(読み)ナ

デジタル大辞泉 「名」の意味・読み・例文・類語

な【名】

ある事物を他の事物と区別するために、それに対応するものとして与える、言語による記号。名前。
㋐一般に、その事物の呼び方。「人との付く生き物」「花の
㋑ただ一つしか存在しないものとしての、その事物の固有の呼び方。「富士というの山」「もない島」
㋒その人の、固有の呼び方。氏名。姓名。また、姓に対して、家の中でその人を区別する呼び方。「初対面を名乗る」「子にを付ける」
㋓その集団・組織などの呼び方。「学校の
集団・組織などを代表するものとして、表向きに示される呼び方。名義。「会社ので登記する」

㋐評判。うわさ。「好き者のが広がる」
㋑名声。名誉。「世にの聞こえた人物」「家のを傷つける」
㋒守るべき分際。名分。→名を正す

㋐うわべの形式。体裁。「会社とはばかりの個人経営」
㋑表向きの理由。名目。「福祉事業ので営利をむさぼる」
[下接語]あだあだあて家名一名浮き名うじ烏帽子えぼしおお贈り名おさな男名替え名隠し名から国名源氏名小路こうじしこ通り名殿名暖簾のれん又の名物の名大和やまと呼び名わらわ
[類語](1)(2名前名称めい名義呼び名しょう呼称称呼称号とな名目ネームネーミング/(3信用評判名誉英名名聞美名盛名令名栄冠栄光栄誉光栄誉れ栄え光輝栄名声誉名声勇名雷名威名英名佳名驍名高名嬌名好評有名著名名うてしん信頼信任信望人望定評暖簾のれん覚え名望声望徳望人気魅力受け面目体面面子メンツ一分いちぶん沽券こけん声価

めい【名】[漢字項目]

[音]メイ(漢) ミョウ(ミャウ)(呉) [訓]
学習漢字]1年
〈メイ〉
人や物の呼び名。「名刺名称名簿名目家名改名学名偽名国名氏名指名書名署名除名姓名題名地名知名匿名売名病名品名別名命名連名
世に知られた名前。ほまれ。評判。「名声名誉悪名栄名汚名虚名声名盛名著名文名有名勇名
名高い。すぐれている。「名案名医名曲名作名士名手名所名勝名人名店名物名文名門
言葉で言い表す。「名状
名古屋。「名神
〈ミョウ〉
な。「名字名跡名代異名戒名称名俗名本名
ほまれ。評判。「名利悪名功名
昔、所有者の名を冠した荘田。「名田小名大名
〈な〉「名前渾名あだな宛名あてな仮名かな真名
[名のり]あきら・かた・なずく・もり
[難読]名残なごり

めい【名】

[名]
なまえ。な。「姓と
名詞の上に付いて、すぐれている、評判が高い、などの意を表す。「文句」「校長」「ピアニスト」
[接尾]助数詞。人数を数えるのに用いる。「40
[類語](1名前名称呼び名しょう呼称称呼称号とな名目名義ネームネーミング/(

みょう〔ミヤウ〕【名】

名田みょうでん」の略。
名代みょうだい」の略。
「夫は所の―にさされて」〈虎寛狂・筑紫の奥

みょう【名/命/明/冥】[漢字項目]

