自動車損害賠償保障法(読み)ジドウシャソンガイバイショウホショウホウ

デジタル大辞泉 「自動車損害賠償保障法」の意味・読み・例文・類語

じどうしゃそんがいばいしょうほしょう‐ほう〔ジドウシヤソンガイバイシヤウホシヤウハフ〕【自動車損害賠償保障法】

自動車原動機付自転車を含む)の運行中に他人を死傷させてしまった場合の損害賠償を保障する制度を確立することにより、人身事故による被害者の保護を目的とする法律。昭和30年(1955)施行。この法律により、公道を走るすべての自動車・原動機付自転車に対して加入が義務付けられる自動車損害賠償責任保険の制度ができた。自賠法。→自動車損害賠償責任保険

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「自動車損害賠償保障法」の意味・わかりやすい解説

自動車損害賠償保障法
じどうしゃそんがいばいしょうほしょうほう

略称自賠法。自動車の運行によって、人の生命、身体が害された場合に、その損害賠償を保障する制度を確立して、被害者を保護し、あわせて自動車運送の健全な発達を図ることを目的とする法律。昭和30年法律第97号。

 そのおもな内容は次のとおりである。

(1)自動車の所有者や使用者は、その運行によって他人の生命、身体を害したときは、自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者、運転者以外の第三者に故意・過失があったこと、自動車に構造上の欠陥、機能の障害がなかったことを証明しない限り、これによって生じた損害を賠償しなければならない。

(2)自動車は自動車損害賠償責任保険の契約が締結されていなければ運行できない。ただし、農業協同組合連合会などが行う自動車損害賠償責任共済の契約が締結されていれば運行できる。これらの保険、共済は一般に自賠責保険自賠責共済といわれ、また、締結が強制されているので強制保険ともよばれることがある。

(3)保険金額は政令で定められる。

(4)被害者は直接保険会社に対し保険金額を限度に損害賠償の請求ができる。

(5)責任保険に関する重要事項を調査審議するため、内閣総理大臣および財務大臣諮問機関として自動車損害賠償責任保険審議会が置かれている。

(6)政府は、自動車の運行によって生命、身体を害された者がある場合に、ひき逃げなどで加害者を確認できないとき、また、その自動車に強制保険が締結されていないときには、その受けた損害を填補(てんぽ)する。これを自動車損害賠償保障事業という。

(7)政府は、保障事業により損害を填補したときは、その支払金額の限度において被害者の有する権利を取得し、加害者などに損害賠償の請求をすることができる。

[天野和治・土居靖範]

『保険毎日新聞社編・刊『自賠責保険のすべて』(2008)』

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改訂新版 世界大百科事典 「自動車損害賠償保障法」の意味・わかりやすい解説

自動車損害賠償保障法 (じどうしゃそんがいばいしょうほしょうほう)

自動車事故による人身被害者の保護を目的とする法律。1955年公布。自賠法と略す。本法は運行供用者という新しい責任主体に危険責任原理に依拠する実質的な無過失責任を課すことによって,民法の過失責任主義に対する重大な修正を加えることとなった。すなわち,自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)は,その運行によって他人の生命または身体を害したときは,自己および運転者が自動車運行について注意を怠らなかったこと,被害者または(運転者以外の)第三者に故意または過失があったこと,自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことの三つを立証しないかぎり,賠償責任を負うものとされている(3条)。本法の特色はなによりも,この責任を基礎として強制責任保険(自動車損害賠償責任保険。通称,自賠責)を導入し構造的に被害者補償システムの個別的モデルをつくりあげたことにある。この趣旨を徹底させるために本法では,ひき逃げや無保険車の事故被害者に対する政府保障事業による救済や保険者に対する被害者の直接請求権(これは沿革的には加害者の損害賠償責任の担保が企図されている賠償責任保険(以下,責任保険と略す)にとって本来異質なものである)を認めるといった措置が,とくに講じられている。

