主として美容上の観点から外科的治療を行う医学の一分野。歴史的には形成外科から分離,独立した。形成外科plastic surgeryは先天性の奇形や外傷によって生じた変形を修復することを目的として外科的治療を行う外科の一分野であるが,その内容は,(1)欠失した組織や変形した部分を修復する再建または復形外科と,(2)あざや傷跡の修正,かぎ鼻の修正やしわとりといった醜形の修復をする美容形成外科に大別される。美容外科は後者から発生した。
変形に対する修復は古くから行われてきた。すでに紀元前のインドで〈鼻切り〉の刑を受けた者に対して,鼻の再建手術が行われていたという記録があるし,ローマのケルススも兎唇の手術を行っている。また16世紀のフランスの外科医であるA.パレは,手術後の傷跡を修復する手術を行った。しかし,形成外科が大きく発達するようになったのは20世紀に入ってからで,第1次大戦がその契機となった。大戦によって数多くの戦傷者が出現し,それらの人々の社会復帰のために,修復の手術が多く手がけられるようになったのである。とくにイギリスの外科医ギリスHarold D.Gillies(1882-1960)は,形成外科の名をはじめて用い,また美容外科的手術を行った。形成外科は第2次大戦を境にさらに発展し,近年はマイクロサージェリーmicrosurgery(顕微鏡下での細かい手術)の台頭,レーザーメスの出現などによって,従来は考えられなかったような修復も可能になっている。
一方,ギリスによって始められた美容外科的手術も,形成外科の発展とともに進歩したが,〈より美しく〉という要求が課されるために,専門医にとってはさらに修練が必要となるところから,1960年代ころから,分離,独立の方向をとるようになった。日本では1958年に日本形成外科学会が,77年に日本美容外科学会が創設されている。
形成外科,とくに美容的な目的を主とする美容形成外科的治療は長い間,医師の行うべきものではないとして,批判の対象とされてきた。それは,(1)生体にメスを加えるものでありながら,その治療の目的が疾病の治療や救命と別のところにあること,(2)とくに美容形成外科的手術は,〈美〉というきわめて主観的基準による部分が多いことからであった。しかしながら,身体の変形や事故,やけど,手術などによる傷跡が,当人に対し,少なからざる社会的・精神的ハンディキャップを与えることは事実だし,〈美〉の問題についても,当人が〈醜い〉ことを負担に感じ,〈美しくなる〉ことで社会生活に自信をもって参加できるようになるとしたら,これらの治療による効果は決して小さくない。すなわち,形成外科や美容外科的治療は,それらの人々の社会復帰に対し,有効な手段となりうる。第2次大戦後の医療への要求の拡大とともに,上述のような理由から,各国でその必要性が理解されるようになり,日本でも1970年,美容外科が標榜科目として認められた。
美容外科では,目(一重まぶたを二重まぶたに),鼻(隆鼻,かぎ鼻の修復),しわとり,乳房(乳房の拡大,縮小,修正)などが扱われるが,形成外科でも行われる瘢痕(はんこん)やケロイド,あざ,ほくろなどの除去,外陰部の奇形などに対する修復など,形成外科や皮膚科など他領域で行われる治療も行われることがある。
なお,類似の言葉として〈整形外科〉〈美容整形〉などがあり,一般に混乱して用いられることがあるが,整形外科は,主として骨,関節の病気を扱う外科であり,美容外科とは別の領域をさす。一時,一部の医師たちがこの語を用いて美容外科の広告を行ったため,混乱を生んだ。また〈美容整形〉の語も,広告として用いられたため普及しているが,正規の標榜科目名としては認められていない。
→外科
執筆者:松山 正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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