航空計器(読み)コウクウケイキ(英語表記)instruments for aircraft

デジタル大辞泉 「航空計器」の意味・読み・例文・類語

こうくう‐けいき〔カウクウ‐〕【航空計器】

航空機の操縦室に備え付けてある計器類の総称。飛行用・発動機用・航法用その他がある。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「航空計器」の意味・読み・例文・類語

こうくう‐けいきカウクウ‥【航空計器】

  1. 〘 名詞 〙 航空機に備え付けてある計器類の総称。操縦用計器、航行用計器、エンジン用計器、計器飛行用計器、その他に分類される。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「航空計器」の意味・わかりやすい解説

航空計器
こうくうけいき
instruments for aircraft

航空機の飛行を安全かつ正確に行わせるため、航空機やエンジンその他機体の各システムの状態を乗員に伝えることを目的として、航空機に装備される計器の総称。航空機の用途、性能、大きさなどに応じて装備される計器の種類や数は非常に多かったが、1980年代に入るとデジタル電子技術の発達によって計器の指示が統合されて、現在では飛行機というと計器で覆われた操縦席といった印象はかなり薄れてきている。

[落合一夫]

航空計器の種類

航空計器には、航空機の飛行に対して法規に定められたもの(基本計器)と、飛行の安全を確保するために追加装備されるものとに分けられる。

〔1〕基本計器 航空機の飛行状態やエンジンの運転状態を示すために、設計基準によって最小限装備することが求められている計器。(1)操縦用計器として、速度計、高度計、磁気コンパスなど。(2)エンジン用計器(主としてピストンエンジン用)として、エンジンまたはプロペラ回転計、燃料油量計、燃料圧力計、潤滑油油量計、潤滑油温度計、潤滑油圧力計など。

〔2〕飛行の安全を確保するため基本計器に加えて装備される計器 (1)操縦・航行用の計器として、旋回傾斜計、昇降計(垂直速度計)、真対気速度計、マッハ計人工水平儀前後左右傾斜指示器)、定針儀、時計など。(2)エンジン計器として、吸気圧力計(ジェット機ではエンジン圧力比計)、気化器温度計、シリンダー温度計(ジェット機では排気ガス温度計またはテールパイプ温度計)、振動計、プロペラまたはエンジン回転数同調計など。(3)計器飛行用の計器。通常の飛行状態で使用する操縦・航行用計器のほかに夜間、雲、霧、雨中など視界の悪い条件のもとでの飛行に使用する計器。ラジオコンパス、コース偏位指示器またはクロスポインター式指示器、低高度精密電波高度計、空中衝突防止指示器など。

 そのほかに、計器ではないが、マーカービーコン通過指示灯、着陸進入角指示灯(VASIS(バシス))、地上近接警報装置(地表近接警報装置)などがある。

[落合一夫]

航空計器の特徴

航空計器は、装備する航空機が空中を飛行するという特性から、ほか(地上)の交通機関の計器に比べ、次のような特徴をもっている。

〔1〕機体の動きが三次元であるため、姿勢(前後左右の傾き)や方向(機首および飛行方向)、高度とその変化の割合の大小などを示す必要がある。

〔2〕速度、気圧(高度)、温度などが大きく変化するので、広い測定範囲で正確な指示であること、また、気圧、温度、加速度の変化が激しい、厳しい環境のもとに置かれるため頑丈で高い耐久性をもつことが要求される。

〔3〕取付け場所や重量の関係から、小型・軽量でなければならない。

〔4〕速度が速いので、ごく限られた時間内に多くの情報を読み取る必要がある。そこで目盛りと指針を使用する計器では、(1)使用範囲や限界にカラーマーキングを施したり、1個の計器の中に複数の同系統の計器を統合して、同時に多くのデータを読み取らせるようにしたりする。(2)特定の目的に必要な複数の情報を1個の計器で総合的に指示させる、いわゆる複合計器を採用している。(3)自動操縦装置(オートパイロット)や慣性航法装置(INS)などのコンピュータと組み合わせて現在の状況を表示させるだけでなく、将来の予測位置や飛行方向を指示するようにしている。(4)現在では古くから使われてきた機械式(指針を動かすのに歯車、てこ、ひげぜんまい等を使用する)構造の計器にかわってCRT(cathode ray tubeの略。ブラウン管)や液晶パネルなどに情報を映し出させる方式が用いられている。これは、デジタル電子技術の発達により飛行に関する多くの情報をデジタル量に変換してコンピュータで処理し、さらにアナログ量に変換してCRTなどに表示させるもので、在来の機械式計器システムでは表せなかった指示が得られ、操縦士の飛行に関する負担を大きく軽減している。

 その結果、従来のような目盛りと指針を組み合わせた計器に覆われていた操縦室または操縦席計器板は、数個のCRTに置き換えられて昔日のおもかげは一掃されている。

[落合一夫]

