改訂新版 世界大百科事典 「西洋の没落」の意味・わかりやすい解説
西洋の没落 (せいようのぼつらく)
Der Untergang des Abendlandes
ドイツの哲学者シュペングラーの代表作で,第1次世界大戦後の大ベストセラー。第1巻《形態と現実》(1918),第2巻《世界史的展望》(1922)。決して読みやすくはないこうした歴史哲学の大著がベストセラーとなったのは,敗戦直後のドイツの絶望的混乱期という時代と,ショッキングな表題との二つがうまく合致したからだとされる。たしかに熱狂的な評判は1920年代中葉のワイマール共和国の安定期に入って急速に退潮した。しかし,ゲーテから方法を,ニーチェから問題を学んだという彼が〈世界史の形態学〉という独自の方法で,世界史の構成単位たる八つの高度文化のドラマを展望し,比較史的に西洋文化が末期的な〈文明〉段階にあることを分析し,その没落を予言したこの本には独断と偏見がみちているが,その反面随所に鋭い歴史的直観,深い現代文明批判が秘められている。第2次世界大戦後に名声をかちえたイギリスのA.J.トインビーの歴史研究,文明論的世界史研究は,明らかにシュペングラーのこの労作を踏まえたものであったから,それとの関連で一時シュペングラー再評価の気運が高まり,日本でも71年ようやく完訳本が出された。
執筆者:生松 敬三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報