改訂新版 世界大百科事典 「自動飛行制御システム」の意味・わかりやすい解説
自動飛行制御システム (じどうひこうせいぎょシステム)
automatic flight control system
航空機の飛行や着陸を自動的に制御するための装置の総称。AFCSと略称されることが多い。第2次世界大戦後,とくに軍用機においては超音速ジェット機が主流となり,運用速度範囲が広くなるに伴って機体の空気力学特性の変化が大きくなり,とうてい操縦者の能力ではその変化に対応しきれなくなってきた。そして,従来用いられていた自動操縦装置は,そもそも操縦者の疲労を軽減することを目的としたもので,所望の姿勢,高度,速度の保持,上昇下降角,針路,つり合い旋回の選択,トリム(重心まわりのつり合い)維持などの機能をもっていたが,この装置では解決できない問題が生じてきたのである。その典型的な例は,日本の航空自衛隊でも使ったロッキードF104戦闘機である。この機体は超音速から亜音速に入って,とくに着陸姿勢において,主翼の空力中心が移動するために生ずる激しい機首上げモーメントによる事故が頻発した。これは従来の自動操縦装置では手に負えず,特別の防止装置を付加しなければならなかった。それは機首両わきに小翼が風向に応じて回転する迎え角計を設け,それによって検知した迎え角と,迎え角の時間変化率を加算した信号によって,それがある値を超えると自動的に操縦かんを油圧で前へ押して下げ舵をとる装置であった。
超音速機の運用の際に生ずるいわゆる悪癖は,このほか機体の形状によっては機首上げと逆の現象もある。これに対応するための装置は,単に所望の姿勢保持,あるいはトリム維持よりも高度な機能をもったもので,機体の特性そのものの変化を補償,あるいは防止する装置であり,従来の自動操縦装置の概念を超えるものとして自動飛行制御システムの名が用いられるようになった。要するに亜音速,遷音速,超音速と,まったく様相の異なる運用範囲で使われる飛行機の制御システムとして登場したものということができる。
慣性航法装置との組合せ
従来の自動操縦装置は,姿勢の基準としてジャイロ(こま)を使った。一方,ジャイロは慣性航法装置への利用に伴って,急速に精度が増し,従来のジャイロ回転軸の歳差変動率が10度/h程度のものが,0.1度/hから0.01度/hと向上した。これは,単に数分程度の短時間の姿勢基準ではなく,慣性航法装置では十数時間にも及ぶ長時間にわたっての加速度を検出するための基準として用いる必要から生まれた結果である。慣性航法装置の加速度検出部分は,航空機の姿勢の変化にかかわりなくつねに方位と水平を保つ安定盤の上に配置されており,この安定盤からの信号を自動操縦装置,縦揺れ,横揺れ,片揺れに対する姿勢基準,方位基準などに用いているのが自動飛行制御システムの大きな特徴といえる。
→慣性航法
自動進入と自動着陸
自動進入,すなわち,計器着陸装置(ILS)の電波ビームに乗って進入することは,自動飛行制御システムも従来の自動操縦装置と変わるところはない。ただし,ILS電波ビームは着陸まで誘導する精度をもたない。このため着陸までを完全に自動的に行う装置として自動着陸装置automatic landing systemが開発され,これも広い意味で自動飛行制御システムに含まれている。現在の自動着陸装置は,機上から電波高度計によって刻々の高度を測定し,その信号によって昇降舵とエンジン推力レバーをプログラム制御して降下,引起し,接地を行うものである。このとき,左右方向についての制御は行っていないので,これについては操縦者が手動で操縦することになるが,正しくILSのローカライザービームに乗っていれば,あとは横風に対する補正だけですむはずである。現在,自動着陸装置は新型機にすべて装着,または装着可能であるが,実際に使っている国はイギリスくらいで,アメリカも日本もイギリスほど気象が悪くないためまだ全面的に使ってはいない。ただし,電波高度計は必須の装備であり,操縦者はデシジョンハイト(着陸するか否かを決断する高度。気象状態と空港のILS電波ビーム精度によって定まる)以下ではその表示に従って手動着陸する。このとき推力レバーの自動絞り装置を作動させて,機体の対気速度を一定に保つよう,エンジン推力を制御することもある。このときは,いわば半自動着陸となる。
→計器着陸装置
今後の動向
自動飛行制御システムは,コンピューターを利用した各種データのディジタル表示化が進められており(ボーイング767以後の新型機には採用が決定している),これによって複雑なエリア航法も容易に実現できるようになる。同時に要求されることは,燃料消費を最適化することを目ざした飛行管理システムの確立である。これは従来操縦者の経験と技量によっていた飛行状態に対するエンジン推力レバーの操作を,コンピューター制御によって自動化するものである。ただし,航空機だけがいくら飛行を管理しても,空港の上空で大幅に待機させられたのでは意味がなく,空路から空港へ出入する全域で総合的に管理する必要がある。
空中における衝突防止システムの確立も大きな課題となっている。レーダーによる地面または地物接近警報装置は,現在の自動飛行制御システムに採用されて好結果を得ているが,衝突防止システムについては早くから各種の提案が行われているにもかかわらず,なかなか実現しない。とくに大型輸送機との衝突の危険性が大きな問題となっている小型の自家用機の場合は,複雑な装備が不可能なのが現状である。
自動着陸の現状は,デシジョンハイト0,すなわち,雲あるいは霧が地面まで垂れている状態でも着陸できるところまできている。しかし着陸したものの,視程0であれば誘導路へ入ることができないから,自動誘導路進入を実現することが課題として残っている。
執筆者:佐貫 亦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報