〈名〉⇒めい
〈命〉⇒めい
〈明〉⇒めい
〈冥〉⇒めい

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精選版 日本国語大辞典 「名」の意味・読み・例文・類語

な【名】

  1. 〘 名詞 〙
  2. [ 一 ] 個、または集合としての事柄や物を、他から区別するために、対応する言語でいい表わしたもの。なまえ。
    1. 一般に物事の名称。呼び方。
      1. [初出の実例]「酒の名を聖(ひじり)とおほせしいにしへの大き聖の言(こと)のよろしさ」(出典:万葉集(8C後)三・三三九)
    2. 固有のものとしてつけられた呼称。固有名詞
      1. [初出の実例]「このいけといふは、ところのななり」(出典:土左日記(935頃)承平五年一月七日)
    3. 特に、人やその集団につけられた名称。
      1. (イ) 家や家系としての呼称。血縁集団名としての氏(うじ)や職名としての姓(かばね)など。氏姓(しせい)
        1. [初出の実例]「惜(あたら)しき 清きその名(な)そ おぼろかに 心思ひて 虚言(むなこと)も 祖の名絶つな 大伴の 氏と名に負へる 大夫の伴」(出典:万葉集(8C後)二〇・四四六五)
      2. (ロ) 一個人の呼称。名前。
        1. [初出の実例]「兄(いろね)の名(な)は蠅伊呂泥(はへいろね)」(出典:古事記(712)中)
      3. (ハ) 仏などの名号、または、経典の題目。
        1. [初出の実例]「汝、般若の名を聞き奉れる善有り」(出典:今昔物語集(1120頃か)七)
  3. [ 二 ] [ 一 ]に伴う事柄、または、その属性を象徴するものとしての名称。
    1. 評判、うわさ。
      1. [初出の実例]「名取川、いかなる名を取りたるならんと聞かまほし」(出典:枕草子(10C終)六二)
    2. 特に、よい評判をいう。名声。また、名誉。
      1. [初出の実例]「士(をのこ)やも空しくあるべき万代に語り続ぐべき名は立てずして」(出典:万葉集(8C後)六・九七八)
    3. 名称だけが実体から離れて先行すること。評判だけの名称。実体を表わしていない名前。虚名。
      1. [初出の実例]「家島は奈(ナ)にこそありけれ海原を吾(あ)が恋ひ来つる妹もあらなくに」(出典:万葉集(8C後)一五・三七一八)
    4. 名前に伴って守るべき分際。名分。「名をただす」
  4. [ 三 ] ( 形式とその実際の内容とを対比して ) 表面的な理由や体裁。名目。
    1. (イ) 表面上の名誉や体裁。
      1. [初出の実例]「こんなときは名よりも実をとった方がいいと思ふな」(出典:肉体の悪魔(1946)〈田村泰次郎〉)
    2. (ロ) 表向きに出す形式上の名義。「社長の名で寄付をする」
      1. [初出の実例]「福江の日農支部を勧誘して、日農の名で許可をとった」(出典:ノリソダ騒動記(1952‐53)〈杉浦明平〉四)
    3. (ハ) 何かするためにつける理由。口実。
      1. [初出の実例]「汝等ばかり芝居見物に行けと、皆の衆へと名がついたら」(出典:浮世草子・傾城禁短気(1711)六)
      2. 「客来を名にして飲んで居たのを」(出典:福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉老余の半生)
  5. [ 四 ] ( 助詞「の」を伴って用いる ) 名声の高いこと。有名。名代。
    1. [初出の実例]「誠に昔男の植へ置きし名の桜散らぬうちに見に行かぬかと、さそふ水」(出典:浮世草子・椀久一世(1685)上)
  6. [ 五 ] 文字。古く、その物に対する名称の意から転用したもの。真名(まな)、仮名(かりな・かな)など。
    1. [初出の実例]「表䟽(ふみ)(からす)の羽(は)に書(か)けり。字(ナ)、羽の黒き随(まま)に、既に識る者(ひと)無し」(出典:日本書紀(720)敏達元年五月(前田本訓))
  7. [ 六 ]なごり(名残)の折」の略。
    1. [初出の実例]「初折の裏より名の表へむけて此元にて仕」(出典:浪化宛去来書簡‐元祿七年(1694)五月一三日)

名の補助注記

上代にあっては、言霊信仰によって、名すなわち物、ことばすなわち実体というとらえ方や意識が強く残っていたと思われる。


みょうミャウ【名】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 仏語。物質(色(しき))に対する心のはたらきをいう。〔倶舎論‐四〕
  3. もののなまえ。な。名称。
    1. [初出の実例]「法若菩提、食亦菩提、名等義等、故言等」(出典:永平道元禅師清規(13C中)赴粥飯法)
  4. 名聞、名声。
    1. [初出の実例]「文章博士永範朝臣〈四位〉頗有博学之名」(出典:台記別記‐久安三年(1147)一二月一一日)
  5. みょうでん(名田)」の略。人名などの固有名詞を冠し、何々名と呼ぶ。
    1. [初出の実例]「今即勘取、令地子、而前々付家継之名、未進巨多」(出典:百巻本東大寺文書‐四七・貞観元年(859)一二月二五日・近江国依智荘検田帳)
  6. みょうだい(名代)」の略。
    1. [初出の実例]「わたくしも、在所のみゃうにさされてまいった程に」(出典:虎明本狂言・筑紫奥(室町末‐近世初))

