17番目の勅撰和歌集。略して《風雅集》ともいう。花園上皇の監修,光厳上皇の撰により,北朝の貞和5年(1349)に成る。真名(まな)序,仮名序,春歌(上・中・下),夏歌,秋歌(上・中・下),冬歌,旅歌,恋歌(1~5),雑歌(上・中・下),釈教歌,神祇歌,賀歌の20巻,約2200首を収める。皇室が持明院統と大覚寺統の2流に分かれて皇位を争った鎌倉時代中期以降,定家-為家と継承された〈歌の家〉御子左家(みこひだりけ)も分裂し,二条家が大覚寺統,京極家が持明院統について,勅撰集撰者の地位を争うようになった。このような情勢の中で,建武中興の崩壊後,京都に復権した持明院統京極派によって編まれたのが,《風雅集》である。京極派の手に成る勅撰集としては《玉葉和歌集》に次ぎ,歌風は一段と京極派の色彩を強め,入集歌人も南朝の廷臣や二条派歌人を極力おさえ,北朝京極派の優勢が著しい。おもな歌人は,伏見院,永福門院,花園院,京極為兼,為子(為兼妹),後伏見院,光厳院,進子内親王(伏見院皇女)などの京極派を中心とし,ほかに当代以前の歌人,定家,俊成,紀貫之,後鳥羽院らの多数入集が注目される。歌風は,〈仮名序〉に〈ちかき世となりて,よものことわざすたれ,まことすくなくいつはりおほくなりにければ,ひとへにかざれる姿,たくみなる心ばせをむねとして,古の風はのこらず〉と述べるように,平板な技巧に堕した二条派の風を嫌い,清新で感覚的な描写を重んじた。ことに,光,色,音の微妙な相関をこまやかにとらえ,繊細な自然の姿に迫る。〈むらすずめ声する竹にうつる日のかげこそ秋の色になりぬれ〉(永福門院),〈霜凍る竹の葉分に月さえて庭しづかなる冬のさよ中〉(光明院)。なお名称は,〈偏(ひとえ)に華詞麗藻を採りて一時の観を壮にするにあらず,専ら正風雅訓を挙げて千載の光を遐(はるか)に遺(のこ)さん〉という,〈真名序〉の語句による。
執筆者:今西 祐一郎
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第17番目の勅撰(ちょくせん)和歌集。20巻。和漢両序を付す。光厳(こうごん)院親撰、花園(はなぞの)院監修。伏見(ふしみ)院、京極為兼(きょうごくためかね)の遺志を継いだ両院は『玉葉和歌集』に次ぐ第二の京極派勅撰集撰定を志し、1343年(康永2)室町幕府に諮問、翌年10月答申を得て撰集事業に着手した。寄人(よりゅうど)に正親町公蔭(おおぎまちきんかげ)、藤原為基(ためもと)(玄哲)、冷泉(れいぜい)為秀ら。洞院公賢(とういんきんかた)も議にあずかった。花園院作の両序と巻1春上の成立をもって1346年(貞和2)11月9日竟宴(きょうえん)を行い、49年2月ごろ完成。花園院は完成を待たず前年11月没した。歌数2211首。主要作者は伏見院、永福門院(えいふくもんいん)、花園院、光厳院、為兼はじめ持明院統(じみょういんとう)宮廷の皇族、近臣、女房らで、『玉葉集』以上に当代京極派の特色を強く打ち出している。歌風は玉葉風をさらに沈潜閑寂の境地に進め、山家、暁、夕などを主題とする雑歌(ぞうか)「山松はみるみる雲に消えはてて淋(さび)しさのみの夕暮の雨」(儀子(ぎし)内親王)、叙景の形をとった禅的な釈教歌「つばめなく軒端(のきば)の夕日影消えて柳にあをき庭の春風」(花園院)などに独自の特色がある。和漢両序も執筆者の個性と迫力に満ちた優れた歌論序である。これを最後に京極派は壊滅し、後世『玉葉集』とともに異風不吉とされた。
[岩佐美代子]
『次田香澄・岩佐美代子校注『風雅和歌集』(1974・三弥井書店)』▽『井上宗雄著『中世歌壇史の研究 南北朝期』(1965・明治書院)』
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…勅撰和歌集(二十一代集)のうち,第9集以後の《新勅撰和歌集》《続(しよく)後撰和歌集》《続古今和歌集》《続拾遺和歌集》《新後撰和歌集》《玉葉和歌集》《続千載和歌集》《続後拾遺和歌集》《風雅和歌集》《新千載和歌集》《新拾遺和歌集》《新後拾遺和歌集》《新続古今和歌集》の13の集をいう。 勅撰和歌集は,八代集の最後を飾る《新古今集》で芸術至上主義的な極致に達し,その後は歌の家としての権威を確立した御子左(みこひだり)家,特にその嫡流の二条家の主導で,平明を基調として展開する。…
※「風雅和歌集」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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