蛙股(読み)カエルマタ

デジタル大辞泉 「蛙股」の意味・読み・例文・類語

かえる‐また〔かへる‐〕【×蛙股/×蟇股】

蛙がまたを広げたような形のもの。
蟇股社寺建築で、はりけたの上に置かれる、輪郭山形をした部材。構造上必要な支柱であったが、のちには装飾化した。厚い板状のままの板蟇股と、内部をくりぬいて透かせた本蟇股とがある。

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精選版 日本国語大辞典 「蛙股」の意味・読み・例文・類語

かえる‐またかへる‥【蛙股・蟇股】

  1. 〘 名詞 〙 ( 蛙が股を拡げたような形から )
  2. ( 蟇股 ) 建築部材の一つ。組物と組物との間にある本蟇股と、梁上にあって上の荷重を支える厚い板状の板蟇股とがある。かいるまた。
    1. 蟇股<b>①</b>〈岩手県中尊寺〉
      蟇股〈岩手県中尊寺〉
    2. [初出の実例]「懸魚、蟇俣木、并鴨居」(出典:庭訓往来(1394‐1428頃))
  3. ( 蛙股 ) 魚網の網地の結節の結び方の一つ。こま結びにする本目(ほんめ)に比べて、はた結びにするので結節がやや作りにくくかさばるが、網目がずれにくいので刺網(さしあみ)や合成繊維の網を作る場合に用いられる。かいるまた。
  4. 一般に、Y字形をしたもの。
    1. [初出の実例]「長い蛙股(カヘルマタ)の杖をついた〈略〉卑しげな女である」(出典:偸盗(1917)〈芥川龍之介〉一)

かいる‐またかひる‥【蛙股・蟇股】

  1. 〘 名詞 〙 「かえるまた(蛙股)」の変化した語。
    1. [初出の実例]「百四十六文 カイルマタの絵具」(出典:高野山文書‐嘉吉三年(1443)五月二八日・山王院一御殿造営勘録状)

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改訂新版 世界大百科事典 「蛙股」の意味・わかりやすい解説

蟇股 (かえるまた)

社寺建築において,虹梁(こうりよう)や頭貫(かしらぬき)・台輪(だいわ)の上にあり,頂部に斗(ます)をおいて棟木や桁・通肘木(とおりひじき)を受ける繰形(くりがた)付きの幅広い材をいう(社寺建築構造)。カエルが足を広げた形に似ているところからこの名がある。はじめは,虹梁上で上方の荷重を受ける構造材として1枚の厚い板から造られていたが,平安時代後期に装飾材として組物(くみもの)(建築組物)と組物の中間におく厚みの薄い輪郭だけのものが現れ,以後これが大いに発達する。前者を板蟇股,後者を本(ほん)蟇股または刳抜(くりぬき)蟇股という。本蟇股は初期には左右の脚を別々の斜材で造っており,いくらか構造材としての機能を残していたが,鎌倉期ころから1枚の板をくりぬき,両脚間に唐草などの彫刻を入れるようになる。時代とともに中の彫刻は複雑になり,厚みも増して,桃山時代には輪郭からはみ出るものがでてくる。蟇股は時代の特徴が最もよく表れており,建立年代を判定する上によい手がかりとなる。
執筆者: 日本の板蟇股の起源は中国にある。おそくも漢時代(前2世紀~後3世紀初めころ)から北魏(5世紀)ころまで使われた梧(ご),すなわち直線的な杈手(さす)が,6世紀半ばから曲線的な人字形を呈して8世紀まで続く。同じ系統の人字形は日本の法隆寺金堂勾欄(こうらん)下に現れている。曲線の杈手は唐代(7~10世紀)に一転して種々な曲線の板蟇股をうみ出し,それが10~11世紀の遼の木造建築に継承された。別に板蟇股の上に斗束(ますづか)を立てたものも広く利用されたが,日本では唐招提寺講堂に唯一の例があるのみで,しかも後の改造の結果になるといわれている。〈営造法式〉に見える駝峰(だほう)は北宋の板蟇股の一つのタイプを示すもので,同じ系統のものが近世にまで及んでいる。しかし日本の刳抜蟇股の祖形が中国にあるか否かはまだ明らかではなく,ただ近世になると煩雑な遺例が多少みられるにすぎない。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「蛙股」の意味・わかりやすい解説

蟇股【かえるまた】

二つの横材の間におく束(つか)の一種で,上方の荷重をささえるとともに装飾ともなる。カエルが脚を広げた姿に似ているところからこの名がある。厚板の左右に曲線の繰形を施した板蟇股は奈良時代からあるが,内部をくりぬいた形の本蟇股は平安末期に始まり,のち彫刻装飾が加わるようになり,桃山時代以降その装飾性はますます重視された。蟇股の曲線と彫刻は建築年代判定の基準の一つ。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「蛙股」の解説

蛙股 (カイルマタ・カエルマタ)

植物。タデ科の一年草,薬用植物。ミゾソバの別称

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世界大百科事典(旧版)内の蛙股の言及

【建築装飾】より

…絵様は元来,彫像や画像の下図の意味であるが,建築部材の表面に彫られまたは描かれた文様をもいう。古代では構造がそのまま意匠となり,装飾のためだけの部材はほとんどなく,斗栱(ときよう)を雲形につくったり,板蟇股(いたかえるまた)(蟇股)に刳形をつけ,基壇や仏壇の嵌板(はめいた)に格狭間(こうざま)をつける程度であった。平安時代後期には本蟇股が装飾材として組物間に置かれ,やがてその中に唐草などの透彫(すかしぼり)彫刻がつけられ,装飾性を増すようになる。…

※「蛙股」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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