めい【名】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 人や物につけて、他と区別するための名前。名目。名(な)。〔管子‐心術・上〕
    2. めいか(名家)
      1. [初出の実例]「博く儒士法、名諸家の説にも通じてゐたが」(出典:李陵(1943)〈中島敦〉二)
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙 人数を数えるのに用いる。
    1. [初出の実例]「局員四十有余名と言やア大層のやうだけれども」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一)
    2. [その他の文献]〔荘子‐則陽〕
  3. [ 3 ] 〘 造語要素 〙 ( 名詞の上について ) 良い、すばらしい、定評のある、などの意を添える。「名選手」「名演技」など。
    1. [初出の実例]「近所に名(メイ)蕎麦が出来た。〈略〉その名代蕎麦を取寄せて、あなたへ上い」(出典:咄本・都鄙談語(1773)鸚鵡)

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普及版 字通 「名」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 6画

[字音] メイ
[字訓] な・なだかい・ほまれ・もじ

[説文解字]
[金文]

[字形] 会意
夕()+口。口は(さい)、祝を収める器。子が生まれて三月になると、家に告げる儀礼が行われ、そのとき名をつけた。〔説文〕二上に「自ら命(ない)ふなり。口夕に從ふ。夕なるは冥(めい)なり。冥(くら)くして相ひ見ず。故に口を以て自ら名いふ」とするが、字の上部は祭肉の形。下は祝の器のの形である。〔礼記、内則〕に生子の礼を詳しく記している。命名は祖霊の前で行われ、加入儀礼としての意味をもつ。名実の意から、名分・名声・名流のように用いる。

[訓義]
1. な、なづける、なをいう。
2. ものの名、よびかた、実に対する名、表現、名分。
3. 名が知られる、なだかい、ほまれ、てがら。
4. しるす、文字。
5. 目の上、眉と目の間。

[古辞書の訓]
名義抄〕名 ナ・ナザシ・カナハラ・フフム・ナヅク

[声系]
〔説文新附〕に名声として・銘・などの字を収める。銘は列国期の器銘にもみえ、古くは名の字を用いた。

[語系]
名・命miengは同声。命は古くは令liengとしるし、神意によって与え命ぜられることをいう。名は家に祀って命名を求める儀礼である。

[熟語]
名医・名意・名位・名苑・名園・名家・名下・名価・名華・名花・名画・名官・名柬・名貫・名器・名貴・名・名妓・名義・名教・名区・名・名・名賢・名検・名顕・名言・名彦・名工・名公・名功・名行・名香・名高・名号・名豪・名作・名山・名士・名刺・名紙・名氏・名指・名字・名辞・名実・名爵・名酒・名手・名儒・名宿・名称・名匠・名相・名倡・名象・名将・名状・名帖・名城・名色・名臣・名人・名世・名声・名姓・名勢・名迹・名跡・名績・名蹟・名籍・名節・名川・名素・名宗・名僧・名族・名賊・名単・名地・名冑・名牒・名通・名田・名都・名塗・名刀・名答・名徳・名・名馬・名・名閥・名藩・名筆・名品・名物・名分・名問・名聞・名片・名・名捕・名簿・名宝・名望・名木・名目・名門・名約・名薬・名誉・名藍・名利・名理・名流・名例
[下接語]
悪名・威名・異名・懿名・一名・英名・栄名・汚名・仮名・佳名・家名・華名・嘉名・改名・学名・干名・官名・記名・貴名・偽名・旧名・休名・虚名・矜名・梟名・徼名・驍名・空名・形名・嫌名・顕名・古名・沽名・巧名・高名・諢名・才名・罪名・策名・指名・自名・実名・取名・修名・醜名・襲名・徇名・書名・署名・除名・称名・唱名・人名・正名・成名・声名・姓名・斉名・清名・盛名・勢名・争名・尊名・大名・題名・貪名・地名・知名・著名・通名・伝名・逃名・同名・匿名・売名・美名・筆名・病名・浮名・物名・文名・聞名・別名・変名・芳名・法名・本名・無名・命名・有名・勇名・幼名・揚名・雷名・立名・隆名・令名・連名

