日本の経済白書は正式には《年次経済報告》と呼ばれ,経済企画庁が作成して内閣に報告する。経済白書は,1947年経済安定本部(経済企画庁の前身)が《経済実相報告書》として初めて公表して以来,毎年刊行されている。経済白書の新語や副題は,そのときどきの経済環境を的確に示しており,そこに第2次大戦後の日本経済の足どりを読みとることができる。第1回の白書の中の〈政府も企業も家庭もみな赤字〉という有名な言葉は戦後経済の苦しさを端的に表現している。55年になると,1人当りの実質国民所得では,戦前の最高水準である1934-36年を13%上回り,かつ戦争中の最高水準(1939)とまったく一致するまでになった。そこから翌年の白書の中に〈もはや戦後ではない〉という言葉が生まれたのである。昭和30年代に入ると,白書の中心的課題は高度成長の秘密をさぐることに移ってくるようになった。たとえば,1956年度の白書で登場した〈技術革新〉という言葉は,経済成長の原動力であるinnovationの訳語であるが,その後広く一般に親しまれる言葉になっていった。また60年度白書は,技術革新に基づく近代化投資が,貿易構造や原料投入・製品産出上の産業構造の変化と並んで,〈消費革命〉を促し,それらがまた投資を促進するという〈投資が投資を生む〉経済全体の革新過程を分析した。消費革命は,テレビ,冷蔵庫,洗濯機など耐久消費財のめざましい普及を指している。その設備投資のうねりもおさまりかけたとき,62年度白書はこれを日本経済が〈転型期〉にあるとして話題を呼んだが,その後の景気回復とひきつづく高成長は,むしろ日本経済の〈転換能力〉(1964年度白書)の高さを証明することになった。昭和40年代に入ると,それまではまったく使われたことのなかった福祉という言葉が白書の副題にも数多く登場するようになる。〈能率と福祉の向上〉(1967年度白書),〈インフレなき福祉をめざして〉(1973年度白書)などはその代表例である。それはまた,日本経済が直面しつつある新しい課題が〈豊かさへの挑戦〉(1969年度白書)であったことを示している。それと同時に昭和40年代の中ごろになると日本経済はもはや国際収支や外貨準備の制約をうけない体質となり,〈国際化のなかの日本経済〉(1968年度白書)のあり方が貿易や投資の自由化に求められてくるようになった。1ドル=360円レートが非現実的な為替レートであることを指摘しようとした1971年度白書が,副題を〈内外均衡達成の道〉としたのは為替レートの弾力化が重要になったことを示しているのである。円切上げの遅れと第1次石油危機の重なりのため生じた狂乱物価の後は,副題に〈安定軌道〉(1975年度白書),〈安定成長〉(1977年度白書)という言葉が登場するようになる。それとともに〈先進国日本の試練と課題〉(1980年度白書)が重要になってきている。こうして経済白書の分析内容の足どりは,戦後日本経済の発展過程そのものを走馬灯のように描き出しているといってよい。
→白書
執筆者:吉冨 勝
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経済企画庁(現,内閣府)が経済の現状と政策指針を国民に公表する年次経済報告書。イギリス政府機関の公表する現状報告書が白表紙であったことからうまれた名称。1947年(昭和22)片山内閣期に当時の経済安定本部から第1回白書が「経済実相報告書」として発表されて以来,毎年7~8月頃に前年の景気と政策の実情を分析し報告している。経済の危機的状況を平明率直に分析し国民に打開への協力を訴えた第1回白書,「もはや戦後ではない」と戦後復興の終了を宣言した昭和31年白書,「二重構造問題」をとりあげた昭和32年白書,高度成長期の投資ブームを「投資が投資を呼ぶ」と特徴づけた昭和36年白書などが有名。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
内閣府(旧経済企画庁)が毎年夏発表する、前年の日本経済の動向に関する分析と問題点指摘の報告書。2001年度以降、財政の現状分析と問題点の指摘が加えられて、その通称も『経済財政白書』となった。
[編集部]
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