改訂新版 世界大百科事典 「保険医療」の意味・わかりやすい解説
保険医療 (ほけんいりょう)
医療保険制度に基づいて行われる医療。1961年に国民皆保険が成立し,日本での医療のほとんどは,医療保険制度により給付され,初期の給付率は,健康保険被保険者本人10割,その家族および国民健康保険5割とされた。73年老人福祉法改正により老人医療無料化,健康保険法改正による被扶養者の7割給付,一定の負担額を超える額を支給する高額療養費支給制度が設けられた。83年2月老人保健法(老人医療)が実施され,従来の老人医療無料制度を廃止し,70歳以上の老人と65歳以上70歳未満のいわゆるねたきり老人は,同法の規定により市町村の医療給付の対象とされ,また,新たに定額の一部負担金(外来1月400円,入院1日300円・2ヵ月間限り)を支払うことになり,制度的に若い人と区分された。84年特定療養費制度が導入され,大学病院等の先端医療,特別病室の差額徴収が制度化された。これにより,受療の抑制,先端医療の制限,差額徴収公認による医療外費用の徴収への道が開かれた。また,国民健康保険に加入する退職者を対象に退職者医療保険制度を創設し,雇用者保険と国民健康保険との財政調整機能を強化した。97年9月現在,医療保険受診者の一部負担は,診療に関して,健康保険の本人2割,家族入院2割・外来3割,国民健康保険の一般被保険者3割,老人保健入院(1997年度1日1000円,98年度1100円,99年度1200円,低所得者は1日500円),外来1日500円(同一保険医療機関ごとに1月4回を限度),薬剤に関しても一部負担制度が導入された。また,保険料率も,政府管掌健康保険をみると66年の改正で標準報酬の6.3%が6.5%に,97年の改正で8.2%が8.5%と値上げされ,被保険者の負担が増加している。
保険給付は,都道府県知事の指定を受けた保険医療機関・保険薬局において,都道府県知事の登録を受けた保険医(医師および歯科医)・保険薬剤師が行うという,施設と人とを二重に指定する方式によっている。保険給付の診療報酬は,診療が成功したか否かに対して支払われるのではなく,診療行為ごとに定められている報酬額〈個別出来高払方式〉を合計した診療報酬額によっている。この方式では,検査の種類,薬剤の量が多いと診療報酬額は高くなるとか,技術の巧拙の評価が含まれていない等の課題があり,その見直しが検討され,すでに一部には包括払制,総額請負制に近い制度も導入されている。
医療保険制度は,急速な高齢化,医療技術の進歩等により財政面で大幅な赤字を出す構造となり,国民皆保険体制を維持するためにも,抜本的な改革が迫られている。このため,厚生省は,97年8月に〈医療保険及び医療提供体制の抜本改革の方向〉をとりまとめ,広く国民の議論に供し,その結果を踏まえて,97年度最後の国会に向けて抜本改革法案を提出できるよう努力している。そこでは,(1)質の高い医療の効率的な提供のためとして,診療報酬体系,薬価基準制度,医療提供体制について,(2)給付と負担の公平のためとして,医療保険の制度体系,高齢者医療制度について,(3)医療費の適正化の推進等について,見直し案を提示している。この改革は,総理の提唱している行政改革,財政構造改革,社会保障構造改革等の六つの改革の一環としてすすめられている。そこでは,政府は,世界の潮流を先取りする新しい経済社会システムを創造するためとしている。医療は,一人一人の人間尊重の下での健康で幸せな生活を確保するためにあるにもかかわらず,医療を含む社会保障の構造改革のねらいに〈公的負担の上昇を抑制し,高齢化のピーク時において国民負担率50%を超えないこと〉という財政面の改革が挙げられている。医療が,豊かな人間生活を保障することができるよう医療改革がすすめられることが期待される。
執筆者:西 三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報