耳硬化症(読み)じこうかしょう(英語表記)Otosclerosis

六訂版 家庭医学大全科 「耳硬化症」の解説

耳硬化症
じこうかしょう
Otosclerosis
(耳の病気)

どんな病気か

 耳硬化症は、耳小骨(じしょうこつ)のなかで最も深部にあって、内耳に振動を伝えているアブミ骨が動きにくくなる病気です。アブミ骨底板と周囲の骨との間が動きにくくなり、伝音難聴(でんおんなんちょう)を起こします。進行すると感音難聴(かんおんなんちょう)混合難聴(こんごうなんちょう)になります。

 発症には遺伝的要因があり、東洋人より白人に多い病気です。女性にやや多く、妊娠によって難聴が悪化することもあります。

症状の現れ方

 両側進行性の伝音難聴が主症状となる場合が多く、日本人では難聴自覚年齢が30歳ころ、病院を受診し診断がつく年齢は40歳ころにピークがあります。思春期以降に発症する進行性伝音難聴で鼓膜(こまく)が正常であれば、耳硬化症の可能性が高くなります。

検査と診断

 聴力検査では通常両側性で、低音部により難聴がある伝音難聴です。

 そのほか、ティンパノメトリーで鼓膜の動きを測り、アブミ骨筋反射の消失などの検査所見を参考に診断します。側頭骨ターゲットCTでは、耳硬化症の病変はあまりはっきりしないことが多いですが、他の耳小骨の固着や発育不全が原因の難聴もあるため、必ずこの検査を行います。

治療の方法

 耳硬化症による難聴は、手術で劇的な聴力改善が得られる数少ない難聴のひとつです。薬による治療はまだ研究段階なので、手術を希望しない人は補聴器を使います。

 難聴が軽い場合は手術の必要はなく、気導骨導差(きどうこつどうさ)が20~30㏈(デシベル)以上になったら手術を行います。感音難聴も起きてしまっている混合難聴で、難聴が高度の場合は手術して気導骨導差を縮小させ、さらに補聴器を使った治療を行います。補聴器の装用効果は手術でかなり改善します。

 通常、全身麻酔でアブミ骨手術を行います。固着したアブミ骨底板の可動性を回復する技術がいろいろと開発されています。アブミ骨上部構造を摘出後に固着した底板全体または一部を摘出する方法、底板に0.6㎜の小孔をあけて、そこにピストンを入れる方法などがあります。

 最近は専用のマイクロドリルやレーザーが開発され、より安全、確実な手術が可能になってきました。

受診のポイント

 耳硬化症はアブミ骨手術により高い率で聴力の改善が得られますが、逆に内耳障害により聴覚を喪失する可能性もあるので、耳の手術を専門としている医師による診察を受けてください。

池園 哲郎

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「耳硬化症」の解説

じこうかしょう【耳硬化症 Otosclerosis】

[どんな病気か]
 鼓膜(こまく)の裏側の中耳(ちゅうじ)には、鼓膜の振動を内耳(ないじ)に伝える3個の小さな骨(耳小骨(じしょうこつ))があります。この骨のなかでもっとも小さく、内耳への窓にはまり込んでいる骨を、あぶみ骨(こつ)といいます。
 このあぶみ骨と内耳窓(ないじそう)(前庭窓(ぜんていそう))との間に骨のような組織(耳硬化症性骨組織)が増殖(ぞうしょく)してきてあぶみ骨が動かなくなり、難聴(なんちょう)になるのが耳硬化症(じこうかしょう)で、いまのところ原因は不明です。
 白人やインド人に多く、東洋人や黒人には少ない病気です。
 病気になるのは女性がやや多く、妊娠(にんしん)や出産によって難聴が悪化することもあります。
 欧米では、遺伝性の病気と考えられていますが、日本では、遺伝とは関係のない症例が多いようです。
[症状]
 青年期から難聴がおこって徐々に進行し、約7割は耳鳴(みみな)りをともないます。
 難聴は、片側だけのことも、両側のこともあり、難聴の進行程度が左右で異なることもあります。
[検査と診断]
 鼓膜・外耳道(がいじどう)には異常がなく、聴力検査(ちょうりょくけんさ)で気導聴力(きどうちょうりょく)が低下していて、骨導聴力(こつどうちょうりょく)が正常かやや低下した程度の伝音難聴(でんおんなんちょう)または混合難聴(こんごうなんちょう)があって、ティンパノグラムで特有なパターンを示すので、容易に診断がつきます。
 ただし、病変が内耳にまで波及すると感音難聴(かんおんなんちょう)となります。
[治療]
 ふつう、あぶみ骨切除術(こつせつじょじゅつ)か、あぶみ骨小開窓術(こつしょうかいそうじゅつ)という手術を行ないます。どちらも局所麻酔(きょくしょますい)で行なえますが、術後、数日間はめまいがおこることがあるので、短期間の入院、安静が必要です。
 手術後10日目ごろから聴力が徐々に回復し、耳鳴りも消失することが多いようです。
 ただし、術後数か月間、舌の味覚異常(みかくいじょう)が続くこともあります。
 手術を望まない場合は、補聴器(ほちょうき)で聴力を補うこともできます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「耳硬化症」の意味・わかりやすい解説

耳硬化症 (じこうかしょう)
otosclerosis

聴覚障害を起こす病気の一つ。耳小骨連鎖のうち,あぶみ骨底が内耳にはまりこんでいる前庭窓の骨縁に海綿様骨増殖が起こり,その結果あぶみ骨底が固着され,可動性が制限される病気である。したがって耳小骨連鎖を伝わってきた音の振動は内耳に伝達されず,聴覚障害を生ずる。白色人種に多く,黄色人種には少ない。また成人女性に多い。原因は不明であるが,同一家系に多く,また思春期ころから発病し,妊娠で増悪することがあるので,遺伝や内分泌障害が関係していると考えられている。主症状は進行性の難聴耳鳴りで,ともに両側性にみとめられる。難聴は伝音性難聴で,聴力検査では気導聴力の損失は大きいが,骨導聴力は正常か,あるいは軽度に低下する程度である。初期には静かなところでは大きな声でも聞こえにくいが,騒がしいところではかえってよく聞こえるというウィリス錯聴paracusia Willisianaがみられることがある。薬剤による治療は期待できず,もっぱら外科的治療(あぶみ骨手術)が行われている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「耳硬化症」の意味・わかりやすい解説

耳硬化症
じこうかしょう
otosclerosis

内耳骨胞に骨の新生と吸収を伴う原因不明の海綿状変化が生じる疾患で,難聴と耳鳴を主症状とする。通常,難聴は両側性,伝音性で,思春期の女性に発病することが多く,次第に進行する。治療はアブミ骨摘出術,アブミ骨可動術,新しく内耳窓をつくる迷路開窓術などを中心として行われる。この疾患は,白人には多いが日本人にはまれである。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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