家庭医学館 「耳の外傷」の解説
みみのがいしょう【耳の外傷 Injury of the Ear】
耳のけがには、外耳(がいじ)の耳介(じかい)(耳たぶ)、外耳道(がいじどう)や鼓膜(こまく)におこるもの、中耳(ちゅうじ)の耳小骨(じしょうこつ)などにおこるもの、さらにその奥の内耳(ないじ)におこるものがあります。
とくに内耳に損傷がおよぶと、難聴(なんちょう)、めまい、顔面神経(がんめんしんけい)まひなどの後遺症が残ることが多いので、できるだけ早く治療を受ける必要があります。
■耳介血腫(じかいけっしゅ)、力士耳(りきしみみ)
耳介血腫(じかいけっしゅ)は、柔道、レスリング、ラグビーなど、耳を強くこすることの多いスポーツ選手によくみられます。
耳介は、軟骨(なんこつ)の上に、軟骨膜(なんこつまく)と皮膚をはりつけたようにできており、強くこすられると、皮膚などと軟骨の間がはがれてすき間ができ、そこに血液がたまったものが耳介血腫です。
この血液を針で吸いとっても、またじきに血液がたまってきます。これを治すには、すき間をなくすような手術をするか、血液を排出する孔(あな)をつくったりします。
耳介血腫を何度もおこすと、そのすき間をうめるように、軟骨が盛り上がるように形成されてきて、耳介が変形してしまいます。相撲の力士によくみられるので、これを力士耳(りきしみみ)といいます。
この治療は、手術して、新しくできた軟骨を切除するしかありません。
■耳垂裂(じすいれつ)
ピアスなどで耳介が裂けることがありますが、組織が残っていれば修復、形成はむずかしくありません。
耳介がちぎれた場合も、時間がたっていない場合、その部分が小さければそのまま縫合(ほうごう)できますし、大きくても顕微鏡下の手術で血管を縫合できれば、再接着します。ほかにも、いくつかの形成手術の方法があります。
■外耳道損傷(がいじどうそんしょう)、外耳道異物(がいじどういぶつ)
耳かきなどで外耳道を傷つけたり、虫や小石などの異物が外耳道に入ってしまうことがあります。
外耳道のけがで、出血や痛みがある場合は、消毒をして抗菌薬(こうきんやく)の入った軟膏(なんこう)をぬっておけば治ります。
また異物の場合は、むりに家庭でとり出そうとすると、鼓膜を傷つけてしまうことがあるので、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)でとってもらいます。
虫が暴れてこまるときは、食用油などを外耳道にたらすと虫が死にますので、それから受診します。
■鼓膜損傷(こまくそんしょう)、耳小骨損傷(じしょうこつそんしょう)
小さな子どものいるところで耳かきをしていて、子どもが急によりかかってきたりすると、鼓膜が破れることがあります。また、外耳道の異物が奥に入ってしまい破れることもあります。
その瞬間は、大きな音と痛みを感じ、出血があります。破れた直後の鼓膜はめくれたり、ずたずたになっていますが、数日すると破れた孔は、ほぼ円形になってきます。
鼓膜の損傷に炎症がともなうと、中耳炎(ちゅうじえん)(「急性化膿性中耳炎」)がおこって、耳漏(じろう)(耳だれ)がみられるようになります。
力が、さらに鼓膜の奥までかかった場合は、鼓膜の振動を伝える耳小骨がずれたり、その連鎖が切れたりして、難聴(なんちょう)がおこります。
平手で打たれたり、大きな爆音などで鼓膜が破れることもあります。この場合は、耳鳴(みみな)りがしたり、難聴(なんちょう)がおこることもあります。
治療は、炎症の予防が第一です。抗生物質を使用して、外耳道をきれいに拭(ふ)きとり、清潔なガーゼなどをつめておきます。
中耳炎がおこらなければ、破れた鼓膜は自然に再生するのがふつうです。小さい孔で2~4週間、鼓膜面の半分ほどの孔でも、2~6か月くらいでふさがります。
孔がふさがるのを早めるため、孔の縁を傷つけて閉鎖をうながす治療もあります。それでもふさがらない場合、また耳小骨の障害がある場合は、鼓室形成術(こしつけいせいじゅつ)という手術を行ないます。
孔がふさがるまでは、点耳液(てんじえき)など、内耳に影響がおよぶようなものは使わないようにします。
なお、耳小骨への衝撃が強い場合は、内耳の損傷や三半規管(さんはんきかん)の震盪(しんとう)などがおこり、ひどい難聴だけでなく、めまいをともなうこともあります。
■側頭骨骨折(そくとうこつこっせつ)
外傷によって中耳(ちゅうじ)や内耳(ないじ)が障害されるのは、交通事故などによって側頭骨の骨折がおこったときにみられることが多くなっています。
側頭骨とは、おもに耳のまわりにある骨で、脳を保護している頭蓋骨(ずがいこつ)の一部をなしており、それ自体もいくつかの部分に分かれています。そのうち錐体部(すいたいぶ)という部分は、頭蓋の内側に入りこんでいて、中耳や内耳、顔面神経(がんめんしんけい)などを守るようにできています。
側頭骨の骨折は耳介(じかい)の上の部分におこることが多いのですが、錐体部(すいたいぶ)におよぶこともあります。側頭骨に骨折がおこると、出血ばかりか、頭蓋内を満たしている脳脊髄液(のうせきずいえき)が耳から流れ出ることがあります。
このような場合、鼓膜(こまく)や耳小骨(じしょうこつ)、三半規管、聴神経など、聴覚にかかわる器官(聴器)だけでなく、顔面神経なども変形したり、切断されたり、血液に圧迫されたりして損傷されます。このため、難聴(なんちょう)、強いめまい、顔面神経まひなどがおこります。
側頭骨の骨折は、頭蓋骨骨折であり、脳にかかわるため、意識障害や呼吸困難におちいることもあるので、事故直後は、脳神経外科医などによる救命救急医療が必要です。救命がなされたら、引き続き難聴や顔面神経まひなどの治療をすることになります。
難聴(「難聴」)は、音を三半規管まで伝える部分に障害がおこる伝音難聴(でんおんなんちょう)と、三半規管から聴神経を経て脳に至る部分におこる感音難聴(かんおんなんちょう)に分けられます。
伝音難聴であれば治療が可能なのですが、感音難聴は治療がむずかしく、側頭骨骨折で音が聞こえなくなってしまうことも少なくありません。
顔面神経まひは、顔面のどこにまひがあるかによって、どこを走る神経が切れたり圧迫されたりしているか、だいたいわかります。
まひの程度が軽い場合は、マッサージや服薬で回復しますが、程度がひどい場合は早めに手術します。早いうちなら、神経を圧迫している血腫(けっしゅ)や骨片(こっぺん)を取り除いたり、切れた神経を顕微鏡下で縫合(ほうごう)することができます。