荒廃した田畠の総称で,年貢,公事の免除地。検注帳などでは,常荒(じようこう),年荒(ねんこう),荒,不作(ふさく)のような区別がみられた。常荒とは,かつて田畠として開発されたが,地質,地勢などの条件によりほとんど収穫が望めないため,長い間放置されたままの荒地をいう。田畠全体に占める常荒の割合は,地域的偏差はあるが比較的小さい。年荒は,地力の減退,灌漑用水の不備,労働人口の移動性などの諸条件により,ある期間耕作を放棄した田畠をいい,〈かたあらし〉とも称した。この田畠は,12世紀前半以前では,平均すれば耕地面積の30~50%にも達し,長いものは10年余りも耕作されなかった。なお,年荒は現在耕作している見作田(げんさくでん)と入り組んで存在し,同一耕地に年荒と見作田が並存したことも多い。また,年荒の部分には注連(しめ)をおろさず,百姓ら共同の放牧地などとして利用された。
12世紀後半から13世紀前半にかけて,年荒の満作化が飛躍的に進んだ。その大きな契機は,これよりさき,農地の経営形態が,毎年百姓に耕地を割り付ける散田請作(さんでんうけさく)から百姓に耕地の保有権を認めた百姓名(ひやくしようみよう)(名)編成へと転換したことにある。百姓らは積極的に池溝を整備し,みずからの耕地に集約的な労働を投下することになった。国衙や荘園領主などが,同時期に大規模な灌漑用水の整備,開発を図り,干害の危険がかなり減少したこともその要因である。畠地の場合,施肥技術が未発達なため,灌漑用水より栄養分の補給される水田に比して,年荒の度合が高かった。13世紀に入ると,年荒ということばに反比例して,不作ということばが多く用いられるようになった。これは,年荒ということばが元来内包していた,地力の減退,労働力の過少などの条件による〈半ば計画的な休耕〉という側面が,この時期しだいに意味を失いつつあったためと推測される。不作とは,灌漑用水の不備,天候異変,百姓の逃死亡などにより,一時的にしろ,作付けしない田畠を意味した。
不安定耕地の満作化は,このような性格変化を伴いながら進行した。しかし,見作田の中に占める十分収穫の望めない田畠,つまり損田(そんでん)(損亡(そんもう))の割合は,まだ常時30~50%近くにも達していたのである。同一耕地の中に浅田,深田が並存することもよくみられ,湿田も多かった。そのため,収穫はいつも安定しなかった。耕地の改良は,その後現代に至るまで,百姓らの大きな課題の一つであった。
執筆者:松井 輝昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古代の律令制において、荒廃して耕作が不能となった田地。荒廃田(こうはいでん)ともいう。春の耕種後に荒廃した損田(そんでん)とは異なる。台帳上では耕作可能にもかかわらず、実際は耕作されない不堪佃田(ふかんでんでん)や、恒常的な荒廃田である常荒田(じょうこうでん)も荒田である。大宝令においては、未熟荒野の地を意味する荒地(こうち)の語とは区別された。田令荒廃条では、3年以上経過した荒廃田は希望者に貸与して再開墾させたが、口分田(くぶんでん)などの私田は3年で田主に、乗田などの公田は6年で国家に返却させた。しかし、荒廃田は増加し、平安時代の初期には賜田(しでん)として親王らに与えられた。なお、地味が薄く、年ごとの耕作が無理な田地は、大宝田令では易田(えきでん)という。その後、毎年の耕作が不可能で休耕が必要な不安定な耕地は、年荒(ねんこう)や片荒(かたあら)しと呼ばれた。他方、常荒田を再開墾する者には、終身の用益権が認められるようになった。
[吉村武彦]
『戸田芳実著『日本領主制成立史の研究』(1967・岩波書店)』▽『井上光貞他校注『日本思想大系3 律令』(1977・岩波書店)』▽『弥永貞三著『日本古代社会経済史研究』(1980・岩波書店)』▽『宮本救著『律令田制と班田図』(1998・吉川弘文館)』
古代において,荒廃田・不堪佃田(ふかんでんでん)・常荒田などとよばれる,自然災害や人口の減少によって耕作が放棄された田。未墾地を示す荒地と区別した。田令によれば荒廃して3年以上たった田は,私田なら3年間,公田なら6年間,希望者による借耕が認められていた。9世紀には再開墾者一身の間の用益権や免租を認めるなどの恩典が施されるようになるが,国司の申請する不堪佃田はしだいに増加した。なお中世の荘園制下では見作田(げんさくでん)に対して荒田があり,課税対象から外された。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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