,黄,紺の元白の染め分けでできた毛(生絹)で縁どられており,胸と背にある2個ずつの丸紋の中には,《陵王》は竜,《納曾利》は鳥,《抜頭》《散手》等は唐花の図案化されたものがそれぞれ織り出されており,唐織物である。金襴縁は金襴で縁どりされており,《打球楽》《陪臚》は赤地錦,《狛桙(こまぼこ)》《垣破(はんなり)》は萌葱地錦である。

(4)童装束 幼童の舞に用いる装束で,大人用の物をそのまま子ども用に小さく仕立ててあり,模様,布地等はすべて同じであるが,ただ面は用いず,天冠(てんがん)(左方は金銅金具,右方は銀銅金具で,唐草の透し彫があり挿頭花をさす),童髪(どうはつ)(70cmほどの黒長髪の鬘(かつら))をつける。《迦陵頻(かりようびん)》《胡蝶(こちよう)》《陵王》《納曾利》等で用いる。

(1)袍 《八仙》《林歌》《採桑老》に用いる袍と衣冠単以外はほとんど闕腋袍で続裾(つづききよ),左方は紅系,右方は縹(はなだ)色系,盤領(あげくび),広袖で,無地紗に窠(瓜)紋(かもん)が刺繡してある。《青海波》は波に千鳥,《陪臚》《狛桙》《打球楽》は無地紗,その他は顕紋紗(けんもんしや)で,四手雲(よつでぐも)または蔦唐草の地紋にそれぞれ窠紋が刺繡されている。その他では,《八仙》は鯉,《林歌》は鼠の刺繡がある。なお,走舞(はしりまい)の袍は筒袖で,袖先に露紐があり手首で結ぶようになっている。

(2)裲襠 前述のとおり毛縁,金襴縁(または錦縁)の2種あり,袍の上に着用して当帯(あておび)でしめる。

(3)半臂 襲装束半臂は袍の下に着用する袖の短いもので,垂領続(たれくびつづき)半臂という。三筋の菱の中に一つは鳳凰(ほうおう),一つは桐竹と唐草の刺繡があり,袖先は錦,忘緒で結ぶ。ほかに《青海波》《胡飲酒》等それぞれ固有の半臂がある。

(4)忘緒 半臂を着けるための帯で60cmほどの垂緒(たれお)。半臂と共布で同じ刺繡がある。

(5)下襲 半臂の下に着用するもので,桐竹唐草の白地紋綾に横菱を友禅染めし,その中に桐竹唐草を色糸で刺繡し,その他の白地のところには鉄線,桔梗(ききよう),唐草,花菱紋が色糸で刺繡してあり,衿と袖口に紅地綾,裾と前身,後ろ身の縁は錦である。《青海波》の下襲は白地綾に波の形が友禅染と5色の糸で刺繡されている。蛮絵の下襲は白の紋綾に亀甲の地紋があり,半臂は用いず,袍の下に着用する。

(6)袴 指貫と表袴(うえのはかま)がある。指貫は襲装束,裲襠装束に用いる袴で,裾にとおした打紐で足首をくくる。蛮絵装束,別装束の《八仙》《林歌》に用いる表袴は白の固地綾で,地紋は窠霰(かにあられ),裏は紅絹(もみ),左右二幅ずつ四幅仕立てである。

(7)赤大口 袴の下に履く物で,表裏地とも紅平絹,四幅仕立てで帯紐に飾紐があり,襞(ひだ)はない。

(8)腰帯(ようたい) 袍または裲襠の上に締める物で,石帯は黒漆塗牛革製で舞人装束と《採桑老》に用いられ,金帯は金銅製金具(巡方(じゆんぽう))を配したもので左方の装束に,銀帯は銀銅製金具を配したもので右方の装束に使用される。当帯は透し彫を施した金属板をちょうつがいでつないだ物,または金襴の一枚布の両端に飾り金具をつけた物等でいずれも装束によって左方,右方に区別され裲襠装束に使用される。