 自賠法システムの比較法的特色は,運行供用者責任の責任範囲を制限しないかわりに強制責任保険による塡補額に最高限度を設定したことにある。そのために,被害者補償システムを全体として合目的的に作動させるためには,任意保険の多様な機能領域との合理的調整が当然に考慮されざるをえない。その際一つの可能な選択として強制保険に一元化しうるかどうかの判断にとって決定的なのは,自賠責における最高限度額の決め方であり,それは,たとえば自賠責をたんに損害賠償の履行確保措置とみるかあるいは社会保障的に理解するのかという問題にも依存する。もちろん,任意保険による上積みの必要がなくなる場合においても自賠責が責任保険であることから内在的に生じる保護の欠缺(けんけつ)は残るが,他方で,運行供用者責任自体が責任保険の存在によって認められやすくなっているという事実も想起されるべきである。
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百科事典マイペディア 「自動車損害賠償保障法」の意味・わかりやすい解説

自動車損害賠償保障法【じどうしゃそんがいばいしょうほしょうほう】

自動車(原動機付自転車を含む)の運行による人身事故に対する損害賠償を保障し,被害者を保護するための法律(1955年)。自動車の保有者に重い責任を課し,運行供用者は自己または運転者に過失のなかったこと,被害者または第三者に故意・過失があったこと,自動車に構造上の欠陥がなかったことの三つを立証しない限り,賠償責任があると定める(この責任は雇われた運転者には適用されない)。賠償履行を確保するため,すべての自動車は保険会社(政府が再保険する)と自動車損害賠償責任保険または責任共済の契約を結ばなければならない。この保険は運転者の民法上の過失責任も対象とする。保険金限度額は死亡3000万円,傷害120万円。請求先は本来被保険者であるが,被害者から保険会社への直接請求や仮渡金の請求が認められている。ひき逃げや無保険車などの場合には,政府の自動車損害賠償保障事業により上記保険金額の範囲で補償される。保険料は車種・地域によって異なり,車検の際に支払う。→自動車保険
→関連項目不法行為

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自動車損害賠償保障法」の意味・わかりやすい解説

自動車損害賠償保障法
じどうしゃそんがいばいしょうほしょうほう

昭和 30年法律 97号。略称は自賠法。自動車の運行供用者に重い責任を負わせるとともに,その実質的な裏づけとして,一定額について自動車損害賠償責任保険を強制することにより被害者の救済をはかることを目的とする法律。自動車の増加および,それに伴う事故の激増に対処し被害者の救済を確実にするため制定された。自己のために自動車を運行の用に供する者 (運行供用者) は,その運行によって他人の生命または身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。ただし,自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと,被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと,ならびに自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことを証明したときは,この責任を免れる。 (→自動車損害賠償責任保険 )

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保険基礎用語集 「自動車損害賠償保障法」の解説

自動車損害賠償保障法

自動車の運行によって人の生命または身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的として、昭和30年7月29日法律第97号をもって公布、同年12月1日に施行された法律です。自賠責保険契約の締結強制、囲存の再保険や保障事業などについて規定しています。

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世界大百科事典(旧版)内の自動車損害賠償保障法の言及

【交通事故】より

交通違反【山口 厚】
【自動車事故をめぐる民事法上の問題】
 交通機関の運行によって生じる事故のうち,事故件数の多さなどから事故損害の合理的規制が最も強く要請されているのが自動車事故である。そのため日本でも,とくに自動車による人身事故被害者の損害賠償請求権を確保するため自動車損害賠償保障法(自賠法と略称)が制定され(1955),今日では,自動車事故による損害賠償の多くが同法によって処理されている(もっとも,近時,賠償価額が増大し自賠法による保障では賄われえず,任意に保険をかけることが必然的である)。たとえば,ある会社の従業員が社用のため会社所有の車を運転中に事故をおこした場合,一般法である民法によれば,被害者は運転者または使用者に対し損害賠償を請求するためには,運転者の過失を証明しなければならない(民法709,715条)。…

【自動車損害賠償責任保険】より

…自動車の運行による人身事故の被害者を救済するために自動車保有者または運転者の損害賠償義務の履行を確保することを目的とし,自動車損害賠償保障法(1955公布)により自動車保有者が契約の締結を強制されている保険で,任意自動車保険(〈自動車保険〉の項参照)と区別される。略して自賠責保険ということが多い。…

※「自動車損害賠償保障法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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