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改訂新版 世界大百科事典 「名」の意味・わかりやすい解説

名 (な)
name
label

われわれをとりまく森羅万象,そのすべてに名があるわけではない。名付けられたものもあれば,名付けられていないものもある。それは当該の文化と強い相関関係を持っている。

 名を与えるという行為には,名付ける人と名付けられる対象とが関与している。そしてその行為の主体は,それぞれの文化を背負った名付ける人の側にある。つまり,名はある意味で名付ける人の側の〈世界像〉を示すものであり,典型的には世界のさまざまな神話にみられる〈名まえを持たぬものに対して名まえを与える状況=創造の状況〉といった多くのテキストが,命名という行為の本質を雄弁に物語っているとみることもできる。しかし,それが一方の真実であることはまちがいないにしても,他方で名を与えるという行為には,明らかに名付けられる対象自体の性質もかかわって,名付けられるものと名付けられないものとが出現すると考えられる。

 対象にもさまざまの物あるいは現象,概念がある。それらには名付けられるべきものとして存在するものから,名付けられる保証のまったくないものまでの異なりがある。たとえば,大きくいえば生物の種は名付けられるべきものとして存在している。それは生物そのものの中にすでに区別・識別される秩序が存在しているからである。われわれは名を知らずとも鳥の種を区別することができる。それは名の存在以前にすでにそれをそれと認めていることを物語る。そして,実はこのことを基礎として生物の分類学は成立しているのである。また,いわゆる未開の人々の動物や植物の名付け方には,世界中を通して驚くほどの相似性が認められるのもこのゆえである。

 一方,日本語で〈恩〉や〈義理〉と名付けられた概念は,必ずしもどの文化にも通ずるものではない。そうした概念は人類文化に普遍的なものではないから,それ自体がつねに名付けられるべき存在であるとは限らない。このような問題こそ,文化人類学が好んでとりあげる題材である。R.ベネディクトがとりあげた日本文化における〈恥〉,それに対比されるキリスト教世界における〈罪〉も,その一つの例としてあげることができるであろう。〈恥〉や〈罪〉は,それぞれの文化を背負った人々が概念化し,その特殊な概念に名を与えたものである。

 時間,空間,色などに関する名は,名付ける側の文化的規定性と名付けられる対象自体の性質の中間に成立するものであろう。たとえば,時間そのものは連続的なものであり,それをどのように分節するかによって異なった概念および名が出現する。実際に世界各地においてさまざまの時間概念のあることが知られている。しかし一方で時間は,地球の自転や太陽のまわりを地球がまわるというような天文学的制約からは逃れられない。だから,一日や季節というものは認識されるべき現象として存在するといえる。また,色自体も連続的に変化するものであり,さらに色は,単に明度や色相,彩度によってだけできまるものではなく,さまざまな色概念が存在しうる。たとえば,フィリピンのミンドロ島南部に住むハヌノオ族では〈乾〉と〈湿〉の対立が色概念の中にとりこまれている。しかし,色を知覚する人間の目の生理学的制約も無視できない。白,黒,赤,黄,青,緑の6色は,人間の目の構造から知覚されるべき基本的な色として存在している。このように,さまざまな現象は生物学的,天文学的,あるいは人間の生理学的な制約を多かれ少なかれうけており,ほとんどの物,現象,概念は先に述べた両者のどこかに位置するものである。

 ところで,このような対象の広がりと各文化による差異の中で,人々がある物,現象,概念に名を与えるかどうかは,その文化の中での必要性と相関しているという点では共通のようである。ただし,必要性の内容はかなり広くとらねばならないであろう。生存のための必要性から好奇心のための必要性まで含めなければならない。生物の種を例にとれば,どの文化においても有用生物種は必ず命名されており,他方,利用されない生物種は一般に名を持たない。それらの種は区別され認識されているにもかかわらず,名を持たない。しかし,文化によっては,実際的な用途を持たない種に対しても,なお名を付けることがある。好奇心あるいは人の知らぬことを知っていることがその文化においても高い評価を受けるならば,そうしたことも起こりうる。そして,そのときはすでに無用ではなく,一種の必要性を持っているといえるであろう。すなわち,必要性の中味はある程度まで文化とかかわっているのである。一般的にいって,人間を中心として心理的に人間に近いものには詳細な命名体系が存在し,遠くなるほど名はおおまかになり,そしてついには名が与えられなくなる。

