複数の写真を組み合わせて,事物や意見,感情などを伝える一群の写真,あるいはその方法。グラフ・ジャーナリズムの手法として,〈--の一日〉とか〈--のできるまで〉などという形で常用されている。もともと一枚で見る写真は,それだけで完結することを目標に撮影される。だがその写真は一瞬間の情景が写るだけで,前後の時間的な関係は想像するほかはない。そうした想像過程が写真のイメージを豊かにする場合もあるが,厳密な時間の前後関係を伝えたいときは,時間帯を変えた複数の写真を用いるのが有効である。こうした手段により,現実的なイメージをいっそう豊かに喚起することができる。意識的に撮影された組写真として写真史上に名高いのは,ナダールPaul Nadar(1856-1939)が写した老化学者と父F.T.ナダールのインタビュー写真(1886)である。これは同じ位置から時間を違えて写した場面が,当時の新聞に13枚1組で掲載された。こうした時間の流れに沿った組合せ方は,組写真の基本的な方法の一つである。このほかに異なる空間をまとめて同時に見せる場合も,組写真独自の方法といえる。互いに異質な写真を組み合わせて叙事的な伝達をするのは,文章の構成に似たところがあると考えられ,〈起承転結〉という構成法や,視覚文法の提案もあったが,図像による伝達の場合は必ずしもそれはなじまない。むしろ共有する伝統や文化的背景によって生まれる文脈で構成し,イマジネーションによる写真相互の連結を計画するのがよい方法といえる。このときは創造的,直観的な発想が重要であり,いわばその組立て方自体が言語の文体と対応する構造となって内容を規定していく。そうした構成を助成する手段として,一枚,一枚の画面の大小,配列の順序,隣接する写真の相互効果,余白の効果など,レイアウトの問題が重要となる。またキャプションや題名などによる言葉の補足は,写真の機能の欠落部分を補ってその見方を導き,伝達内容を明確なものとする。そこでグラフ・ジャーナリズムでは,組写真にキャプションを用いるのが通例となっている。これに対して言語的補助手段をいっさい用いない方法や,直接関係のない文章の一節と組み合わせる方法などもある。組写真の方法自体が,各写真と密接な関係を保ちながら総体としての内容を形成してゆくのである。
執筆者:大辻 清司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一まとまりの内容を表現する意図をもって、2点以上の写真で構成される写真表現の形式。『ライフ』に代表されるグラフ・ジャーナリズムの発達とともに確立された形式で、複数の写真を順次配列することにより、単に見せる写真から一歩踏み出して、読ませる写真を志向したものである。この形式は、今日ではグラフ・ジャーナリズムのみならず、広く写真表現一般に浸透し、表現のより確かな伝達が図られている。
組写真は組まれる意図により次の二つに大別することができる。まず第一は連続写真と称されているもので、ある時間内に生起した現象を、原則として時間の流れに従って配列したものである。スポーツの分解写真がその典型的な例で、野生動物の生態写真などにもしばしば用いられる。いずれも客観的事実の伝達が重視される。第二は狭義に組写真とよばれている形式で、一点一点の写真を材料として一連のストーリー風な内容を表現しようというものである。この場合はフォト・ドキュメントのように客観的な素材によりながらも、制作者の主観的な意見の表明が重視されるケースが多い。また、特定のストーリー設定なしに組まれる組写真もあり、その場合はおもに叙情的な表現に深みを与えるためである。なお、雑誌などに連載される連作写真も一種の組写真と考えることができる。
[平木 収]
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