改訂新版 世界大百科事典 「納税の義務」の意味・わかりやすい解説
納税の義務 (のうぜいのぎむ)
国家の構成員である国民は国の費用を分担する責任を有し,そのため,当然に納税の義務を負う。しかし他方で国民は無条件に納税の義務を負うわけではない。すなわち中世国家においては国王がしばしば課税権を恣意的に行使し,そのため封建領主や市民階級の不満が高まったが,それが市民革命の引き金となって〈議会の同意がなければ課税されない〉という原則(租税法律主義)が確立し,さらにそれが今日の議会主義の成立を促す端緒となった。こうして納税の義務は,課税権の行使に同意する国民の権能や参政権と対をなすものと考えられてきたのである。日本国憲法30条も〈国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負ふ〉と規定し,国民が納税義務を負うことを再確認するとともに,それが法律の定める範囲内に限られることを明らかにしている。
執筆者:畠山 武道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報