縁とは親子,夫婦,主従など広く人間関係をさし,縁結びとはそれを結ぶことであるが,一般には夫婦,男女の関係を結ぶことをいい,男女の縁を結ぶ呪術的習俗をいうこともある。縁結びには超自然の意志が関係すると考えられており,各地に男女の縁を結ぶとされる神仏があって,良縁祈願がなされている。島根県の出雲大社は農耕神,福神としての性格とともに縁結びの神,仲人の神として知られている。また旧暦10月の神無月には全国の神々が出雲に集まるとされるが,その際,神々は男女の縁を結ぶといわれている。このことから結婚の仲だちをする人のことを縁結びの神ということがある。その他村のはずれ,辻などにある道祖神(サエノカミ)や,淡島(あわしま)様も縁結びの神といわれて,願かけがされ,仲人をサエノカミと呼ぶ地域もある。
また良縁を祈って願をかける縁結びの木もある。松や杉の常緑樹は縁起が良く,ことに古木や大木は神霊がやどる聖なる木とされているが,女夫松(めおとまつ),女夫杉と呼ばれる2本の木が夫婦のように並びたったものや,1本の木が途中から二またに枝分れして性的象徴とみなされるようなものなどに縁結びの機能があるとされることが多い。男女の名前や年齢を小さな紙に書き,これを指で結んでこの縁結びの木や,霊験ある神社,寺の格子に結びつけ,縁が結ばれることを祈る願かけも縁結びといわれる。縁が結ばれるかどうかをうらなう御神籤(おみくじ),辻占,易,石占,星占なども広く行われている。
遊戯として縁結びを行うこともある。多くの男女の名前を一人ずつ書いた紙をこよりにし,これを2本ずつ結びあわせて偶然にあたった男女の縁を楽しむもので,これを縁結びといい,主として女性が行った。
親子,夫婦,主従などの縁を結ぶにあたっては,当事者が酒食を共にする儀礼を行うのが普通である。一つ火で料理された食物を食べ,一つ杯で互いに飲みかわす酒によって相互のちぎりが固まると考えられているのである。
→縁切
執筆者:植松 明石
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
男女の名や年齢を書いた紙をこよりにして、社寺の格子や樹木に結び付けて、縁の結ばれるように祈願すること。夫婦となるのは前世の宿縁によるものだという思想は、仏教をも含めて中国思想であるが、昔からわが国のなかにもこの考え方は強かった。有名な常陸帯(ひたちおび)の伝承は、常陸(茨城県)の鹿島(かしま)神宮に伝えられたもので、神宮の正月14日の祭りの日に、相思の男女が麻の帯にそれぞれ名前を書いて神前に供えると、神官がそれを結び分けるのを受けて、結婚の成否を占うという故事で、古くから歌枕(うたまくら)としても使われ、常陸帯の語は平安期の物語や歌のなかにもみられる。同じ伝承や習俗は民間にもあって、もっともよく知られているのは陰暦10月の神無月(かんなづき)に諸国の神々が出雲(いずも)大社に集まって、すべての男女の縁を決めるという言い伝えである。本州中部ではだいたい9月の末から10月の初めに出発されると考えられていて、九州北部海岸地帯には出発の日を神渡し、お帰りの日を神戻しといって、両度とも神社に参詣(さんけい)する所があるし、この2日はそれぞれ都合のよい方向の風が吹くと言い伝えられている。各村々の氏神の祭りにも同様な言い伝えがあって、若い男女が参拝する地も多い。そのほか縁結びの祈願の対象となるのは、地蔵様、観音様が多く、その縁日にはとくに若い人の参拝が多かったので、結果的に縁結びの端緒となったものも多い。神仏だけではなく、各地に多い相生松(あいおいのまつ)、夫婦木(めおとぎ)、夫婦石なども祈願の対象となった。路傍の神としての道祖神(どうそじん)もやはり男女の縁結びに深い関係をもっていて、男女双立の神像を和合神などとよぶ。岩手県の山村には婚礼の仲人(なこうど)をサイノカミとよぶ所もある。サイノカミは道祖神のことである。以上の習俗を遊戯化したものに「縁結び」とか「宿世結び」という遊びがある。紙片に1枚ごとに男と女の名を記し、これを無作為に結んでその結果を楽しんだものである。
[丸山久子]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
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