江戸時代、正式の供応料理を本膳(ほんぜん)料理といい、その形を少々簡略化したものを袱紗料理といった。さらに簡略化したのが懐石料理であった。文字に例えれば、本膳料理は楷(かい)書、袱紗料理が行書で、懐石料理は草書ということになる。江戸時代中期から武士階級は、本膳料理を済ませて、さらに二次会形式で袱紗料理を用いてもてなした。本膳料理を終えて裃(かみしも)を脱ぎ、袱紗袴(ばかま)にかえてくつろぎ、書画を鑑賞したり庭園を散歩したりして、ひと休みしてから味本位の袱紗料理に入るのである。この料理の内容は、「コイの生けづくり」、「鍋(なべ)焼き」(魚と野菜を主にした現在のすき焼き、または寄せ鍋の形態の料理)、「大平椀(おおひらわん)」(平たい蓋(ふた)付きの大きな椀に汁の多い煮物や焼き物などを盛り込む)など味本位につくる。袱紗料理は「ふさねて略す」の簡略の意、また、袱紗は柔らかい意もあるので柔らかい料理にも用いた。
[多田鉄之助]
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