薬湯(読み)やくとう

精選版 日本国語大辞典 「薬湯」の意味・読み・例文・類語

やく‐とう ‥タウ【薬湯】

〘名〙
① 薬草などを煮だした湯。煎じぐすり。湯薬(とうやく)
養生訓(1713)七「是は自然に薬汁出るにあらず。しきりにふり出す故薬湯にごり」
薬品や薬草を入れた入浴用の湯。くすりゆ。
※法然上人行状画図(1307‐16頃)三五「薬湯をまうけ、美膳をととのへ」

くすり‐ゆ【薬湯】

〘名〙
① 薬品や薬草を入れた入浴用の湯。くすりぶろ。くすりのふろ。やくとう。
※塵袋(1264‐88頃)一「蘭湯と云ふはくすり湯歟、潔斎歟」
② (薬効のある湯の意で) 温泉。
出雲風土記(733)仁多「即ち、川の辺に薬湯あり」

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デジタル大辞泉 「薬湯」の意味・読み・例文・類語

やく‐とう〔‐タウ〕【薬湯】

薬をせんじ出した湯。せんじぐすり。湯薬。
薬を入れた入浴用の湯。くすりゆ。「薬湯をたてる」
[類語]煎じ薬煎薬

くすり‐ゆ【薬湯】

薬品や薬草を入れた浴湯。くすりぶろ。やくとう。
病気にきく温泉。
「よろづの人のみける―あり」〈宇治拾遺・六〉

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「薬湯」の意味・わかりやすい解説

薬湯
くすりゆ

温泉成分や薬用植物を浴剤として入れた湯をいう。古くから疾病や傷の治療に温泉が用いられ、また民間では5月の節供の菖蒲(しょうぶ)湯、冬至の柚(ゆず)湯など、浴槽に植物そのものを入れて、薬湯として親しんできた。温泉成分の効能を期待して、温泉地以外で、また家庭で、温泉と同じ効果を得ようとして考案されたのが浴剤で、初めは温泉成分を乾燥し粉末化したものが用いられた。湯の華(はな)がその例である。

 温泉療法に用いられる泉質には、単純泉、食塩泉、重炭酸土類泉、芒硝(ぼうしょう)泉(おもに硫酸ナトリウム)、苦味泉硫酸塩泉)、アルカリ性泉、酸性泉、明礬(みょうばん)泉、硫黄(いおう)泉、炭酸鉄泉、放射能泉などがある。これらの主成分である無機塩類を用いて、温泉の効果を家庭内で再現しようとして種々の浴剤が開発された。その配合塩類により効果は異なるが、目的としては次のようなものがあげられる。(1)身体を温め、血液の循環をよくし、新陳代謝を高める、(2)鎮静・鎮痛作用をもつ、(3)発汗を促進し、身体の老廃物を除去する、(4)浴後、塩類が被膜となって体表面に付着し、保温効果がある、(5)アルカリ性の場合には、皮脂や体表面の汚れをとり、肌を滑らかにする、(6)硫黄を含むものは殺菌性を有し、皮膚病の治療に有効とされている。市販の浴剤には、塩類のほかに色素と香料を加えたものが多い。

 浴剤として用いる薬用植物については、古くは室町時代にさかのぼり、五木八草(ごぼくはっそう)湯、三木一草湯が記されている。五木とは、桑、槐(えんじゅ)、楮(こうぞ)、楡(にれ)、柳、あるいは、桑、槐、桐(きり)、樗(おうち)(センダン)、朴(ほお)、または、桑、槐、桃、楮、柳をいい、八草は、菖蒲、艾葉(がいよう)(ヨモギの葉)、車前(オオバコ)、荷葉(ハスの葉)、蒼耳(そうじ)(オナモミ)、忍冬(にんどう)(スイカズラ)、馬鞭草(ばべんそう)(クマツヅラ)、蘩蔞(はんる)(ハコベ)をいう。江戸時代には、東では温泉の湯を沸かし直して薬湯と称し、西では薬用植物を用いた薬湯が銭湯のほかに出現し、明治中期になり浴用中将湯や浴用実母散が市販された。これらは布袋に生薬(しょうやく)を切ったものを詰め、一定量の湯の中で煎出(せんしゅつ)し、煎出した液といっしょに袋ごと浴槽に入れて薬湯とした。民間療法として浴用に用いられる。これらの植物は、新陳代謝の促進、老廃物の除去、保温性のほかに、タンニン酸類を含むものは収斂(しゅうれん)作用、消炎作用があり、サポニンを含むものは洗浄作用および細菌の発育阻止作用がある。またアズレンを含むものでは皮膚組織の再生を促進し、油脂や粘液質を含むものは皮膚表面の保護作用を有している。

