中国、後漢(ごかん)中期の宦官(かんがん)、紙の発明者とされてきた人。湖南(こなん)の桂陽(けいよう)出身。尚方令(しょうほうれい)(宮廷の器物などの製造をつかさどる役所の長官)の職にあった97年に、宮中の剣や諸道具をつくって才能を発揮したが、105年には、木簡(もっかん)・竹簡や絹布にかわる書材として、木くず、麻くず、ぼろぎれ、漁網などを材料とする紙をつくり、和帝(在位88~105)に献上して喜ばれたという。これは蔡侯紙(さいこうし)とよばれ、最初の紙の発明とされてきたが、1933年に新疆(しんきょう)省ロプノールで、また1957年に西安で、1973~1974年にも甘粛(かんしゅく)省の居延で、前漢のものと思われる、麻を原料とする紙が発見されたことから、麻紙はすでに前漢の時代からあり、蔡倫は尚方令として、麻紙より良質の樹皮紙の製造の監督にあたり、これらを普及させるのに功のあった人と考えられるようになってきた。彼はその後、114年に竜亭(りゅうてい)侯に封ぜられ、長楽太僕(長楽は宮殿名。太僕は車馬に関する諸事をつかさどる長官)に進み、さらに儒学経典の校訂を監督したりしたが、以前、竇太后(とうたいこう)の内意を受けて安帝(在位106~125)の祖母の宋貴人(そうきじん)を陥れたことがあったため、安帝が親政するに及んで服毒自殺した。
[宮島一彦]
『吉田光邦著「ある後漢の宦官の生涯――蔡倫」(角川書店編集部編『世界の人間像8』所収・1962・角川書店)』▽『潘吉星著、佐藤武敏訳『中国製紙技術史』(1980・平凡社)』▽『藪内清著『科学史からみた中国文明』(1982・日本放送出版協会)』▽『陳舜臣著『陳舜臣中国ライブラリー23 紙の道 ペーパーロード』(1999・集英社)』▽『吉田光邦著「紙祖 蔡倫伝」(紙の博物館編・刊『百万塔』16号所収・1963/臨時増刊『「百万塔」創立五十周年記念特別号』2000・紙の博物館に再録)』
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中国,後漢の宦官。生没年不明。製紙技術の大成者。字は敬仲。桂陽(湖南省)の人。明帝の末に出仕し和帝のときに尚方令に任ぜられて帝室の技術部門を担当した。このとき,彼は樹皮や麻頭(あさ),敝布(ぼろ),漁網などを用いて紙をつくり,105年(元興1)に献上し,〈蔡侯紙〉と呼ばれ広く用いられたという。このことから古来,蔡倫を紙の発明者としているが,近年の考古学上の発掘により,紙はすでに前漢時代から存在していたことが明らかにされており,蔡倫は製紙技術の上で何らかの発明をしたものと考えられる。
執筆者:永田 英正
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?~107頃
後漢の宦官(かんがん)で,紙を考案した人物として知られる。尚方令(しょうほうれい)として帝室調達の器物の製作をつかさどり,105年紙を和帝に献上した。当時書写の材料として用いられていた絹は高価であり,竹簡(ちくかん)もかさばるので,樹皮,麻くず,魚網を混ぜ合わせた紙をつくった。蔡侯紙として知れ渡る。しかし彼は最初の紙の発明者ではない。前漢時代の紙が,甘粛省の居延(きょえん)や敦煌(とんこう)の城塞の遺跡から出土している。蔡倫は前漢時代の麻紙のような粗末な紙を改良したのであろう。
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…こうした不便を取り除いたのが紙の発明である。
[蔡倫は改良者]
植物繊維を細かくくだいたものを漉(す)いてできる紙は,通説によると,後漢の蔡倫の発明とされてきた。蔡倫は宦官として宮廷に仕えたが,宮中の調度品を製作する役所の長官(尚方令)となった。…
…そのほか各種の技術の面でも国営の機関があって,それによって技術が高められてきた。紙の発明者ないし改良者として有名な後漢の蔡倫は,宮廷の調度品を製作する役所の長官〈尚方令〉であったが,このほか兵器の製作,土木・建築をはじめ,織物,磁器など各種の日用品にいたるまで,国営や官営の機関があって,こうした機関の整備によって中国は世界に誇る工芸品の数々を生み出してきた。
[官僚と科学技術]
以上のように科学技術の多くの部門が官僚機構の中に組み込まれ,国家の保護奨励を受けたことは確かにプラスであったにはちがいないが,しかし一方で庶民の自発的な創意工夫を抑制する結果になったことは否定できない。…
※「蔡倫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
小麦粉を練って作った生地を、幅3センチ程度に平たくのばし、切らずに長いままゆでた麺。形はきしめんに似る。中国陝西せんせい省の料理。多く、唐辛子などの香辛料が入ったたれと、熱した香味油をからめて食べる。...
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