 ある物,現象,概念が名付けられるとき,ほとんどの場合,対象と名とは一対のものとして関係づけられているが,いったん名が確立されると,名はただちに独り歩きするようになる。たとえば家畜につけられた〈犬〉という名は,やがてイヌそのものを離れて,イヌの特徴的属性(たとえば従順,盲従)へと拡大され,人に対してもある意図をもって〈犬〉という名を用いることができるようになる。このような意味の拡大あるいは転用は,いろいろの名において普通に起こることである。そして,名は結果としていろいろの意味を持つ多義性を帯びてくる。時には元の意味さえ不明になるほどに変化することさえある。このような意味の拡大・転用は,詩やことば遊びの中でとくに頻繁に起こる。そして,それは名の持つ明快性を減少させる一方で,人間文化の内容をよりいっそう豊かなものにしているともいえる。

 しかし,そのような中で固有名詞は例外的な存在であり,たとえばある人の名は(原則的に)その人以外を指し示すことがない。その意味で固有名詞というものは,有限の手段によってあらゆるものを名指すことのできる創造的な仕組みとしての自然言語の中で,拡大や転用とは無縁な一対一対応の(その意味で信号(シニャール)的な)特殊性を帯びているが,ロシアの記号論学者Yu.M.ロートマンらも指摘したように,逆にそれゆえにこそ,固有名詞は他の言葉以上に対象そのものを喚起する力を持っている。世界の神話にしばしば見られる固有名詞(とくに人名)の列挙の意味も,このような観点から神話的テキストの一特徴としてとらえることが可能であろう。
人名 →地名 →分類
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名 (みょう)

平安時代から中世にかけての荘園,国衙領(公領)にあって,その内部を構成した基本単位。領主はこの名を単位として農民を支配したが,その実態・性格については,古くから論じられてきたにもかかわらず,今もって確たる定説はない。名の責任者が名主(みようしゆ)である。名の初見は,859年(貞観1)の史料で,以後,戦国時代までみられる。古くは名田と同一視されたが,最近では若干意味が異なると解されている。

名(名田)には,ふつう人名が冠されている。そのため古くは,その人名はその土地の所有者の名(な)であると解され,種々の説が立てられた。すなわち,名(名田)の成立は,律令制の理念たる公地公民制が崩れて土地に対する私有権が発生したことを意味するとされ,名(名田)となった田地が,どのような由来をもつかが問題とされた。そして,墾田起源説,買得田地起源説,侵略公田起源説,課役対捍(たいかん)起源説,世襲耕作田(口公田)起源説,出作公田起源説などが主張された。しかし,それらはやがて統一的にとらえられ,名(名田)は律令制下において,口分田,墾田などの所有者の名が,田籍,田図に記されていたのが,時代の経過にともなって変質したものだとの説が出された。そして生まれたのが〈名田経営〉論である。すなわち,名田を名主の土地所有とみなし,その経営は家長たる名主の下にある大家族および隷属民によって行われたとする説であり,ここでは,土地所有,家族,経営の3者が一体として論じられているので,わかりやすいため,古典的学説として大きな影響を与えた。

 第2次大戦後,律令制下において人別に賦課されていた調庸が,土地別に賦課されるようになった際に,荘園よりもむしろ公領において名が成立したという説が出されて,研究はいっそう進展した。その後,名には比較的小規模な〈百姓名〉と大規模な〈領主名〉とがあること,平安初中期からみられる名=請作権(地)と平安末期からみられる名田=私有権(地)とは段階的に区別すべきこと,などが指摘され,その性格がしだいに明らかとなった。そして現在では,平安時代の名は,土地に対する権利を意味せず,また単一の経営体ではなくて,複数の経営体からなる収取の単位である,という解釈が通説化しつつある。