(9)踏懸(ふがけ) 襲装束全般と別装束の《青海波》の舞人が足につける俗にいう脚絆のようなもので,厚紙の上に金襴を張り裏は紅絹をつける。

(10)糸鞋(しかい) イグサ(藺草)で編んだ底を牛革でおおって白絹の組糸で編み上げた沓。舞人,管方はごく例外を除いて大方これを履く。

(11)鳥足(ちようそく) 白と紺の染め分けの綾地で脚絆様のもの。《迦陵頻》に用いる。

(12)烏皮沓(うひぐつ)/(くりかわくつ) 曲目によって牛革で作られた種々の沓があり,《胡飲酒》《新靺鞨(しんまか)》《採桑老》,また〈久米舞〉等で用いられる。

(13)頭装 兜(甲)(かぶと)は通常多く用いるものに鳥兜(甲)(とりかぶと)がある。厚紙に金襴を張り,鳳凰の頭にかたどったといわれる華麗な甲で裏は紅絹,左方,右方の別がある。ほかに別甲と称して曲目によって種々の甲がある。冠は有紋,無紋,末額(まつこう),唐冠(とうかんむり)とあり,それぞれ曲によって巻纓,垂纓(すいえい),平纓,緌を用いる。素材はすべて黒の羅か紗。天冠と童髪は童装束の項で述べた。牟子(むし)は金襴または綾の表地に平絹の裏地を張った頭巾風の物で,面をつけるときは必ずかぶるが,蔵面(ぞうめん)には用いない。

(14)舞具 太刀は《太平楽》《青海波》《陪臚》等に,《太平楽》《陪臚》は太刀のほかに鉾(ほこ)を,また《振鉾》は鉾のみを用いる。楯は《陪臚》に,棹(さお)は《狛桙》に,桴(ばち)は《陵王》《納曾利》《胡飲酒》《抜頭》等に用いる。また後参(ごさん)舞のときに持つ後参桴もある。白楚(ずばえ)は桴様のもので《蘇利古》に,拍子をうつ返鼻(へんび)は《青海波》に,薬袋(やくたい),鳩杖(はとづえ),下鞘(さげさや),下笹は《採桑老》に,球杖(ぎつちよう)と球子(きゆうし)は《打球楽》に,瓶子(へいし)と酒盞は《胡徳楽》に,木蛇(もくへび)は《還城楽》,銅拍子は《迦陵頻》,剪採花(とりばな)は《胡蝶》,埴玉(はにたま)は《垣破》,蓑(みの)は《蘇莫者》,ほかに檜扇,中啓(ちゆうけい),帖紙,笏,羽根(《迦陵頻》《胡蝶》)等がある。

《太平楽》には《秦王破陣楽(じんのうはじんらく)》の装束であったといわれる甲冑装束を用いるが,袍,袴の上に肩当て,肩喰(かたくい),帯喰(おびくい),胡簶(やなぐい),魚袋(ぎよたい),籠手(こて),脛当,鎧,兜を着装し,太刀を佩き鉾を持つ。

舞楽装束の着装には不袒(ぬがず),片肩袒(かたかたぬぎ),諸肩袒(もろかたぬぎ)の3態があり,不袒はそのまま,片肩袒は右肩に限り,諸肩袒は左右ともぬぐが,蛮絵装束には諸肩袒はない。東遊や《喜春楽》《白浜》等は舞の途中で不袒より片肩袒となる。なお,大曲はすべて諸肩袒である。

 以上雅楽に用いる装束は,時代の歴史とともに変遷を重ね,鎌倉から室町時代にかけて,ほぼ現在のものに近い形になったようである。古代日本の服装は,隋・唐の影響を受けて,いわゆる唐様であった。朝廷では冠位十二階の制定をはじめ服制を確立させるが,やがて平安時代に入りしだいに日本化が進むようになる。衣冠・束帯が行われ,強(こわ)装束に変わるなどである。雅楽の装束もこれと並行して同じように変遷し,隆盛期の鎌倉・室町時代にいたって現在のものに近い形でほぼ定着するのである。
雅楽 →管絃 →舞楽 →舞楽面
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「舞楽装束」の意味・わかりやすい解説

舞楽装束
ぶがくしょうぞく

舞楽装束は、芸能服飾のなかで舞踊衣装としての特徴を備えている。個々の役柄の個性を表すというよりも、舞の性質によって、その動きによる美しさを強調した類型的なものである。

