沖縄の伝統染色で、古く琉球(りゅうきゅう)王府の首里(しゅり)や浦添(うらそえ)を中心に、婦人の礼装、また神事のおりの服装として、摺(す)り入れの技法で染められたのがその起源といわれる。紅型は、もとは士族階級以上の人たちでなければ着られなかった。さらに、色や図柄、文様の大きさにも身分による規制があり、黄色地や、一つの模様の大きさが着物の縫い目を渡って構成される大模様(大柄)は王族のみ、次の大きさは貴族以上、士族は身分が低くなるほど小柄のもののみ着用できるというものであった。
裂地(きれじ)は、木綿、麻が主で、ときには絹が用いられ、それらの裂地に型紙を用いて糊(のり)を置き、これに顔料(がんりょう)や染料で彩色を加えた染物である。そのはでやかな色づかいは、明るい南の島の風土的な趣(おもむき)があふれている。模様には、明らかに本土から伝わったもの、その影響の多いもの、また中国風な織り文様を型染めに移したものもみられるが、それらと沖縄独得のものとが巧みに一体となった、いわゆる紅型調ができあがっている。紅型というと、通常この型染めをさすが、沖縄には、このほかに、手描きで糊を置いて、大形の風呂敷(ふろしき)や幕などを模様染めする手描き友禅風な染色があり、これも紅型のなかに含めていわれる。この伝統的な染色も、第二次世界大戦で沖縄本島が荒廃した1945年(昭和20)以降、その技術の存続も危ぶまれたが、さいわい熱心な中堅作家たちの並々ならぬ努力によってしだいに復興し、ふたたび沖縄を代表する染色として、衣料はもとより、室内装飾や調度品など広範囲に及び、その需要も多くなった。
紅型技法の主要な特色としては、次の諸項があげられる。(1)下絵 図案は、季節を問わない四季の風物が、一枚の紅型図案に組み込まれることが多く、沖縄人のおおらかさと、南国特有の芳香が漂っている。(2)型紙 型紙の下にルクジュ(豆腐を陰干ししたもの)を当てがい、下絵に沿って小刀で突き彫りする。この技法は、手彫りの温かさを感じさせ、さらには立体感を与える紅型の特徴にもなっている。また一枚型の特徴があり、どのように多彩な模様も一枚の型紙で、糊置き、色差し、ぼかしを行う。(3)型置き 糠(ぬか)と糯米(もちごめ)とを混ぜた防染糊を、型紙を当てがった裂地の上に置く。型紙を使わない筒引き(手描き)は、糊袋の筒先から糊を押し出し、手描きで行うため、型紙ではみられない力強い迫力が染め上がった製品に現れる。(4)色差し 染色は顔料をおもに用い、模様の部分に色差しを行う。(5)隈(くま)取り 色差しのあと、その上に隈取りというぼかし染めを施すのが原則になっている。この隈取りの技法は図案全体を引き締めて、立体感を盛り上げるのに役だっている。
[神谷栄子]
『渡名喜名編『紅型』(1980・京都書院)』▽『藍書房編『紅型』(1976・泰流社)』▽『浦野理一著『紅型・藍型』(1975・文化出版局)』
沖縄の型染。藍一色で染める藍型(あいがた)/(えーがた)に対して赤,黄,緑,紫等の多色の型染をいう。この名称は古くはなく,昭和初期に伊波普猷(いはふゆう)が初めて用いたとされる。紅型の技法は15世紀半ばころには琉球国ですでに行われていたが,琉球の地理的関係から日本の型染,中国・南方の印金(いんきん)の技法など相互の交流によって成立発展したものとみられる。紅型は型紙の大きさによって3種に分けられる。(1)大(おお)模様型 奉書全紙の大きさで,絵画的な大模様のもの。この型を数枚一組として着物全体に広がる絵模様を構成するものを鎖(くさり)大模様型という。大模様は原則として王侯貴族の所用に限られ,一般には舞踊衣装のほかは用いられない。ことに地色が黄色のものは首里王家の専用であった。(2)中手(なかで)模様型 奉書全紙の3分の2を用いた三分二(さぶに)中手と半截とがある。(3)中(ちゆう)模様型と細(こま)模様型 奉書の4分の1の大きさである。
奉書に柿渋を引いて型紙を作るが,水の吸収がよく彫りやすい。型紙は首里北方の浦添地区で彫られる浦添(うらしい)型と首里の知念家に伝えられる唐紙型がある。染法は長板に布をはり,型紙をあてて防染のり(糊)(もち粉とぬかに石灰と塩を適量まぜる)を引き,染料を筆で塗り込んでいく。下塗りが終わると上塗りを重ね,隈取り(暈(ぼかし))を行いミョウバンで色止めをして水洗する。色ざしには紅型特有の人毛の筆を用いる。型紙は原則として1枚であるが,彩色した模様の上へ伏せのりを施すときに用いる伏せ型と,一度型置きをした上へさらに地文を置くために用いる朧(おぼろ)型など合せ型の場合は2枚用いる。型紙が使いきれない大模様の場合,たとえば大ぶろしきに大きな紋様を染める場合などは筒のりを用いて描き染をする。1回ののり置きで地色をさしたものを染地紅型,模様の部分だけを色ざししたものを白地紅型という。生地は王侯貴族用はちりめん,綸子(りんず),平絹(ひらぎぬ),麻,庶民は木綿地を用いた。紅型は元禄(1688-1704)ころ日本へもたらされ,珍重された。現代では東京,静岡などでも製作され,絹地に伝統模様や創作の新柄もあり,着尺,帯などに用いる。
執筆者:伊藤 敏子
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…また,肉用牛を中心とする畜産も盛んになってきた。伝統的な特産品工業の泡盛,紅型(びんがた),陶器,漆器などは首里,那覇に生産地がある。南風原(はえばる)町の絣,大宜味(おおぎみ)村の芭蕉布,久米島のつむぎ,宮古・八重山の上布などは特産品である。…
…たとえば古くは加賀の梅染など,近世以降では八丈島の黄八丈に用いる椎の皮やまだみ(犬樟(いぬぐす))の樹皮,藎草(こぶなぐさ)(八丈刈安)など,また秋田八丈の玫瑰(はまなす)の根などである。沖縄ではテリハボクの近縁種の福木(ふくぎ)の樹皮から得られる強烈な黄が,紅型(びんがた)に光彩をそえる必須の染料とされる。 なお植物染料は染料としての働きとともに,かつては薬用の効能も非常に大切にされてきた。…
※「紅型」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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