納税の義務(読み)のうぜいのぎむ

改訂新版 世界大百科事典 「納税の義務」の意味・わかりやすい解説

納税の義務 (のうぜいのぎむ)

国家の構成員である国民は国の費用を分担する責任を有し,そのため,当然に納税義務を負う。しかし他方で国民は無条件に納税の義務を負うわけではない。すなわち中世国家においては国王がしばしば課税権を恣意的に行使し,そのため封建領主や市民階級の不満が高まったが,それが市民革命の引き金となって〈議会の同意がなければ課税されない〉という原則租税法律主義)が確立し,さらにそれが今日の議会主義成立を促す端緒となった。こうして納税の義務は,課税権の行使に同意する国民の権能参政権と対をなすものと考えられてきたのである。日本国憲法30条も〈国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負ふ〉と規定し,国民が納税義務を負うことを再確認するとともに,それが法律の定める範囲内に限られることを明らかにしている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「納税の義務」の意味・わかりやすい解説

納税の義務
のうぜいのぎむ

国民の租税負担を理念的に確認し、日本国憲法(30条)が基本義務として掲げたもの。納税の義務は、明治憲法(21条)にもみられるように、兵役と並ぶ古典的義務の一つであり、規定の有無にかかわらず、国を維持する費用の分担として、国民は当然有するものと解される。当初マッカーサー草案にこのような規定はなく、議会における審議時に、人権宣言中の権利・義務のバランス保持という考えから挿入された経緯は、このことを証している。そのため、この規定の重点は、納税の義務が財産権に対する一種の制限でもあり、公平に「法律の定めるところにより」課されるとする点(租税法律主義=84条)にあるととらえる人もいる。なお、納税の義務は、国税通則法(15条)が定める具体的、現実的な租税債務の納付義務(納税義務)とは別である。

[佐々木髙雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「納税の義務」の意味・わかりやすい解説

納税の義務
のうぜいのぎむ

租税を納める義務をいい,日本国憲法は「国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負ふ」 (30条) と定める。ここに「法律の定めるところにより」とは,日本国憲法が別に 84条で定める租税法律主義と同じで,課税の条件は主権者・国民の直接代表たる国会により法律という形式で定められなければならないという趣旨と解される。

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