老人のための入所施設の総称。大別すると,老人福祉法にもとづく社会福祉施設としての老人ホームと,一般に有料老人ホームといわれている営利を目的としたものとがある。今日の老人ホームの前身は,身寄りのない貧しい老人を収容保護した養老院である。日本最初の老人専用の収容施設で,かつ最初に養老院の名称を用いたのは,イギリス人エリザベス・ソーントンが1895年に女性老人のみを対象として東京市芝区に設立した聖ヒルダ養老院である。その後,各地に養老院が設立されたがその数は決して多くはなく,1932年時点でも85施設であったといわれている。
また,当時の養老院の大半は個人や宗教団体によって設立されたもので,施設経営および運営は各施設の独自な努力に任されていた。養老院に入所していた老人は収容保護を必要とする老人の一部でしかなく,その他の老人たちは一般の窮民救護施設に収容されるか,在宅のまま地域社会に放置されていた。明治・大正期の窮民施策としては1874年に制定された恤救(じゆつきゆう)規則しかなく,この規則の基本は〈人民相互ノ情誼〉であり,施設保護という考えはなかった。その後,恤救規則にかわり1932年に施行された救護法は,居宅保護を原則としていたが施設保護の必要性も認めており,養老院は救護法上の救護施設の一つとなった。また同年,養老事業の連絡と発展のための組織として全国養老事業協会が発足し,養老院における科学的老人処遇の確立や施設職員の専門教育などに対する努力がなされはじめた。
十五年戦争期に入ると養老院入所者に病弱・虚弱な老人が増加する一方で,37年に軍人とその遺族家族の救済を目的とする軍事扶助法が施行されたことで,それまでよりも階層の高い老人が入所したり,公的な措置によらずに自費入所を希望する老人も現れた。このような状況に対して各養老院では,医療とのかかわりを重視する必要に迫られた。また全国養老事業協会内では,貧民対策としての従来の養老院とは別に有料老人ホームや老人アパートの必要性が論じられるようになったが,敗戦によりこれらの議論も中断せざるをえなかった。第2次大戦後,生活保護法が施行されると,養老院は生活保護法上の養老施設として位置づけられ,63年に老人福祉法が制定・施行されると同時に老人福祉法上の老人ホームとなり,今日に至っている。
社会福祉施設としての老人ホームには,65歳以上で身体上または精神上著しい障害があるために常時介護を必要とし,在宅での生活が困難となった老人のための特別養護老人ホームと,身体上もしくは精神上または生活環境上,経済上の理由がおもな入所要件となっている養護老人ホーム,および60歳以上で低額な利用料で入所できる軽費老人ホームA型(食事付き),軽費老人ホームB型(自炊を原則とする)とケアハウス(高齢者が虚弱化したり車椅子生活となっても外部からサービスを購入することで自立生活が送れる)とがある。特別養護老人ホームと養護老人ホームは,都道府県知事または市長による公的措置によって入所が決定する措置施設で,軽費老人ホームA型,B型およびケアハウスは利用者と施設長との自由契約による契約施設である。このような老人ホーム体系は,80年から実施されている措置施設入所者からの費用徴収制度によって一つの転機を迎えている。とくに養護老人ホームと軽費老人ホームA型の位置づけや必要性について議論がなされている。また在宅福祉サービス重視の動向と施設の社会化という観点から,寝たきり老人などの在宅老人に対する入浴サービス,給食サービス,短期保護事業などを実施したり,デイ・サービスセンターを付設する老人ホームも増えている。さらに老人ホーム利用者の多様化に対応して,視覚障害者専用の老人ホームや認知症老人専用のホームも設立されている。また,公的介護保険制度の導入についての議論のなかで,養護老人ホームや軽費老人ホームA型・B型の特別養護老人ホームへの転換やケアハウスへの切りかえが論じられる一方で,それぞれの老人ホーム機能の独自性や役割の再評価も行われるようになっている。
有料老人ホームは,すべて利用者と老人ホーム側との私的な契約関係の成立によって利用が開始される。高額な契約金や入会金などを必要とする健康な老人を対象とした老人マンションのようなものから,厚生年金加入者が利用できる厚生団経営のホームや簡易保険郵便年金加入者ホームなど,一般の有料老人ホームよりは低額な費用で利用できる施設もある。また寝たきり老人や認知症老人を対象とした介護付き有料老人ホームへの需要は高く,公的介護保険法案のなかで在宅介護サービスの一つとして有料老人ホームでの介護が明示されたことで,今後もこの種の有料老人ホームの設立は増えると考えられる。
執筆者:岡本 多喜子
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…看護療養を主体にするナーシング・ホーム,昼だけ入院させるデー・ホスピタル(デー・ケア病院ともいう),夜だけ入院させるナイト・ホスピタル(ナイト病院)などは,日本ではほとんどみられない。かなり厚い看護体制の必要な特別養護老人ホームは,近年かなり日本各地に設立されている。しかし,臨死期の患者を迎えて,苦痛を延ばすのみと感じられるような積極的医療を控え,人間的な慰撫を基調とするホスピスは,1967年ロンドンに始めて設けられてから,しだいに数が増え,アメリカではホスピス協会が設立されるほどになっているが,日本では1,2ヵ所にとどまり,しかも,出来高払いの日本の健康保険の診療報酬体系にはのりにくいために,普及の可能性は乏しいとみられている。…
※「老人ホーム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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