計器の配列

航空機は、機体が大型になるほど、また長距離・長時間の飛行を行うほど運航に関する情報が多くなるので、複合計器を採用してもなお多数の計器が必要となる。そのため合理的で読み取りやすい計器の配列が要求される。1960年以前の航空機では、機種ごとに配列が異なっていて機種が変わるたびに訓練が必要で、時間や労力の損失だけでなく安全性に及ぼす影響も少なくなかった。そこで民間航空機では、ジェット旅客機の導入を機に、航空機の設計基準に飛行関係の基本計器(高度、速度、傾き、方向)の配列についての規定が設けられた。これは元来大型機に対して定められたものであるが、現在では世界的にあらゆる機種に用いられている。

 なお、大型機になると飛行関係の計器のほかにエンジンや機上の空調、高圧空気、電気、油圧などの各システムが加わり、その操作にあたっても多くの計器が必要となる。多発機ではシステムを多重化するので、必然的に計器の数も多くなって、初期の大型機では、システムを専門に運用する航空機関士を乗務させ専用の計器板を設けていた。しかし、現在はエンジンの性能や機上の各システムの信頼性が向上したため、システム関係の計器類も操縦士の計器板に集約され、また機上の操作の自動化が徹底したため、ジャンボ機クラスの機体でも航空機の運航は正・副2名の操縦士で行うことができる。

 また、着陸進入の際、計器と滑走路とを交互に視線を変えなくても、一部の計器の指示を操縦士の目の前に映し出して両方を同時に重ね合わせて見ることができる、ヘッドアップディスプレー(HUD)システムも一部の航空機に使われている。

[落合一夫]

『田島奏著『新航空工学講座10 航空計器』(1987・日本航空技術協会)』『秀島卓著『航空計器入門』第3版(1992・九州大学出版会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「航空計器」の意味・わかりやすい解説

航空計器 (こうくうけいき)
instrument for aircraft

航空機に装備される計器の総称。姿勢,速度などの飛行状態を知るための飛行計器,自分の位置を知るための航法計器,エンジンの運転状態を知るためのエンジン計器およびその他の機体付属計器に大別され,戦闘機などの軍用機では兵装に関連した計器も必要となる。地上の交通機関で用いられる計器に比べ,高い精度をもっていること,小型,軽量であること,温度,圧力などの環境の変化に対する耐久性に優れていること,応答が速いこと,表示の読取りが容易であることなどが強く要求される。

初期の飛行機では,飛行・航法計器としてせいぜい時計,高度計,速度計,磁気コンパスくらいを装備しているにすぎなかった。しかも高度計も気圧計の読みを標準大気に従って換算した気圧高度を示すもので,現在のような補正を行う機能はもっておらず,地上の気圧が標準気圧と異なる場合や,実際の大気が標準大気のとおりの高度変化をしない場合は誤差を生ずる。また速度計も空気に対する機体の速度,すなわち対気速度だけを表示するもので,風があればその指示する速度は対地速度とは異なる。初期のエンジン計器としては回転計が最重要で,これが絞弁の開度を調整して必要な出力を得るための基準として用いられた。1930年代になると,それまでもっぱら操縦者の目測や勘に頼っていた機体姿勢の判定に,自由ジャイロを利用した人工水平儀による表示が用いられるようになり,雲中や夜間の盲目飛行計器飛行方式と呼ばれる計器のみに頼る飛行方法も可能となった。第2次世界大戦中および戦後は軍事上の要請もあって,レーダー,計器着陸装置(ILS),地上管制誘導設備(GCA)などの電波を利用した誘導方法,無指向性無線標識(NDB),超短波全方向式無線標識(VOR),距離測定装置(DME)などの航行援助無線施設,さらに慣性航法装置が開発,利用されるようになり,現在ではこれらの情報を表示する計器も重要な航空計器となっている。
慣性航法 →航空保安無線施設

航空機の種類,用途,大きさなどによって装備される計器には多少の差異はあるが,飛行計器としては対気速度計,高度計,磁気コンパスやジャイロコンパス,人工水平儀,旋回傾斜計などが,航法計器としてはNDB,自動方向探知機,ADF,慣性航法装置などの表示器が,またエンジン計器としては回転計(ピストンエンジンではプロペラの回転数,ジェットエンジンでは圧縮機の回転数),シリンダー温度計(ジェットエンジンでは排気温度計),燃料流量計,燃料油量計,潤滑油油量計,潤滑油温度計,潤滑油圧力計などが基本的なものである。

