改訂新版 世界大百科事典 「経済と社会」の意味・わかりやすい解説
経済と社会 (けいざいとしゃかい)
Wirtschaft und Gesellschaft
《宗教社会学論集Gesammelte Aufsätze zur Religionssoziologie》とならぶM.ウェーバーの主著の一つ。彼が編集した《社会経済学講座Grundriss der Sozialökonomik》の基礎理論をなす1巻として構想されたが,生前に完成せず,遺稿が彼のプランに即して整理・編集され,1922年にようやく公刊された。死後編纂された書物に特有の問題が存在するが(たとえば,編集方針の変更により第3版と第4版とでは章別編成が大きく異なる),本書が彼の〈社会学的〉業績の集大成であることは疑いえない。〈社会学的範疇学〉と名づけられている第1部では,〈理解社会学verstehende Soziologie〉の立場が簡潔に表明され,その基礎概念が体系的に提示されている。支配・階級・身分などの現象は関与している個々の人間の行為に還元され,明確に再規定される。このような概念を用いて歴史上のさまざまな具体的事実を類型化し,類型間の因果的適合性を測定し,経験的規則性を抽出しようと試みるのが第2部〈経済と社会的秩序および力〉である。政治や宗教に代表される人間生活のあらゆる領域は,経済によって強力に規定されているにしても,自律性を決して失うわけではない。《経済と社会》という題名には,社会の経済に対する自律性という彼特有の〈経済社会学的見方〉がこめられている。経験的規則性は第2部で各領域ごとに検討され,〈固有法則性Eigengesetzlichkeit〉という形で定式化される。西欧における合理化の意義を解明するという彼の生涯のテーマからみると,《宗教社会学論集》は,本書が整備した〈法則的〉知識を活用して各文化圏ごとに因果帰属を行い,何ゆえに西欧を地盤にしてのみ合理化が起こったのかを解明するところに固有の意義がある。これに対し《経済と社会》の固有の貢献は,合理化の因果連鎖に関する個別的・具体的知識を,〈通文化的=理論的〉見地から整理・配列して,合理化をさまざまな文化圏を貫通する人類史的趨勢としてとらえ返すところに求められるだろう。
執筆者:厚東 洋輔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報