細男(読み)セイノウ

デジタル大辞泉 「細男」の意味・読み・例文・類語

せい‐のう〔‐ナウ〕【男/男】

《「のう」は「男」の字音「なん」から》
御神楽みかぐらで、人長にんじょうの舞のあと、こっけいな物まねをした人。
平安時代ごろから、神社の祭礼御霊会ごりょうえなどで、特殊な舞をまった人。また、その舞。現在、奈良春日若宮御祭おんまつりで行われる。さいのう
八幡系統の神社の祭礼などで、行列先頭に立つ人形

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精選版 日本国語大辞典 「細男」の意味・読み・例文・類語

せい‐のう‥ナウ【細男・才男】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「のう」は「男」の呉音「なん」から )
  2. 神楽(かぐら)で、人長(にんじょう)の舞の後、余興として滑稽なわざを演ずる人。また、その舞。
    1. [初出の実例]「大神の御心をとらんとて、神楽を奏し、せいなうを始め給ふ」(出典:風姿花伝(1400‐02頃)四)
  3. 能楽の翁の特殊な演じ方の一つ。三番叟の演技で、揉(もみ)の段の舞の後、鈴の段に移る際の謡および詞に特徴がある。
    1. [初出の実例]「父の尉の舞、延命くゎんじゃ、こうの舞、十二月の往来、ほうゑの舞、せいのう、色々六十六番のならひあり」(出典:わらんべ草(1660)一)
  4. 平安時代頃から、神社の祭礼や御霊会(ごりょうえ)などで舞を舞った舞人。また、その舞。現在、奈良の春日若宮の御祭で行なわれているものは、白丁姿で、六人のうち二人は笛を吹き、二人は腰に鼓をつけ四人で舞う。さいのう。ほそおとこ。
    1. [初出の実例]「紫野御霊会也。東西二京条坊、十列細男已有其数」(出典:日本紀略‐寛弘二年(1005)五月九日)
  5. 山城国(京都府)山崎の離宮八幡、宇佐八幡などの祭礼や、京都の御霊会などの行列の先駆の人形。
    1. 細男<b>④</b>〈年中行事大成〉
      細男〈年中行事大成〉

さい‐のう‥ナウ【細男】

  1. 〘 名詞 〙 奈良の春日神社の若宮の祭などで、神楽舞を奏する者。せいのう。ほそおとこ。
    1. [初出の実例]「奈良の神子(みこ)、細男(サイナウ)氷室付(ひむろつき)楽人」(出典:俳諧・本朝文選(1706)二・賦類・南都賦〈汶邨〉)

ほそ‐おとこ‥をとこ【細男】

  1. 〘 名詞 〙 奈良の春日祭や京都祇園の御霊会などに、奏楽をする覆面の楽人。せいのう。
    1. [初出の実例]「御霊会のほそおとこのてのごひして顔隠したる心地するに」(出典:栄花物語(1028‐92頃)若ばえ)

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改訂新版 世界大百科事典 「細男」の意味・わかりやすい解説

細男 (せいのう)

古代・中世の祭礼芸能。声納,青農,精農などとも記し,〈さいのお〉〈くわしお〉などとも読む。大社寺の祭礼に巫(みこ),師子舞,田楽(でんがく),王の舞,十烈(とおつら),猿楽などとともに出た芸能で,《栄華物語》巻二十四に,〈御霊会の細男の手拭して顔隠したる心地するに〉とあるように,その芸態は,烏帽子姿の者が白布で顔を隠し,胸につけた鼓を打つ。平安時代末の姿を伝える《年中行事絵巻》の祇園御霊会の図中に,馬乗姿が描かれている。細男が顔を隠すことは《八幡愚童訓》に次の説話が載る。