しかし,一口に名といっても,時代と地域によってその性格は大きく異なり,一概に収取単位として片づけることができない面もある。まず時代による変化をみると,鎌倉後期に大きな画期が求められる。それは,従来は名主を通じて納められていた年貢・公事が,直接生産者から,名主を通さず,直接領主に納められるようになったことである。いいかえれば,領主は,このころから名主のみでなく,直接生産者を土地台帳に登録し,彼らを収取の単位として把握するようになったのである。この変化は,一般に,直接生産者の独立・自立化にともなうもの,つまり,直接生産者の地位向上によるものと理解され,南北朝内乱は,そういった農民の動きによってひき起こされた動乱であるといわれている。その結果,旧来の名(旧名,本名)は分解して,直接生産者を責任者としたいくつかの小さい名(新名)が成立するといわれているが,この主張は,いずれも東寺領荘園の事例に限られているため,再検討の必要性が指摘されている。しかし,形骸化しつつも名は室町~戦国時代を通じて,支配の単位として残存し,その全面的解体は太閤検地をまたねばならない。

 次に地域差では,畿内と遠隔地の事例をあげよう。まず畿内における名は小規模で,ほぼ均等の大きさである。たとえば,1186年(文治2)に大和国池田荘は11の名からなっていた。名田畠の最大は,下司(荘官)の名である末貞名の2町9反120歩を除くと,重遠名の2町1反240歩で,最小は国則名の1町9反180歩である。つまり,末貞名以外の10の名は,すべて2町内外の田畠からなっている。このように,ほぼ均等な大きさからなる名を均等名といい,そういった荘園を均等名荘園とよんでいる。このような均等名構成は,一面では領主による年貢・公事収取の便宜によるものであろうが,それを可能にしたのは,畿内農民(名主層)のほぼ均等な成長が考えられる。

 これに対して,遠隔地の事例として,1244年(寛元2)の肥後国人吉荘の名構成をみよう。そこでは,最大は経徳名の35町2丈(丈は1/5反)から最小の豊永名の4反まで,その田数は大きくひらきがある。すなわち,ここでは畿内の場合と異なって,名の規模はひじょうに不均等なのである。しかも,経徳名の田積は大和国池田荘の総田数36町180歩にほぼ匹敵している。このように大きな名をもつ名主は,標準的農民とはいえず,在地領主的存在とみるべきであろう。とすれば,一般農民は,そういった大きな名主の下にいたことになる。彼らは,在家農民とよばれており,彼らこそ,土地に対する権利は若干弱いが,畿内の名主にあたる存在だと考えられている。つまり,遠隔地においては,小さい〈百姓名〉から大きい〈領主名〉までみられたのである。

 このようにみると,畿内の名はともかく,遠隔地の名は,単に収取単位と規定するだけではすまない面をもつ。いいかえれば,名を収取単位とする説は,畿内近国の事例のみから主張されてきたのであるが,遠隔地における名の性格をも論じつくさないかぎり,有力な一説にとどまり,確たる定説とはなりえない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「名」の意味・わかりやすい解説


みょう

平安後期から中世にかけて、荘園(しょうえん)・国衙(こくが)領における年貢(ねんぐ)・公事(くじ)などの収納単位。名に編成され、管理・徴税責任者たる名主(みょうしゅ)によって統轄される田地が名田(みょうでん)。名には、一般に最初の名主の名前がつけられた。

[編集部]

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【品詞】より

…こうした範疇を従来より品詞parts of speechと呼んできた。名詞とか動詞とかと呼ばれているものがそれである。
【品詞の本質】
 単語というものは,その圧倒的多数が現実世界に存在する何か(事物,運動・動作,性質,関係等)を表している。…

【人名】より

…個々人を他の人と区別するために,個人ごとにつけられた名をいう。人名には,個人の所属を明らかにするため氏族,家族,父親,居住地などの名が添加されるといったことがあり,また世界の各民族や地域によって,その社会・文化のあり方とかかわる多様性もみられるので,世界数地域における人名について説明する。…

【ラベル】より

…商品名,商標,商号などを表示して商品に付したはり札や印刷物の総称。表示事項は商品によってさまざまであるが,内容,品質,成分,使用法,寸法・量,製造年月日,製造・発売者名,製造番号,原産国表示などである。とくに食品,薬品,化粧品のラベルは食品衛生法や薬事法などに基づいて表示事項が厳しく定められている。表示方法ははり付け,縫付け,商品・容器への直接印刷や焼付けなどさまざまである。ラベルの起源は,古代エジプトでブドウ酒を蓄える壺の栓に,その品質を表示した刻印を施したことに始まる。…