 市販の浴剤は温泉成分と薬用植物から発展し、さらに新しい浴用製剤の開発となり、医薬品用部外品として生産・消費量は年々増加の一途をたどっている。

[幸保文治]


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改訂新版 世界大百科事典 「薬湯」の意味・わかりやすい解説

薬湯 (くすりゆ)

入浴する湯の中に薬品を入れる風習は古くからあり,江戸の銭湯では客寄せのために,さまざまな効能をいいたてて薬湯を宣伝した。草津温泉の湯花入りだとか,不老長寿の仙湯とか,あせも,ただれに効能があるとか,胃弱にきくとか称したのだが,なかには染料を投じただけのいかさま薬湯もあった。端午の節句の菖蒲湯(しようぶゆ)も冬至の日の柚子湯(ゆずゆ)も薬湯の一種と解してよい。自宅での入浴に使う薬品も販売された。昭和初期までは銭湯で別に湯槽を作って薬湯を宣伝すると,暇な老人などは小半日も入浴を繰り返して楽しんだ。弱電気を湯の中に流す電気湯も薬湯の一種として大正から昭和初期にかけておこなわれた。今も薬湯の効能を信じる人は少なくない。なお,薬湯と書いて,〈やくとう〉と読めば湯茶のように飲む液状の薬品を指す場合もあって,多くは西洋医学による内科の診療がさかんになる以前におこなわれた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「薬湯」の意味・わかりやすい解説

薬湯
くすりゆ

薬品を入れた浴湯のこと。本来は病人のためのものであったが,健康な人でも血行がよくなり,湯ざめをしないなどの効果があるとして,好んで入浴することがある。薬品としては,薬草やホウ砂,重炭酸ナトリウム,硫化物などがあり,多くはこれらに香料やクロロフィリンが加えられている。たむし,にきび,あせも,ただれ,あれ症,冷え症,ひび,しもやけ,神経痛,リウマチ,肩凝り,腰痛などにきくといわれる。

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普及版 字通 「薬湯」の読み・字形・画数・意味

【薬湯】やくとう

じ薬。

字通「薬」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の薬湯の言及

【香水】より

…また真言密教で使われている香水(こうずい)は5種の香料を水に入れたもので,儀式用に使われている。(4)はアロマ(薬用香料)で,中国や日本で使われてきた薬湯(やくとう∥くすりゆ)がこれに属する。(5)はフレーバー(食品香料)が主であるが,古くは没薬(もつやく)や肉桂(につけい)などがミイラの製造に固型のまま使われた。…

【香水】より

…また真言密教で使われている香水(こうずい)は5種の香料を水に入れたもので,儀式用に使われている。(4)はアロマ(薬用香料)で,中国や日本で使われてきた薬湯(やくとう∥くすりゆ)がこれに属する。(5)はフレーバー(食品香料)が主であるが,古くは没薬(もつやく)や肉桂(につけい)などがミイラの製造に固型のまま使われた。…

【風呂】より

…また年中行事や祭と入浴の関連も深く,こうした〈物日〉にはかならず風呂をたてる習わしも一般的である。五月節句の菖蒲湯(しようぶゆ),冬至の柚湯(ゆずゆ),土用丑の日の入浴(丑湯(うしゆ))など,特定の日に薬湯に浴することも注目される。民間療法としての薬湯には多種類の草根木皮が用いられる。…

【浴用剤】より

…入浴の際に用いる医薬部外品,医薬品などをいう。入浴剤ともいう。入浴によって血液の循環を良くし,新陳代謝機能を高め,皮膚を清潔にするという効果をいっそう高めるだけでなく,保湿,保温,ストレス解消などのほか皮膚疾患や肩こり,腰痛,神経痛,リウマチなどに対する有効性を目的とする。一般に浴用剤は温泉成分の効能を期待するものと薬用植物成分の効能を期待するものとに大別される。前者は重炭酸ナトリウム(重曹),硫酸ナトリウム(ボウ(芒)硝),食塩,ミョウバンなどの無機塩類を成分とし,後者はトウキ(当帰),センキュウ(川芎),ハマボウフウ(浜防風),ハッカの葉,カミツレなどを成分とする。…

※「薬湯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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