AがBから借金をする際,その〈かた〉としてAがもっている工場の機械や土地・建物などの所有権を債権者Bに移しておき,後日借金を返済すればそれらの物の所有権がふたたびAに戻ってくる,という担保の方法。抵当権に近いはたらきをするが,民法にはまったく規定のないものである。また,権利をあらかじめ債権者に移しておく点で〈権利移転型〉担保と呼ばれる。実際の契約では売渡(うりわたし)抵当とか売渡担保という場合も少なくない。
(1)用いられる対象 (a)まず,動産を対象とするものがあり,事業会社や金融機関が譲渡担保をとるときは,これが中心となってきた。動産には,一つ一つの機械や車両といった特定動産もあれば,一群の商品や製品をまとめてといった集合動産もあり,後者には,倉庫内に置かれている間だけ担保として押さえるという流動動産も含まれる。(b)つぎに,不動産を対象とするものは,きちんとした企業ではまず使われておらず,高利貸のたぐいが利用するのではないかといわれるが,判例をみると不動産の譲渡担保の事件が占める割合は決して小さくない。(c)以上のような有体物ないし物のほか,債権その他いろいろな権利を対象とする譲渡担保も多くみられる。たとえば,Aが自分の電話加入権やゴルフ会員権の名義をBに移して融資を受ける場合とか,手形や株式を譲渡担保の対象とする場合がそれにあたる。また,近時は指名債権を譲渡する形式で担保として用いることも少なくはない。たとえば,リース会社がユーザーに対してもつリース料債権は,手形でなく普通の指名債権であることが多いが,それを譲渡担保として金融機関から融資を受けるわけである。しかも,この場合のリース料債権は多数のユーザーに対するものであり,それらをまとめて譲渡するので,集合債権の譲渡担保と呼ばれる。リース料債権と同様なことは,信販会社,サラリーマン金融会社,カード会社,ファクタリング会社が顧客に対してもつ債権についても行われている。
(2)譲渡担保の必要性と利用度 民法には,動産,不動産,権利をカバーできるものとして質権,また不動産担保の女王ともいわれる抵当権がそれぞれ規定されているのに,なぜ全然規定もない譲渡担保が実際の取引で使われているのであろうか。簡単にいうと,(a)動産の質権は,物を終始Bに取り上げられてしまい,Aはその間利用できない(民法344,345条)点で,たとえば,工場の機械や原材料をAが使いながら担保としても役だてることができなくなるからである。この意味で,動産にあっては,譲渡担保を用いる必要性が大きい。利用度が高いことは前述のとおりである。(b)不動産の場合でも,質権は,Bが対象となる土地や建物を最初から押さえてしまうから,やはり好ましいものでない。しかし,ここでは〈占有をBに移さない〉(369条)抵当権の制度が別にあるので,それによれば十分なわけであって,譲渡担保を用いるべき必要性はとぼしい。にもかかわらず,一部の債権者は抵当権なら認められない法的な効果,たとえば,競売の回避を求めてこれを用いている。(c)債権その他いろいろな権利の場合は,債権質,権利質などのような質入れの方法により基本的にはまかなえる。しかし,新しく生まれてくる権利の中には質権にうまく適合しないものがあり,また,前述した集合債権は質権設定の対抗要件(364条)をそなえることができないといわれるから,それらの範囲では譲渡担保を用いなければならない。そのうえ,債権者は一般に,質権より有利な譲渡担保のほうを好むようであり,両方の手段が使える場合でも,譲渡担保を選ぶことが多い。
(3)譲渡担保の基本的なしくみ 譲渡担保は,融資をこれから受けようとする時点で,すでに所有権や権利が債権者のBに移転してしまうものであって,担保,すなわち債権回収の確保という目的からすれば,明らかに与えすぎだといわなければならない。そこで昔から,譲渡担保権者Bの権利を必要な範囲内に制限しようとして,学説・判例はさまざまな努力を行ってきた。当初は,Bに所有権が移転するけれどもBはその権利を担保の目的以上に行使してはならない債務を負う,というふうにも組み立てられた。しかし,これでは設定者Aに認められる権利が弱すぎるので,現在は,Bには抵当権ないし担保物権以上の力は与えられないのだ,という説明がされている。ただ,これら近時の学説も,それぞれに難点があって,一般の承認を得るには至っていない。判例は,基本的なしくみに関する説明をしだいにやめて,いまや具体的な問題に即して妥当な解決を目ざす方向にある,といってよい。
