改訂新版 世界大百科事典 「葛生人」の意味・わかりやすい解説
葛生人 (くずうじん)
1950-52年,栃木県安蘇郡葛生町(現,佐野市)の大叶(おおかのう)にある吉沢石灰鉱業株式会社内の洞窟と山菅にある前河原洞窟から,直良(なおら)信夫たちによって発見され,更新世に遡る人骨であると主張された9点の骨の総称。これらは専門家によって研究されていなかったため,多くの疑問を呼んでいた。なお,90年に中足骨が地元中学生によって発見されたが,佐倉朔によって研究され,人骨であることが確認されている。2000年代になって,馬場悠男と春成秀爾による再検討がなされ,1951年発見の大腿骨,そして春成が直良の遺品から再発見した尺骨と大腿骨は,いずれも人骨であることが確認された。さらに,51年発見の下顎骨は茂原信生によりニホンザルの下顎骨であり,51年発見の上腕骨は西本豊弘によりクマの子供の上腕骨とされ,51年発見の大腿骨は甲能直樹により小型トラか大型ヒョウの大腿骨,そして50年発見の上腕骨は坂上和弘によりニホンカモシカの脛骨であることがわかった。なお51年発見の上顎切歯と上腕骨は行方不明である。松浦秀治によると,これらの動物骨の一部は更新世に遡る可能性があるが,人骨は更新世に遡る可能性は極めて低く,年代の確定したものは中世以降である。したがって,現時点では,葛生人が更新世人であるという根拠はない。
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報