脳リンパ腫(読み)のうりんぱしゅ

知恵蔵 「脳リンパ腫」の解説

脳リンパ腫

脳の中でリンパ球が異常に増殖する病気のこと。血液がんである悪性リンパ腫の一つで、診断時に脳内だけに病巣が認められるもの(明らかに他臓器からの転移ではないもの)を中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL:Primary Central Nervous System Lymphoma)といい、全脳腫瘍(しゅよう)の約3%を占める。
患者は高齢者が多く60歳代以上が62%を占め、近年、増加傾向にある。発症原因は明らかになっていないが、免疫抑制剤を使用している人やAIDSなど、何らかの理由で免疫力が低下している人に多いことが統計的に分かっている。
大脳小脳の他、視床や海馬など脳の部位を問わず発症する。また、約3分の1は最初の診断時に複数の病巣が見つかる。病巣の位置により障害される脳の機能が異なり、認知機能の低下、失語、視力低下、頭痛嘔吐(おうと)、けいれん、まひなどの症状が現れる。
CTMRIによる画像で腫瘍の存在を確認した後、病巣から組織を採取しての検査(生検)や血液検査などを経て診断が確定する。患者の年齢や見つかったリンパ腫のタイプなどにより、化学療法と放射線治療を組み合わせた治療が検討される。また、海外では患者自身の細胞から培養した幹細胞を移植する治療法で2年生存率が上がったという報告もされている。開頭手術による摘出は、放射線治療の開始時期が遅れることや、再発の可能性も高いことから、通常は選択されない。
化学療法では、メトトレキサート大量療法が行われることが多いが、その他の抗がん剤と組み合わせて投与する治療法も開発されている。放射線治療は脳全体に照射する方法が一般的で、照射量は、病期や放射線治療の目的などから検討される。いずれにしても、治療による副作用を厳重にコントロールする必要がある。
進行が非常に速いため、診断がついたらすぐに治療を始める。50歳未満では、画像で腫瘍の像が見えなくなり、その後再発もないという寛解に至るケースもあるが、高齢になるほど予後は悪い傾向がある。年齢の他に予後不良に関係する因子として、パフォーマンス・ステータス(全身状態の指標)、血清LDH(乳酸脱水素酵素)の高値髄液たんぱく濃度の高値、深部病巣などを挙げている論文もある。

(石川れい子 ライター/2017年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

知恵蔵mini 「脳リンパ腫」の解説

脳リンパ腫

脳にできる悪性リンパ腫。正式名称は「中枢神経系原発悪性リンパ腫」。英名は「Primary central nervous system lymphoma(PCNSL)」。中高年者に多く見られ、罹患率は増加傾向にある。リンパ系組織がない脳に悪性リンパ腫が発生する要因は解明されていないが、免疫系疾患や臓器移植、加齢などによる免疫不全が危険因子として指摘されている。主な症状は、失語、麻痺、頭痛、吐気、嘔吐(おうと)など。標準的な治療法として、抗がん剤を投与した後に全脳に放射線を照射する方法が用いられている。

(2016-3-4)

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