舞楽装束(読み)ぶがくしょうぞく

世界大百科事典 第2版の解説

ぶがくしょうぞく【舞楽装束】

日本の雅楽に用いる装束で,大別すると,日本古来の歌舞(うたまい)の舞人装束,管絃の装束,舞楽装束となり,一般にはこれらを総括して舞楽装束と称する。
[歌舞の舞人装束]
 歌舞とは,神楽(御神楽(みかぐら)),大和(倭)舞(やまとまい),東遊(あずまあそび),久米舞風俗舞(ふぞくまい)(風俗),五節舞(ごせちのまい)など神道系祭式芸能である。〈御神楽〉に使用される〈人長舞(にんぢようまい)装束〉は,白地生精好(きせいごう)(精好)の裂地の束帯で,巻纓(けんえい∥まきえい),緌(おいかけ)の,赤大口(あかのおおくち)(大口),赤単衣(あかのひとえ),表袴(うえのはかま),下襲(したがさね),裾(きよ),半臂(はんぴ∥はんび),忘緒(わすれお),(ほう∥うえのきぬ)(闕腋袍(けつてきほう)――両脇を縫い合わせず開いたままのもの),石帯(せきたい),檜扇(ひおうぎ)(),帖紙(畳紙)(たとうがみ),(しやく)を用い,六位の黒塗銀金具の太刀を佩(は)き,糸鞋(しかい)(糸で編んだ(くつ))をく。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

舞楽装束
ぶがくしょうぞく

舞楽装束は、芸能服飾のなかで舞踊衣装としての特徴を備えている。個々の役柄の個性を表すというよりも、舞の性質によって、その動きによる美しさを強調した類型的なものである。
 舞楽は7、8世紀ごろに大陸各地から伝わった音楽舞踊が、平安時代に、公家(くげ)社会の間で儀式宴遊の際に行われて、しだいに日本化したものである。こうした生育であるため、その音楽、舞踊ともに公家の性格をそのまま反映しており、その根幹となっている大陸系の要素が、しだいに和様化して公家文化となった縮図が、装束の形態や染織にもみられる。舞楽装束の文様は、有職(ゆうそく)文様が骨子になっており、丸文、(か)文、菱(ひし)文、唐花(からはな)文などが多く、これらがいずれも芸能衣装にふさわしく、華やかに大型化されたり、多彩に彩られたりしている。染織技術もいちおう公家の染織と同様に、錦(にしき)、綾(あや)、浮(うき)織物、刺しゅうなどが用いられている。とくに錦、浮織物、それに刺しゅうの使用が目だち、次に紗(しゃ)が多く用いられていることが注目される。ほとんどの袍(ほう)が紗地に刺しゅうで文様を表しているのは、舞楽が純粋に舞踊として、能の舞や歌舞伎(かぶき)の舞と異なって非常に動きの大きなものが多いこと、袍の裾(すそ)を後ろに長く引いて舞うために、さばきのよい、しかも軽やかな紗が選ばれたのだと思われる。[神谷栄子]

左右の別

(さ)(左方(さほう))は、赤、金を主調とした色を用いる。右(う)(右方(うほう))は、青(緑)、銀を主調とした色を用いる。[神谷栄子]

形態上の種類

多少の例外があるが次の3種である。(1)常(つね)装束 平安朝風な袖(そで)の大きい袍を着る。常装束は唐(とう)装束ともいわれ、袍の色は、左は紅、右は緑、束帯の闕腋(けってき)の袍(ほう)に似た裾(きょ)の長い袍に、半臂(はんぴ)、下襲(したがさね)、大口(おおぐち)、表袴(うえのはかま)を着け、(ふかけ)(脛巾(はばき))、糸鞋(しかい)を履く。頭に鳥甲(とりかぶと)という裂(きれ)張りのはでなかぶりものを戴(いただ)く。たいていの場合は、袍の袖の片方を左右の別に従って肩脱ぎに着けるので、上体の片方に下着の刺しゅうの華やかな半臂や下襲が現れて効果的である。(2)蛮絵(ばんえ)装束 袍に蛮絵がついている。蛮絵装束は向かい獅子(じし)の丸紋を表に4個、背面に6個刺しゅうした袍を着ける。これはもと衛府(えふ)の官人の制服で、伶人(れいじん)(楽人)は元来衛府に属したものであったので、その服装が残って変化したものであろうといわれている。冠は巻纓(けんえい)冠で(おいかけ)をつける。袖を肩脱ぎにすることはほとんどない。袍の色は左は浅紫(うすむらさき)、右は黄色を用いる。(3)裲襠(りょうとう)装束 袖口をくくった袍の上に裲襠を着ける。裲襠は無袖(むしゅう)の貫頭衣系の短衣で、舞楽装束の裲襠には二つの種類がある。一つは錦の地に金襴(きんらん)や銀襴で縁をとったもので、武官の掛甲(かけよろい)の変化したものといわれ、一つは縁に毛総(けぶさ)飾り(たいていはヤク――チベットやヒマラヤにいる牛の一種――の毛が使われている)のついたもの。この毛総飾りのついた裲襠を着ける舞は、俗に「走りもの」といわれる比較的勇壮な激しい動作を含むもので、独り舞が多い(陵王、納曽利(なそり)、抜頭(ばとう)など)。袍も軽快な袖丈の短いもので、この袖をさらに手首のところでくくり、紐(ひも)で締めて用いる。袴は指貫(さしぬき)(衣冠、直衣(のうし)、狩衣(かりぎぬ)など着用時の袴と同種の丈の長い括緒袴(くくりおばかま))。袍はいずれも両脇(わき)のあいている闕腋の袍で、長い裾を後ろへ引いて舞う。装束が足にもつれたりするのを防ぐために、生地(きじ)には紗が用いられる。[神谷栄子]

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