 対気速度計はピトー管を利用して航空機の空気に対する速度(対気速度)を表示するもので,測定された速度をそのまま表示する指示対気速度計と,大気の圧縮性や密度による誤差を補正して表示する真対気速度計があり,またマッハ数を表示するマッハ計を組み込んでいるものがふつうである。高度計には機上から地表に向けて発射した電波が戻ってくるまでの時間を測定して,これを高度に換算して表示する電波高度計,気圧を測定してこれを標準大気に従って高度に換算して表示する気圧高度計がある。後者は地上が標準大気圧でない場合や,実際の大気が標準大気のとおり高度とともに変化しないときには表示に誤差が生ずるので,地上からのそのときの気圧の情報に基づいて誤差を補正する機能を備えている。ふつう2500フィート以下の高度では電波高度計を,それ以上では気圧高度計を利用する。昇降計は高度による気圧変化を検知して上昇,下降の際の垂直方向の速度を表示するもの,人工水平儀は機体の縦揺れ角と横揺れ角を表示するもので,水平面に対する航空機の前後左右の傾きを知ることができる。旋回傾斜計は旋回時の角速度を表示するとともに,旋回時の横滑りの有無(揚力,重力,遠心力のつり合いがとれているか否か)を示す計器である。

 多数の計器を監視しながら操縦を行うことは操縦者にとっては大きな負担であり,また多数の計器を操縦者の視界内に配置することも困難なため,複数の計器の機能を一つの計器に統合する場合がある。その代表的なものが姿勢命令指示計(ADI。attitude director indicatorの略)と水平状態指示計(HSI。horizontal situation indicatorの略)である。ADIは人工水平儀,旋回傾斜計,ILSによる進入のコースからの偏差表示の三つの機能を統合したもので,垂直面内における表示を行うが,単に情報を表示するだけではなく,あらかじめ選択しておいた飛行方式を行うために必要な操縦を指示する機能(フライトディレクターの機能)ももっている。HSIはコンパス,地上の航行援助無線施設からの電波による情報の表示,ドップラーレーダーによる対地速度の表示,ILSの降下角および方位電波からの偏差の表示などの機能を統合したもので,水平面内における表示を行う。最新鋭のジェット輸送機(ボーイング767および757,エアバスA310など)ではADI,HSI,エンジン計器にCRTによる表示が採用されており,監視すべき計器の減少,信頼性の向上,重量の軽減のみならず,情報の入出力においても画期的な増大が可能となっている。現在のところ,まだ従来の気圧高度計,対気速度計,昇降計などが使われているが,これらもいずれCRT表示に変わると思われる。

 なお,航空計器の配置については特別な基準はないが,長い間の経験によっておおよその原則は確立されている。すなわち,飛行・航法計器は操縦者の正面(副操縦席がある場合は副操縦者の正面にも)におき,そのうち姿勢を示す計器を中央の上部に,方位を示す計器をその直下に,姿勢計器の左側に速度を示す計器を,また右側には高度を示す計器をおく(T型配置と呼ばれる)のが慣例となっている。エンジン計器は飛行・航法計器の右におくことが多いが,機体によっては他の位置もあり,また副操縦席がある場合は,操縦席および副操縦席正面の飛行・航法計器の中間にまとめる。

計器を見るために操縦者が外界から視線をそらすことは安全上好ましいことではない。このため必要な計器情報をCRT上に集め,これを操縦者前方の透明パネルに映し出すことによって外界の視野とともに見えるようにした表示装置をヘッドアップディスプレーhead up displayという。軍用機の射撃管制装置から発達したもので,民間のジェット輸送機にも利用されるようになってきている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「航空計器」の意味・わかりやすい解説

航空計器【こうくうけいき】

航空機の装備する計器の総称。姿勢,速度などの飛行状態を知るための飛行計器,エンジンの作動状態を知るためのエンジン計器,航法用計器などに分類される。飛行計器には速度計,高度計,昇降計,水平儀,傾斜計,旋回計などが,エンジン計器には回転計,排気温度計,燃料油量計などが,航法計器にはレーダー,慣性航法装置のディスプレーなどがある。これらは軽量小型化と同時に,耐久性,耐震性,耐温度変化性などの諸特性を備えた,高度の正確性と信頼性が要求される。
→関連項目計器航空

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「航空計器」の意味・わかりやすい解説

航空計器
こうくうけいき
aircraft instruments

安全で能率的な飛行のために必要な情報を乗組員に提供する目的で航空機に装備されている計器。対気速度計,高度計,昇降計など飛行状態を知るための飛行計器,旋回傾斜計,水平儀,定針儀などのジャイロ計器,自動方向探知装置 ADFおよび超短波全方向式無線標識 VORなど航法に利用される航法計器,エンジンの回転計,燃料圧力計,排気温度計,燃料計などエンジンの作動状態と燃料の消費状態を知るための動力計器,脚,ブレーキ,フラップなどを作動させる油圧系統の計器,客室の圧力や温度を指示する計器などが含まれる。こうした計器類の代わりに情報をデジタル化して,計器パネル上の液晶ディスプレイに表示するグラスコクピットも多い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android