(4)設定と効力 (a)担保にとるBと入れるAとの設定契約で行われるが,担保に入れる者は必ずしも債務者Aとは限らず,第三者がなることもある。後者の場合は,いわゆる物上保証人である。(b)公示ないし対抗要件は,権利移転の法形式をとるから,物権変動および債権譲渡の場合と同じである。たとえば,不動産の場合なら,売却と同じ所有権移転登記をする。なお,機械などの場合は,設定されている旨のネーム・プレートの効用が議論されている。(c)在庫商品や原材料のような流動動産も,いまや目的物の範囲を種類,場所,数量などによって特定されるときには,一個の〈集合物〉として譲渡担保の対象にできると考えられている。(d)約束した期限にAが返済しないときは,Bは競売手続によらないで物を確定的に取得し,Aに対して目的物の明渡し・引渡しを要求できるが,その物の価格が貸金債権の額を超える場合には,余剰分を金銭で設定者に返さなければならない(清算義務)。設定者の側でも,Bがそういう手続をするまでは,借金を返して物を取り戻してくることができる(受戻権)。(e)Bが借金の期限がくる前に物を他人に売却したときは,その他人が所有権を取得するが,BはAに対して損害賠償を支払わなければならない。(f)動産の譲渡担保において,Aの債権者がその動産を差し押さえたときには,Bは自分の所有物だとして執行を排除できる(民事執行法38条)。
→買戻し
執筆者:椿 寿夫
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担保となる物の所有権自体を債権者に譲渡し、一定の期間内に弁済すればこれを返還させるという担保。民法では、物の所有権は移さずにこれを担保とする制限物権としての担保の制度(質・抵当)しか認められていないが、それだけでは不便なので取引界でしだいに発達し、判例法上認められてきた制度である。たとえば、1000万円の資金を得たいと思う工場経営者が、1000万円の消費貸借契約を結ぶと同時に、工場の機械をその担保のために債権者に譲渡し、それを無償で借り、一定期間内に弁済すれば機械の所有権を返還してもらう約束をするという形(担保の目的物を売却し、必要な資金を売却代金という形で調達し、後日この目的物を買い戻すという「売渡担保」も、実質的にはこれと同じ)で行われる。
担保の目的物は不動産や、電話加入権のような権利でもよいが、動産を引き続き手元に置いたまま担保にできる点にこの制度の最大の利点がある(質の制度では、物を債権者に渡さねばならない)。かつて譲渡担保は、所有権を譲渡するという形式が重視され、債務者と債権者の間では、担保の目的でという制限はつくものの、真に所有権の移転が行われるものとして処理されており、たとえば、債権者がこれを第三者に譲渡すれば、その物の所有権は完全に第三者に帰属すると解されていた。ところが、譲渡担保と同じく所有権移転型の担保として慣行上行われてきた仮登記担保が、判例・立法(昭和53年「仮登記担保契約に関する法律」)によって一種の担保権として扱われるようになってから、判例は、譲渡担保についても、所有権移転という形式よりは担保目的という実質を重視し、できるだけ制限物権としての担保権に近い取扱いをするようになってきた。その点で大きく変わってきたのは、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合の債権者の権能である。かつては、債権者の権能には、流質契約と同じように目的物は終局的に債権者の所有となってなんら清算の必要のない場合と、目的物を換価または評価し残額があれば債務者に返還する場合との2種があり、そのどちらであるかは契約当事者の意思によって決まるとされていたが、現在では、たとえ流質契約類似の特約があっても、債権者には清算義務があることが判例によって明示されている。担保という目的からすれば、それで十分だからである。
[高橋康之]
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…この場合,BがCに対して有している売掛金(100万円)債権をAに譲渡し,返済期日までにBが支払えば,この債権はBに戻し,Bが支払わないとAが債権を確定的に取得するという契約をすることがある。BのCに対する債権がAの債権の担保(譲渡担保と呼ばれている)となったのであり,その方法として債権譲渡が利用されているのである。また,債権者がみずから債務者から取り立てることが適当でないなんらかの事情がある場合,第三者に取立てを依頼することがある。…
※「譲渡担保」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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