 神功皇后三韓攻略のおり,竜宮より干珠満珠(ひるたまみつたま)を借りるため常陸の海より礒(磯)良(いそら)を呼び出すことになり,神遊びをする。礒良は出現にあたり,顔の醜いのを隠すため,浄衣(じようえ)の袖を解いて顔を覆い,首に鼓をかけて細男舞を舞って現れたという。この話と宮廷の御神楽(みかぐら)の〈阿知女作法(あじめのさほう)〉を結びつけ,細男を御神楽のおりの〈才の男(ざいのおのこ)〉の転とする説もあるが,批判的見解が多い。現在奈良春日若宮の御祭(おんまつり)に出る細男は,浄衣・白覆面・烏帽子姿の者6人が1組で,鼓打ち2,笛吹き2,他の2人は無手で舞う。福岡市東区志賀島の志賀海(しかのうみ)神社の《磯良の舞》は,白覆面の者1人が羯鼓(かつこ)をつけて出る。福岡県吉富町の八幡古表(はちまんこひよう)神社や大分県中津市の古要(こよう)神社では傀儡(くぐつ)と称する古い人形が白布を顔に垂らして磯良を舞うが,別に冠姿の細男も出る。奈良県談山神社,京都府乙訓(おとくに)郡大山崎町山崎離宮八幡宮の人形の細男も冠姿であるが,舞などの所作はない。
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細男 (さいのお)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「細男」の意味・わかりやすい解説

細男
せいのお

古舞の一つ。青農、声納とも書き、「さいのお」ともいう。細男の由来については不明な点が多いが、海中をつかさどる神である磯良(いそら)の伝説と結び付いているために、多くその側面から論じられている。伝説によると、磯良は顔が醜かったので浄衣(じょうえ)の袖(そで)で顔を覆い首に鼓をかけて海中より出てきたという。『栄花物語』には「御霊会(ごりょうえ)の細男の手拭(てぬぐい)して顔隠したる」とあり、平安時代の細男は御霊会と関係があったと思われる。1136年(保延2)に始まると伝わる春日(かすが)若宮おん祭における細男は、その姿をいまによく伝えている。烏帽子(えぼし)・白浄衣・白覆面の6人が出て、2人は笛を吹き、2人は腰鼓(ようこ)を両手で打ち、他の2人は覆面の上を右袖で覆い舞い進む。白覆面と鼓は細男を特色づけているが、福岡市志賀島(しかのしま)八幡志賀海神社の磯良羯鼓(かっこ)の舞も細男であろう。また細男は人形にもみられ、福岡県築上(ちくじょう)郡吉富(よしとみ)町古表(こひょう)神社、大分県中津市伊藤田の古要(こひょう)神社には細男の傀儡(くぐつ)人形が伝承されている。細男と才(ざえ)の男(おのこ)が同一であるという説は、これを証する史料が見当たらないことから、この両者は異なるともいわれている。

[高山 茂]

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百科事典マイペディア 「細男」の意味・わかりやすい解説

細男【せいのお】

古舞の一種。〈さいのう〉〈ほそおとこ〉〈くわしお〉とも読み,才男,青農とも記す。春日若宮の御祭(おんまつり)では白い衣を着し,白い布で顔を覆った6人(笛2人,腰前に下げた鼓2人,所作2人)によって演じられる。このほか福岡県吉富町の古表(こひょう)神社では操(あやつり)人形によって神舞,神相撲が行われる。せいのおの意味は不明で,満珠乾珠の秘宝を神功皇后に送った海人安曇(あずみ)の磯良の故事によるともいう。

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世界大百科事典(旧版)内の細男の言及

【細男】より

…声納,青農,精農などとも記し,〈さいのお〉〈くわしお〉などとも読む。大社寺の祭礼に巫(みこ),師子舞,田楽(でんがく),王の舞,十烈(とおつら),猿楽などとともに出た芸能で,《栄華物語》巻二十四に,〈御霊会の細男の手拭して顔隠したる心地するに〉とあるように,その芸態は,烏帽子姿の者が白布で顔を隠し,胸につけた鼓を打つ。平安時代末の姿を伝える《年中行事絵巻》の祇園御霊会の図中に,馬乗姿が描かれている。…

【細男】より

…声納,青農,精農などとも記し,〈さいのお〉〈くわしお〉などとも読む。大社寺の祭礼に巫(みこ),師子舞,田楽(でんがく),王の舞,十烈(とおつら),猿楽などとともに出た芸能で,《栄華物語》巻二十四に,〈御霊会の細男の手拭して顔隠したる心地するに〉とあるように,その芸態は,烏帽子姿の者が白布で顔を隠し,胸につけた鼓を打つ。平安時代末の姿を伝える《年中行事絵巻》の祇園御霊会の図中に,馬乗姿が描かれている。…

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