鎌倉前期の説話集。編者未詳。1219年(承久1)成立。6巻。ただし,巻三を欠く。説話を分類収録し,その形態は中国の類書に似る。分類項目は,〈王道后宮〉〈臣節〉〈神社〉〈仏寺〉〈諸道〉〈漢朝〉が現存。散逸した巻三は〈臣節〉と〈神社〉との間に位置し,〈僧行〉〈勇士〉であったと推測される。分類項目は《古事談》を継承するが,〈漢朝〉をたてているのが大きな特色である。跋(ばつ)に〈フルキ人ノサマザマノ物語ヲ,オノヅカラ廃忘(はいもう)ニソナヘンガタメニ,カキアツメ侍リシ〉とあるように,先人の事跡を記録して後代に伝えることを目的としている。文学をめざしたものというよりは,むしろ歴史記録である。収録説話は,日本のものは平安時代の貴族社会の逸話が中心であり,王朝貴族文化への憧憬の姿勢がみられる。〈漢朝〉に収録された中国説話は,中国を理想社会とする視点で叙述されており,本書を特徴づけている。185話が現存。
執筆者:出雲路 修
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鎌倉初期の説話集。六巻(ただし現存諸本は第三巻を欠く)。現存本の収載説話は、王朝時代の天皇・貴族の逸事を中心に、中国説話も含む185話。編者不明であるが、内容に帝王のあるべき道を示そうとする意識が認められ、承久(じょうきゅう)の乱を前にした後鳥羽(ごとば)院への諫言(かんげん)の書という説もある。跋文(ばつぶん)には、建保(けんぽう)7年(1219)4月23日、草庵(そうあん)の中で完成したことが記される。巻構成は、巻六の漢朝部を除き、書名どおり『古事談』にほぼ準じる。しかしながら、文体は和文であり、説話の性格にも相当の違いがある。本書の説話には儒教的教訓性が強い。学才称揚の姿勢、および尚古思想、末代意識も顕著である。出典には『古事談』『中外抄(ちゅうがいしょう)』『富家語(ふけご)』『中右記(ちゅうゆうき)』『長秋記』などが認められる。
[木下資一]
『神戸説話研究会編『続古事談注解』(1994・和泉書院)』
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