【氏名】より

…特定個人の同一性を社会的に確定する機能をもった,ひとりひとりに付される呼称で,氏(うじ)と名(な)からなる。〈姓名〉〈名字(苗字)と名前〉〈名前〉などの言い方もある。…

【人名】より

…個々人を他の人と区別するために,個人ごとにつけられた名をいう。人名には,個人の所属を明らかにするため氏族,家族,父親,居住地などの名が添加されるといったことがあり,また世界の各民族や地域によって,その社会・文化のあり方とかかわる多様性もみられるので,世界数地域における人名について説明する。…

【請作】より

…しかし,このことは反面請作者の義務不履行がない限り,同一地が同一者によって永続的に請作される可能性を含んでおり,現実には〈年来作手〉〈相伝作手〉などと呼ばれて,作手が世襲される傾向を生んだ。請作地は請作者の貢租負担の単位,領主側からすれば収取単位を示すものとして,請作者たる田堵の名を冠して某名(みよう)と称せられるようになるが,平安末期には,からのより確実な収取をめざす領主側の欲求と,田堵の請作地私田化の意欲とがあいまって,田堵の土地緊縛と反面その私的土地占有権の強化が進行した結果,名田(みようでん)制が成立すると理解されている。中世の荘園は,一般に名主(みようしゆ)が占有用益し年貢・公事(くじ)を負担する名田部分と,一色田(いつしきでん)・散田などと称された領主直属地とから成るが,後者はやはり荘園内居住の小農民(作人)らによる請作により経営された。…

【内得】より

…〈内之得分〉の略称。室町・戦国期の近江,越前,美濃など畿内周辺諸国の田畠売券や寄進状などにしばしば現れる用語で,〈名(みよう)之内得〉〈名内得分〉などと表現され,多くの場合名主(みようしゆ)の私的得分である加地子(かじし)分を指し,売買などで移動した。越前西福寺文書の1515年(永正12)2月9日付春庾田地売券は,平内名(みよう)所属の田地2反を売却したものであるが,それには名の内得分を売るのであるから,本役などは自分(名主)の方で負担するので,この田地には万雑公事(まんぞうくじ)は一切かからない旨記されている。…

【田堵】より

…平安時代にみられる荘園(公領)の請作(うけさく)者。かつては名主(みようしゆ)と同じものとみられていたが,最近では名主の前段階的存在とみられている。9~10世紀の史料では主として〈田刀〉とみえる。…

【東国】より

…672年(天武1)の壬申の乱においても,東国の向背は乱を決する意味をもち,大海人皇子(おおあまのおうじ)(のち天武天皇)は美濃に入り,東国の軍勢を動員しえたことによって勝利することができた。東国が畿内を中心とする国家の支配下に名実ともに組織されたのは,逆にこれ以後ということもできるのである。 東国にも東北北半を除いて国郡制が一応貫徹し,天武朝以後,伊賀以東の東海道,あるいは美濃以東の東山道を〈東国〉とする呼称が新たに用いられるようになり,三関以東は〈関東〉,関東・東北地方は〈坂東〉〈山東〉と呼ばれた。…

【番頭】より

…このため荘園内の番の数は12ヵ月に割り振ることができるよう6の倍数になっているものが多い。これらの番は,地名,人名または数詞を冠して呼ばれた。そのおのおのの番にかけられた公事を勤める責任者が番頭である。…

【負田】より

…租税・雑役や年貢・公事等を出す責務を負っている田地のことをいうが,租税あるいは年貢を納入する責任者(負名)の名前を付し“某負田”と称するのが普通である。この場合,負田は〈名(みよう)〉または〈名田〉とも称される。…

【名抜き】より

…〈抜き地〉ともいう。日本の中世後期,名田畠の寄進・売買などの際,その名田畠に賦課されている年貢,公事(くじ)などの公租を,譲渡者が負担することを契約した田畠。荘園制下の田畠に対する賦課はを単位とし,名主が徴税責任者として名内の田畠の公租を請け負っていたが,室町時代以降,加地子(かじし),内徳(うちとく)などと呼ばれる名主得分が増大して名主職の分割売買が盛んになると,その公租の負担の有無が問題となり,契約状にそれが記されるようになった。…

※「名」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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