脱法行為(読み)だっぽうこうい

精選版 日本国語大辞典 「脱法行為」の意味・読み・例文・類語

だっぽう‐こういダッパフカウヰ【脱法行為】

  1. 〘 名詞 〙 法律で、強行規定で禁止されていることを、他の手段でくぐり抜け、合法性をよそおいながら実質的にその目的を達成しようとする行為。たとえば、恩給受領委任するという形式で恩給を借金担保にする契約などがこれにあたる。この行為は原則として無効とされる。
    1. [初出の実例]「激語し、刺激して脱法行為に奔らせるので」(出典:啾々吟(1953)〈松本清張〉九)

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改訂新版 世界大百科事典 「脱法行為」の意味・わかりやすい解説

脱法行為 (だっぽうこうい)

広義では,法律の禁止を潜脱する行為をいい,狭義では,強行法規(〈強行法規・任意法規〉の項参照)に直接違反しないが,実質的にそれに違反するのと同一の効果をもたらす行為をいう。たとえば,恩給権者AがBから金を借りる場合,Aは恩給受領の権限をBに委任し,代理人として恩給を受領したBがこれを貸金元利に充当し,完済されるまでは委任契約を解除しないという契約を結ぶことがしばしば行われた。これらの契約は個別的にはなんら違法なものではないが,全体として実質的に恩給権を担保に入れたのと同一の効果をもたらし,これを禁止する恩給法(11条)に違反することになる。これは脱法行為の典型例である。

 脱法行為は原則として無効とされる。そうしないと,強行規定の目的を達することができないからである。委任による恩給担保について判例は,恩給法の精神に反するものとしてくり返し無効を宣言している。また,法律上,明文で脱法行為を禁止している場合も少なくない。たとえば,農地法22条2項は,〈どのような名目によるものであっても〉小作料が金銭以外のもので支払われ,受領されることを禁止している。利息制限法(3条)は,〈金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は,礼金,割引金,手数料,調査料その他何らの名義をもってするを問わず,利息とみなす〉と規定し,利息制限法の制限を超過する高利をうるために種々の名目を用いることを間接的に制限している。

 注意すべきは,脱法行為とみられるべき行為であっても,当然には無効とされない場合があることである。たとえば,AがBから金を借りる場合,その債務の担保のためにAの動産(たとえば機械一式)の所有権をBに移し,AはBからそれを借りて引き続き使用するという形をとる。そして,Aが約束のときに借りた金を弁済すれば所有権を戻すが,弁済しなかったときは所有権はそのままBに帰属するとの契約が結ばれることがある。いわゆる動産の譲渡担保契約である。これらの契約は,質権設定者が引き続き質物を占有することを禁止する民法345条,流質契約を禁止する349条を回避するものにほかならないが,今日,〈脱法行為〉として無効とはされていない。上の二つの強行規定は,担保の手段として質権を設定する場合だけに適用され,その他の手段による場合には適用されないと解されているからである。

 脱法行為は,現実の社会における需要が法の禁止命令に抵抗する場合であることが多い。それが〈脱法行為〉として無効とされるか否かは,社会の新たな需要の強さや合理性と,その強行法規の内容をなお貫徹させることの合理性とを比較衡量して判定されなければならない。譲渡担保が有効とされたのは,取引界の需要の合理性と民法の質権制度の不完全さが比較衡量された結果であり,委任による恩給担保が無効とされたのは,経済的弱者を保護しようとする法律の精神がより重視された結果であると考えられる。また,立法によって社会の新たな需要に対し適切な措置を講ずることも必要である。国民金融公庫をして恩給担保の業務を取り扱わせている(恩給法11条但書)のがその一例である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脱法行為」の意味・わかりやすい解説

脱法行為
だっぽうこうい

形式的には強行法規の禁止規定に違反しないで、実質的にその禁止していることを実現する行為。たとえば、恩給は担保に入れることを禁止されているのに対して、世上しばしば不解除特約つき恩給取立ての委任が行われている。これは、債権者に恩給の取立てを委任して取立ての代理権を授与し、元利の完済に至るまで委任を解除しない(不解除特約)という契約であって、実質的には恩給担保である。法律のなかには脱法行為の禁止を明示するものが少なくなく(たとえば物価統制令9条など)、これらの規定に違反すると、違反部分は無効となる。しかし法律に規定がない場合でも、強行法規の規定の趣旨が、他の手段によってもその法規の禁止内容の実現を許さないとみるべき場合には、脱法行為として無効となる。たとえば、判例は、恩給担保を脱法行為とし、不解除特約を無効だとした(したがって恩給証書の返還をいつでも請求できる)。

[淡路剛久]

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世界大百科事典(旧版)内の脱法行為の言及

【強行法規・任意法規】より

…強行法規は,そこに定められた行為や状態の法的実現を国家の基本原則として示すものであり,強行法規違反の行為は法的に無効とされる。なお,このような行為を別の手段を用いて行おうとするとき,その行為は脱法行為と呼ばれ,やはり法的には無効とされる。また,強行法規はそれに違反する行為の無効を定めるものの,必ずしもその行為に対して制裁を課すわけではない点で,取締規定とは異なる。…

※「脱法行為」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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