 舞楽は7、8世紀ごろに大陸各地から伝わった音楽舞踊が、平安時代に、公家(くげ)社会の間で儀式宴遊の際に行われて、しだいに日本化したものである。こうした生育であるため、その音楽、舞踊ともに公家の性格をそのまま反映しており、その根幹となっている大陸系の要素が、しだいに和様化して公家文化となった縮図が、装束の形態や染織にもみられる。舞楽装束の文様は、有職(ゆうそく)文様が骨子になっており、丸文、窠(か)文、菱(ひし)文、唐花(からはな)文などが多く、これらがいずれも芸能衣装にふさわしく、華やかに大型化されたり、多彩に彩られたりしている。染織技術もいちおう公家の染織と同様に、錦(にしき)、綾(あや)、浮(うき)織物、刺しゅうなどが用いられている。とくに錦、浮織物、それに刺しゅうの使用が目だち、次に紗(しゃ)が多く用いられていることが注目される。ほとんどの袍(ほう)が紗地に刺しゅうで文様を表しているのは、舞楽が純粋に舞踊として、能の舞や歌舞伎(かぶき)の舞と異なって非常に動きの大きなものが多いこと、袍の裾(すそ)を後ろに長く引いて舞うために、さばきのよい、しかも軽やかな紗が選ばれたのだと思われる。

[神谷栄子]

左右の別

左(さ)(左方(さほう))は、赤、金を主調とした色を用いる。右(う)(右方(うほう))は、青(緑)、銀を主調とした色を用いる。

[神谷栄子]

形態上の種類

多少の例外があるが次の3種である。(1)常(つね)装束 平安朝風な袖(そで)の大きい袍を着る。常装束は唐(とう)装束ともいわれ、袍の色は、左は紅、右は緑、束帯の闕腋(けってき)の袍(ほう)に似た裾(きょ)の長い袍に、半臂(はんぴ)、下襲(したがさね)、大口(おおぐち)、表袴(うえのはかま)を着け、跗掛(ふかけ)(脛巾(はばき))、糸鞋(しかい)を履く。頭に鳥甲(とりかぶと)という裂(きれ)張りのはでなかぶりものを戴(いただ)く。たいていの場合は、袍の袖の片方を左右の別に従って肩脱ぎに着けるので、上体の片方に下着の刺しゅうの華やかな半臂や下襲が現れて効果的である。(2)蛮絵(ばんえ)装束 袍に蛮絵がついている。蛮絵装束は向かい獅子(じし)の丸紋を表に4個、背面に6個刺しゅうした袍を着ける。これはもと衛府(えふ)の官人の制服で、伶人(れいじん)(楽人)は元来衛府に属したものであったので、その服装が残って変化したものであろうといわれている。冠は巻纓(けんえい)冠で緌(おいかけ)をつける。袖を肩脱ぎにすることはほとんどない。袍の色は左は浅紫(うすむらさき)、右は黄色を用いる。(3)裲襠(りょうとう)装束 袖口をくくった袍の上に裲襠を着ける。裲襠は無袖(むしゅう)の貫頭衣系の短衣で、舞楽装束の裲襠には二つの種類がある。一つは錦の地に金襴(きんらん)や銀襴で縁をとったもので、武官の掛甲(かけよろい)の変化したものといわれ、一つは縁に毛総(けぶさ)飾り(たいていはヤク――チベットやヒマラヤにいる牛の一種――の毛が使われている)のついたもの。この毛総飾りのついた裲襠を着ける舞は、俗に「走りもの」といわれる比較的勇壮な激しい動作を含むもので、独り舞が多い(陵王、納曽利(なそり)、抜頭(ばとう)など)。袍も軽快な袖丈の短いもので、この袖をさらに手首のところでくくり、紐(ひも)で締めて用いる。袴は指貫(さしぬき)(衣冠、直衣(のうし)、狩衣(かりぎぬ)など着用時の袴と同種の丈の長い括緒袴(くくりおばかま))。袍はいずれも両脇(わき)のあいている闕腋の袍で、長い裾を後ろへ引いて舞う。装束が足にもつれたりするのを防ぐために、生地(きじ)には紗が用いられる。

[神谷栄子]


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