薬剤性肺炎(読み)ヤクザイセイハイエン(その他表記)Drug-induced pneumonia

デジタル大辞泉 「薬剤性肺炎」の意味・読み・例文・類語

やくざいせい‐はいえん【薬剤性肺炎】

病気の治療に用いた抗腫瘍しゅよう剤・化学療法剤などが原因となって起こる肺の炎症

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六訂版 家庭医学大全科 「薬剤性肺炎」の解説

薬剤性肺炎
やくざいせいはいえん
Drug-induced pneumonia
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 薬剤性肺炎は大きく分けて、抗がん薬などで発症する細胞傷害性のものと免疫学的機序(アレルギー)で発症する場合とがあります。2003年現在に市販されている176品目の抗菌薬添付文書を調べると、薬剤性肺炎に関連すると思われる薬剤肺傷害の記載が85品目(48%)に、また抗腫瘍薬では約54%にあります。

原因は何か

 免疫学的機序(きじょ)による薬剤性肺炎は、抗原抗体反応による過敏性(かびんせい)肺炎の様相が強いものです。しかし、最近では直接免疫反応に作用するもの、アミオダロンのような脂質の代謝に影響する薬剤やINFインターフェロン)、G­CSFなどによるサイトカイン療法、さらに、分子標的治療薬であるゲフィチニブによる薬剤性肺障害なども報告されています。

 薬剤性肺炎はひとつの薬剤だけで起こるとはかぎりません。時には複数の薬剤の相互作用によって発症しやすくなることがわかってきました。たとえば、C型慢性肝炎の治療に使われるインターフェロンと小柴胡湯(しょうさいことう)や、G­CSFと抗がん薬などの併用で間質性(かんしつせい)肺炎が発症することがあります。

 小柴胡湯単独でも薬剤性肺炎を発症しますが、インターフェロンの併用により、さらに薬剤性肺炎の頻度が増すことがわかっています。インターフェロンによってC型慢性肝炎を治療中に発症する間質性肺炎は0.1%程度で、さらに小柴胡湯を併用すると24~74%と、報告により幅があるものの、少なくとも頻度は高くなります。

症状の現れ方

 薬剤性肺炎が疑われる症状のポイントは、以下のとおりです。

膿性痰(のうせいたん)は一般的には少ない。最初は膿性痰でも、X線写真の陰影が広がるにもかかわらず膿性痰が少なくなることがある。つまり、膿性痰の原因である最初の細菌性肺炎が治り、この治療のために使った抗菌薬で薬剤性肺炎が発症してくる。

②全身状態が細菌性肺炎に比べて比較的軽く、重篤感が少ない印象がある。

③原因薬剤を服薬し始めた後から発症。

④すべての薬剤で起こりうる。

⑤併発する皮疹、肝障害が認められることがあるので、注意が必要。

⑥免疫力の低下がないにもかかわらず、適切に選択された抗菌薬の効果がない。

検査と診断

 現在、確実な診断法はないので、臨床経過、身体所見、画像、検査データなどから総合して診断することになります。つまり、前述した疑われるポイントを頼りに、総合的に診断します。

 補助診断として薬剤リンパ球刺激テスト(DLST)が行われることがあります。DLSTは生体外で、原因薬剤と本症を発症した患者さんのリンパ球とを反応させ、その度合いをみる検査で、本症の診断法のひとつです。しかし、絶対的なものではなく、薬剤性肺炎でなくても陽性になったり、逆に、薬剤性肺炎でも陰性になることもあります。

 胸部X線像では末梢性優位(肺の末梢に、より強く陰影がみられる)で、移動・出没する陰影がみられることがありますが、絶対的なものではなく、疑いをもつ指標と考えます。末梢血好酸球(こうさんきゅう)の増加などを伴うこともあります。また、間質性肺炎マーカーであるKL­6が高値になることがあるので、補助診断になります。

 鑑別診断にあたっては、本症は臨床診断として抗菌薬無効の感染性肺炎として認識される場合も多く、感染症の否定は本症を診断するうえで最も重要なポイントのひとつです。とくに、頻度が高い細菌性肺炎マイコプラズマ肺炎クラミジア肺炎、さらにウイルス肺炎、真菌性肺炎などの日和見(ひよりみ)感染症(何らかの原因により体に免疫の低下が起こり、通常では病原性をもたないような弱毒微生物による感染症をいう)が区別すべき疾患として重要です。また、肺線維症(はいせんいしょう)放射線肺炎(ほうしゃせんはいえん)も区別すべき疾患にあがります。そのほか、急性呼吸窮迫(きゅうはく)症候群ARDS)や間質性肺炎と表現されているもののなかに、薬剤性肺炎が含まれていることもあります。

 これらの感染症の診断には血清抗体価検査、培養検査、抗原検索を行います。血清抗体価の推移で診断する場合は、ある程度以上の抗体価の上昇があり、急性期と回復期(ペア血清)で抗体価が4倍以上高値になると陽性と判断します。しかし、発症早期では抗体が上昇していないことが多いため、治療を行う場合の判断材料としては使えないことが多く、本疾患の診断を難しくしています。

