題材を古典文学や故事,伝説,史実などにとりながら,時代を超越して,当世風の人物や背景で表現した絵画の総称。とくに浮世絵に多い。浮世絵師が見立ての源泉とした題材のうちで目立つものとしては,日本では《源氏物語》《伊勢物語》《忠臣蔵》などの主要場面,中国では〈寒山拾得〉や〈瀟湘八景〉などの漢画的画題や《水滸伝》《三国志》の登場人物などがあげられる。また周知の詩歌を図上に記し,それらの詩意や歌意を当世風俗による描写のうちに伝えようとする例も少なくない。共通の教養を前提として成り立つ手法であり,見立絵の流行により江戸の市民社会の成熟が証明されるというものである。見立ては間接的で機知的な趣向こそがたっとばれ,直接的で露骨な翻案は嫌われた。〈瀟湘八景〉を家庭内の女性風俗に見立てた《坐鋪八景》をはじめ,鈴木春信にはすぐれた作例が多い。
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執筆者:小林 忠
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すでによく知られた古典的な題材を当世風になぞらえて表した機知的な絵画。とくに浮世絵に多い。物語や故事、伝承によってなじみの深い人物に、時代を無視して当世風の服装や風俗をさせ、その意外な変貌(へんぼう)ぶりを楽しもうとするもので、画家と鑑賞者との間にほぼ等量等質の教養が用意されていることを前提条件とする。その意味で、濃密な市民文化の成熟をみた江戸時代中期以降の、江戸の浮世絵に多くの作例がみいだされるのは偶然ではない。鈴木春信(はるのぶ)は見立絵の名手として注目され、和歌を踏まえた『六玉川(むたまがわ)』や「瀟湘(しょうしょう)八景」による『座敷八景』(鈴木春信)などの作品で、手のこんだ見立を得意とした。
[小林 忠]
『小林忠著『東洋美術選書 春信』(1970・三彩社)』▽『小林忠著『江戸の画家たち』(1987・ぺりかん社)』
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…近世に入ると多くの画家が戯画を手がけた。岩佐又兵衛や雛屋立圃(ひなやりゆうほ)の歌仙絵は,中世の歌仙絵のパロディであり,英一蝶(はなぶさいつちよう)の《見立業平涅槃図》のような見立絵も浮世絵師などが好んで制作した(見立て)。また,鳥羽絵の流行,蕪村,呉春らの俳画,白隠,仙崖の飄逸な禅画,葛飾北斎の《北斎漫画》,歌川国芳のだまし絵など笑いと風刺の内容は幅と深みを増していった。…
※「見立絵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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