改訂新版 世界大百科事典 「自然改造計画」の意味・わかりやすい解説
自然改造計画 (しぜんかいぞうけいかく)
自然の有効利用を図るための総合的国土開発計画。もともとはソ連で第2次大戦後,第4次五ヵ年計画(1946-50)においてスターリンが提唱した用語。具体的には,ボルガ川流域における植林,ダム・水力発電所の建設,カラクム運河の開設等によって,自然災害の防止,農村の電化,耕地の拡大などを目指すものであった。ソ連における〈自然改造計画〉の主旨は,資本主義的な開発が一面的で,しばしば資源の略奪・疲弊をもたらすのに対し,社会主義における計画的・総合的開発計画は自然を略奪することなく改良・改造できるというところにあった。このような考え方は一時期大きな影響力をもち,エジプトのアスワン・ハイ・ダムや中国の淮河(わいが)治水事業をはじめ,アジア・アフリカ諸国でいくつかの計画が立案・実施された。しかし資本主義諸国においても,1930年代からのアメリカのTVAをはじめとして,大規模事業が国家的レベルで計画され,第2次大戦後にいっせいに実施に移されるようになったことや,生態系の破壊や公害の発生といった面で社会主義国もまた例外でないことが明らかになるにつれ,〈自然改造〉ないし〈自然改造計画〉という語はしだいに用いられなくなりつつある。
一方,呼び方はどうあれ,自然の総合的開発を必要とした条件,つまり耕地の不足や水資源の確保,交通の利便といった問題は解消されたわけでなく,それを可能にする科学技術の条件もあり,現実には国土総合開発,河川総合開発あるいは列島改造などの名目で,ある種の〈自然改造〉は今でも多くの国で活発に進められている。近年では,〈自然改造〉の名に相当するような大規模な事業計画に対して〈マクロ・エンジニアリングmacro-engineering〉の語が用いられることが多い。
執筆者:奥山 修平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報