 早期に診断できる検査がいくつか開発されています。たとえば、マイコプラズマ肺炎の診断、インフルエンザウイルスの診断、アデノウイルスの診断、RSウイルスの診断、サイトメガロウイルス性肺炎の診断、真菌感染症の診断などです。

治療の方法

 基本的には、まず原因と考えられる薬剤を中止します。しかし、必要性があり投与されている薬剤を、薬剤性肺炎が疑われるというだけで中止できるかどうかが問題になります。原因薬剤が特定できれば、中止しなければなりません。

 治療としては、多くはステロイド薬(プレドニゾロンメチルプレドニゾロンなど)の投与を行います。また、免疫抑制薬が投与されることもあります。

 そのほか、呼吸不全に対する治療、補液などを使う基本的な治療も併行して行われます。

予後

 アレルギー機序(仕組み)の薬剤性肺炎は、比較的予後がよいとされています。抗がん薬などで発症する細胞傷害性のものでは、治療しているにもかかわらず進行することが決して少なくありません。

病気に気づいたらどうする

 薬の投与を受けている現在の主治医に相談するのがいちばんよいでしょう。もちろん、肺炎を示すので、呼吸器疾患もしくはアレルギーを専門とする科を受診するのもよいと思われます。

 健康食品漢方薬でも発症することがあるので、服薬しているものをすべて主治医に報告しておきます。服薬したあとに症状が増悪する場合や、疑われる症状がある場合は必ず伝えてください。

 今までに薬剤アレルギーがあった場合には、患者さんと医師がともにその薬剤の名称と系統を知っておく必要があります。薬剤を服用する場合には、主治医に過去の薬剤アレルギーについて報告してください。

関連項目

 マイコプラズマ肺炎インフルエンザRSウイルス感染症サイトメガロウイルス性肺炎肺真菌症など

中島 正光

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「薬剤性肺炎」の解説

やくざいせいはいえん【薬剤性肺炎 Drug-Induced Pneumonitis】

[どんな病気か]
 別の病気の治療に使用された薬剤によっておこる間質性肺炎(かんしつせいはいえん)(「間質性肺炎とは」)を、薬剤性肺炎といいます。
[原因]
 いろいろな薬剤によっておこりますが、なかでもとくに抗がん剤、免疫抑制薬、抗生物質、化学療法薬、抗炎症薬、降圧薬などが間質性肺炎をおこすことが知られています。
 薬剤あるいはそれがからだの中で変化したものが細胞を障害しておこる肺炎と、それらの物質が抗原(こうげん)になってアレルギー反応をひきおこして発病する肺炎とに、大きく分けられます。
 一般に、薬の使用総量が多い場合、多種類の薬を使っている場合、高齢者の場合、もともと肺の病変がある場合に発生しやすい病気です。
[症状]
 薬剤を使用してから症状が出るまでの期間の長短により、急性、亜急性、慢性に分けられます。
 急性、亜急性の発病は、薬の使用後すぐ、あるいは数週間後に、呼吸困難、からせき(乾性咳嗽(かんせいがいそう))が現われ、ふつうは発熱をともないます。
 もっとも多くみられるのは慢性肺炎で、薬剤を使用して数週から数か月たって、しだいにからだを動かしたときの呼吸困難、からせきが現われて発病します。発熱はともなわないのがふつうです。
[検査と診断]
 胸部X腺写真には、両側の肺の下部を中心に、粒状、網状の陰影がみられます。
 肺のはたらきを調べると、いろいろな程度で肺活量が低下し、血中酸素(けっちゅうさんそ)が不足する低酸素血症(ていさんそけっしょう)があります。
 血液検査では、白血球(はっけっきゅう)の中等度の増加、赤血球沈降速度(せっけっきゅうちんこうそくど)の上昇と、CRP(からだに炎症があると血液中に急激に増えるC反応性たんぱく)が軽度~中等度に増えているのがわかります。
 薬剤性肺炎にだけ現われる症状というものはありません。薬を使っている患者さんに間質性肺炎がおこるのをみたら、この病気ではないかと疑うことがたいせつです。
 アレルギー反応によっておこる場合は、使っている薬を皮膚にはりつけて炎症がおこるかをみるパッチテストや、リンパ球幼弱化反応試験(ようじゃくかはんのうしけん)(ある抗原にふれて免疫の記憶をもつリンパ球が同じ抗原とともに培養されると形を変えることを利用して、抗原を見つける試験)が診断に役立つことがあります。
 慢性型では、ほかの間質性肺炎、肺線維症(はいせんいしょう)との区別をするのがむずかしい場合があります。
[治療]
 薬の使用を中断しなければ、さらに症状は悪くなりますので、疑わしい薬はすべて使用を中止します。必要に応じて、ステロイド薬を使用します。ステロイド薬は、アレルギー反応によるものには効きますが、薬が細胞を障害する肺炎では効かないことも多く、経過がよくない場合もあります。
[予防]
 症例によっては死亡することもありますので、間質性肺炎をおこしやすい薬を使う場合、医師は、あらかじめその可能性を患者さんによく説明し、定期的に胸部X線撮影、肺機能の検査などを行ない、早期発見、早期治療につとめます。
 アレルギー体質のある人は、医師に伝えましょう。医師は、薬剤性肺炎になりやすい状況にある人に薬を使うときには、とくに注意深く行ないます。

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