強い蛍光を発する溶液中の有機色素を活性材料とするレーザー。1966年にパルス発振が,70年には時間的に連続発振が実現された。その結果,色素の種類と励起光源の波長を適当に選択することによって,0.32μm(紫外)から1.2μm(近赤外)の広い波長範囲にわたって波長可変のレーザー光が得られるようになった。フラッシュランプ励起波長可変レーザーは,色素溶液セル,フラッシュランプ,波長可変のための回折格子およびレーザーを取り出すための反射係数98%程度の反射鏡とから成っている。回折格子と反射鏡とで光共振器を形成する。現在では,フラッシュランプのほかに,窒素ガスレーザー,アルゴンまたはクリプトンガスレーザー,ネオジミヤムYAG(ヤグ)レーザーの2倍波(533nm)や3倍波(322nm),XeClやXeFのエキシマー・レーザーなどがよく用いられている。色素分子の発する蛍光の波長領域は色素分子の種類に特有である。たとえばローダミン6G色素は,570nm(黄)から618nm(だいだい)の範囲にのみ発振する。したがって,上記のような広い波長範囲にわたるレーザー光を得るためには,何十種類もの色素溶液を交換する必要がある。色素が吸収した光のエネルギーに対して,レーザーとして取り出す光エネルギーの割合を変換効率といい,これが40%にも達する場合もあるが,通常20%以内である。現在では,色素レーザーを用いて,種々の方法を応用することによって,パルス幅が1ps(1兆分の1秒)よりも短い極超短パルスレーザーが得られており,光化学反応過程等の超高速現象の研究に用いられている。色素レーザーは,図に示したように,光励起4準位レーザーである。色素分子が励起光を吸収して,電子励起状態のうちでも振動的に高い状態(第4準位)に励起される。励起された色素分子は溶媒分子との絶え間ない衝突によって振動的に低い状態(第3準位)にまで,きわめて速く(1ps程度で)降りてくる。この準位から蛍光を発して,電子的には基底状態であるが振動的には励起した状態(第2準位)に移る。この際の蛍光を共振器内で増幅したものがレーザーである。第2準位にある色素分子は,溶媒分子との衝突によって速やかに(1ps程度で)除かれ,第1準位に帰る。最大出力100Jにも達する大出力パルス色素レーザーが得られている。出力が数mW以上の色素レーザーを安定に発振させるためには,色素分子の分解を避ける目的で,色素溶液は循環し冷却されている。
→レーザー
執筆者:正畠 宏祐
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
1964年,D.L. Stockmanらが,ペリレンのベンゼン溶液を共振器を構成する二つの鏡の間に入れ,フラッシュランプで励起したところ,蛍光強度の増加を観測した.これがおそらく色素レーザーの可能性を示した最初の実験である.実際にレーザー発振が観測されたのは,1966年,P.P. Sorokinらがクロロアルミニウムフタロシアニン溶液で行った実験である.その後,各種の色素レーザーが見いだされている.以下に色素と発振波長を列挙する.シンチレーター用色素(320~460 nm),クマリン系(420~570 nm),ローダミン系(570~610 nm),キサンチン系(540~680 nm),オキサジン系(600~780 nm),ポリメチン系(0.7~1.2 μm).
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…アルゴンイオンレーザー(アルゴンレーザーともいう)は514.5nm,488.0nmなど可視域で数本の強い発振線をもつほか,紫外から近赤外の広い範囲で50本以上の発振線をもつ。可視域の発振線は連続的に数Wの出力をだすことが可能で,色素レーザーの励起やラマン分光など強い光が要求される分野で多用されている。これに性質の似たレーザーにクリプトンイオンレーザー(クリプトンレーザー)などがある。…
※「色素レーザー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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