共有結合をつくっている二つの原子の原子核間距離をいう。「結合の長さ」ともいわれる。結晶中などでイオン結合をしているイオン間の距離も結合距離とよぶことがある。結合距離は、X線回折や電子線回折などの回折法、または赤外線やマイクロ波を用いるスペクトル法により測定でき、測定法によりわずかに値が異なるが、この違いは普通は問題にならない。
単結合だけを比べると、共有結合の結合距離は、おもに結合をつくる二つの原子の種類によって決まり、その結合が含まれている分子の他の部分の構造は二次的な効果を及ぼすにすぎない。C-C結合距離はエタンで1.535Å(オングストローム。1Åは0.1ナノメートル)、プロパンで1.532Å、ネオペンタンで1.537Åであり、分子の構造に関係なくおよそ1.54Åである。単結合の結合距離を に掲げる。
エタンのC-C単結合の結合距離は1.54Åで、塩素分子のCl-Cl単結合の結合距離では1.99Åであるのに対し、普通の有機分子中のC-Cl結合の結合距離は1.77Åである。この値はC-C単結合の結合距離の2分の1(0.77Å)とCl-Cl単結合距離の2分の1(0.995Å)を加え合わせた値と一致している。一般に、同種原子間の結合距離の2分の1をその原子が結合をつくる「手の長さ」とみなして、結合半径とよぶ。前述のC-Cl結合の例のように、異なる種類の原子XとYの結合距離(dX-Y)は、二つの原子XとYの結合半径(rX、rY)の和として、次の式により計算できる。
dX-Y=rX+rY
おもな原子の単結合の結合半径を に掲げる。
単結合では結合の生成に2個の電子が関与しているが、二重結合では4個、三重結合では6個の電子が関与していて二つの原子を結び付ける結合力が強まっているので、共有結合半径が短くなっている。結合距離は、エタンのC-C結合では1.535Å、エチレンのC=C結合では1.339Å、アセチレンのC≡C結合では1.202Åであり、しだいに短くなっているのがわかる。単結合と二重結合の中間のC-C結合をもつベンゼンではC-C結合距離も中間の1.395Åである。C-N結合やC-O結合でも、二重結合が単結合より短くなり、三重結合は二重結合よりさらに短くなっている。二重結合や三重結合の場合にも、結合半径の和として結合距離のおおよその値を求めることができる( )。
共有結合を「二つの原子を結ぶばね」とモデル化して取り扱うことが行われている。このモデルは分子の振動により化学結合が伸び縮みする挙動を説明するのに便利であり、結合距離の伸び縮みの振動数から化学結合の力学的な強さを表す「力の定数」を知ることができる。力の定数の値からも二重結合は単結合のほぼ2倍の強さをもつことが知られている。結合を形成している2原子が立体的にかなり大きい置換基をもっていて両方の原子上の置換基間に反発力が働いているときには、結合が伸びて結合距離が長くなることもばねのモデルから説明できる。
有機化合物などの共有結合により構成されている分子では、結合距離だけでなく同じ原子上の二つの結合がなす角(結合角)の大きさも決まっていて、分子は一定の形を保っている。これと対照的に、イオンが集合した結晶ではイオンの間で結合距離が決まっていても、結合角を一定に保つような力は働いていない。
[廣田 穰]
『Mark J. Winter著、西本吉助訳『フレッシュマンのための化学結合論』(1996・化学同人)』▽『日本化学会編『化学便覧 基礎編』改訂5版(2004・丸善)』
化学結合をしている二つの原子の原子核間の距離.通常,0.1~0.2 nm の間にある.量子力学による理論的推定は種々行われている.たとえば,炭化水素分子中の二つの炭素原子間の結合距離は,簡単な分子軌道法の近似計算により求められる結合次数の大きさと直線関係にあり,結合次数が大きいほど結合距離は小さい.しかし,任意の分子中の二つの原子核間の結合距離を非経験的に算出することは簡単にはできない.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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