親子,夫婦,主従など広く人間関係一般を縁といい,これを切ること,ことに男女の縁を切ることをいう。夫婦その他男女の縁をたち切るための縁切は,一般に神仏,樹木,石などに祈願することが多かった。有名な縁切稲荷,縁切地蔵,縁切薬師,縁切榎,縁切石などが各地にある。榎は縁の木と語呂が通じるためか絶縁(または結縁)の木として知られ,この木の皮をはいでひそかに相手に飲ませると効き目があるとされた。また祈願に際し男女背中合せの絵馬を供えることもあった。良縁をのぞむ男女は婚礼の際などに,こうした縁切祈願に霊験あるところをわざとさけて通った。江戸時代には女性が縁切寺,駆込寺に逃げることがあり,東慶寺(神奈川県鎌倉市)は有名である。婚姻当事者よりも,家と家,とくに夫の家を基調とする武士社会では嫁入婚が一般化し,夫は法的にも道徳的にも一方的に妻を離婚できたのに対し,これが許されなかった妻は縁切寺に駆け込むことで離婚できたのである。しかし地方によっては,婚姻は当事者の自主性にまかされ,離婚も夫と妻双方の話合いで行われた。人生儀礼の中にも縁切の風がみられる。婚姻や葬式の際の出立ち儀礼において座敷の縁から下りる,使用していた茶碗をわる,仮門をくぐらせた後これをこわすなどの風習は,花嫁と生家,死者とこの世の家との絶縁を意味し,結果として婚家あるいはあの世との安定した結合を期待したのである。
→縁結び
執筆者:植松 明石
歌舞伎,人形浄瑠璃の脚本の一局面および演出の型で,相愛の男女が義理のために縁を切らねばならぬことになるという展開をさす。多くは男が探し求めている宝物を手に入れるなどのため,女の方から,心ならずも〈愛想づかし〉をいうので,女の真意を理解できない男が怒って〈殺し〉に発展するのが定石になっている。縁切の場面には,必ず下座で胡弓を入れた合方を演奏するのが約束で,愛想づかしをいう場面では,女が男の顔を見ないでせりふをいうことで,女の苦しい立場を表現するのがきまりである。縁切が類型化したのは,江戸中期以後のことといわれ,1794年(寛政6)に並木五瓶が書いた《五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)》がそのはじめとされ,《伊勢音頭》《御所五郎蔵》《鰻谷》《お祭佐七》などが典型である。また《縮屋新助》《籠釣瓶》なども縁切物に入れられるが,ここにはいささか変形が見られる。
執筆者:阿部 優蔵
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…〈女護ヶ島〉伝説では,島の女たちが草履を浜に並べ,それをはいた男が女の結婚相手や客となったとされている。逆の縁切りの場合にも,足袋や履物がヒマジルシとして男に贈られることがあった。これは女が結婚するときに,それまで交際をしていた男と別れる際の作法である。…
…従来楽市・楽座令は,戦国大名および織豊政権が領国経済の統一,その中心としての城下町の繁栄を目的として発布したものであり,楽市は城下町を課税免除,自由交易の場とするために,楽座は独占的な商工業座の解体を目的とした政策であるとされてきた。しかし現在では,これらの権力の発布した楽市・楽座令の以前に,各地に〈縁切り〉を基本的性格とする楽市場なるものがすでに成立していたことが想定され,この法令は城下町の繁栄を目的とした楽市場の機能の利用と位置づけられるに至っている。そして,この楽市と楽座の関係は,楽市(場)はすべて市場の座(市座)がない楽座であり,楽座は楽市のひとつの属性にすぎないとされている。…
… 次に保証型楽市令の条項から本来の楽市場の機能をみると,(1)大名権力などの介入を許さない不入権を保持すること,(2)市場の平和を保つためあらゆる暴力行使が禁止されていること,(3)楽市場の住人の通行安全を保証し,通行税が免除されていること,(4)完全な免税地として存在すること,(5)独占的な販売を行う市場の座(市座)や問屋などの存在を認めない楽座であること,(6)領主の年貢を滞納している者も,他人の債務を負っている者も,それらの関係が消滅し,追及されない場であること,(7)奴隷も市場住人となることによって,身分が解放されること,などの特性がみられる。これらを通して楽市場の基本的性格を考えるならば,あらゆる俗世間的な縁,絆(きずな)が切れる〈縁切り〉の原理が貫いている場であると規定できる。このようにあらゆる権力の支配,社会の規制から自由であることを社会的に承認されていた楽市場は,中世の自由都市,自治都市成立の原点を占める存在であり,当時十楽(極楽)の津(港)と呼ばれた伊勢桑名は,自治都市として権力の支配を拒否していた。…
※「縁切」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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