紀文大尽(読み)きぶんだいじん

改訂新版 世界大百科事典 「紀文大尽」の意味・わかりやすい解説

紀文大尽 (きぶんだいじん)

長唄曲名。1911年5月,長唄研精会で発表。作詞中内蝶二作曲4世吉住小三郎,3世杵屋(きねや)六四郎。吉原で豪遊する2代目紀伊国屋文左衛門が,江戸時代の元禄期に巨万の富を得た父紀文が,若き日に悲壮な決意をもって蜜柑(みかん)船で江戸に乗り込む夢を見る。夢からさめて一転して紀文の遊蕩的生態の描写,遊女几帳(きちよう)との色模様くどき,小判豆まき大尽舞をきかせる。音楽本位に構成されている演奏会用長唄。長い曲で調子も7回変わるが,変化に富みよくまとまっていて,明治・大正を通じての最高傑作の一つ。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「紀文大尽」の意味・わかりやすい解説

紀文大尽
きぶんだいじん

長唄(ながうた)の曲名。1911年(明治44)初演。中内蝶二(なかうちちょうじ)作詞、吉住(よしずみ)小三郎(慈恭(じきょう))と杵屋(きねや)六四郎(稀音家浄観(きねやじょうかん))の共同作曲。歌詞の内容は、2代目紀之国屋(きのくにや)文左衛門が吉原で豪遊中に酔って眠り込み、初代が暴風雨のなかを江戸へミカンを運んだ夢をみ、父親の築いた巨額の富を使い果たしている自分に気づくが、夢から覚めてもふたたび遊興にふけるというもの。曲の冒頭の「嵐(あらし)の合方(あいかた)」は一下りという独特な調弦で、荒れ狂う海の不穏な情景を3本の糸の不安定な音程感で表し、標題音楽的な発想が感じられる。

[茂手木潔子]

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百科事典マイペディア 「紀文大尽」の意味・わかりやすい解説

紀文大尽【きぶんだいじん】

長唄の曲名。中内蝶二作詞,4世吉住小三郎(後の吉住慈恭)および3世杵屋六四郎(後の2世稀音家浄観)作曲。1911年初演。初代紀伊国屋文左衛門の旗揚げと成功,2代文左衛門の廓(くるわ)でのはなやかな遊興などを物語風に描いたもの。歌舞伎から独立した演奏会用長唄を標榜(ひょうぼう)していたこの作曲者たちの代表作。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「紀文大尽」の意味・わかりやすい解説

紀文大尽
きぶんだいじん

長唄曲名。 1911年5月,第 96回研精会で開曲。作詞中内蝶二,作曲3世杵屋六四郎,4世吉住小三郎。初代紀伊国屋文左衛門のみかん船による江戸乗込みの苦心と,2代目の色模様,大尽舞を物語形式にうたい上げた傑作。「吉原の」が聞かせどころ。新形式の長唄として今日でも大いに流行。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「紀文大尽」の解説

紀文大尽
(通称)
きぶんだいじん

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
紀文大尽廓入船
初演
明治11.11(東京・市村座)

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世界大百科事典(旧版)内の紀文大尽の言及

【紀伊国屋文左衛門】より

…このほか,幕府の鋳銭事業を請け負ったと伝えられるが,上記の秩父銅山見分は,その銅銭鋳造事業と無関係ではなかろう。日常生活は贅をきわめ,遊里吉原などでも豪遊したため紀文大尽と称せられたが,宝永末年か正徳のころ材木商を閉業し,深川一の鳥居付近に隠棲,晩年は微禄した。山東京伝の《近世奇跡考》(1804成立)によれば,俳諧を宝井其角に学び千山と号し,1734年(享保19)4月24日没,法名は帰性融相信士,深川霊巌寺塔頭の浄等院に葬られたという。…

【吉住小三郎】より

…63年,吉住慈恭(じきよう)と改名。作曲には《鳥羽の恋塚》《醍醐の花見》などが,六四郎との合作には《紀文大尽(きぶんだいじん)》《神田祭》《お七》《みやこ風流》などがある。(5)5世(1908‐83∥明治41‐昭和58) 4世の子。…

※「紀文大尽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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