仏教経典。瑜伽行(ゆがぎょう)派(唯識(ゆいしき)学派)に属する経典で、4世紀ころの成立と推定され、唐代の647年(貞観21)玄奘(げんじょう)により漢訳された。5巻。異訳に、菩提流支(ぼだいるし)訳『深密解脱経(じんみつげだつきょう)』5巻、その他二、三の部分訳があり、またチベット訳もある。サンスクリット原典は現存しない。玄奘訳によれば、(1)序品(じょほん)、(2)勝義諦相(しょうぎたいそう)品、(3)心意識相品、(4)一切法相(いっさいほっそう)品、(5)無自性相(むじしょうそう)品、(6)分別(ふんべつ)瑜伽品、(7)地波羅蜜多(じはらみった)品、(8)如来成所作事(にょらいじょうしょさじ)品の8章からなる。『解深密経』とは、仏の深密(じんみつ)(深く秘せられた趣旨)の教えを解明した経という意味であって、『般若経(はんにゃきょう)』などに説かれた無自性(むじしょう)、空(くう)の思想をより明確なものに発展させた新しい教義が提唱されており、それが唯識説である。すなわち唯識の教義を創唱した経として、思想史上重要な意義をもつ。そのおもな教義は、第3章に説かれる阿頼耶識縁起(あらやしきえんぎ)説、第4、第5章における三性三無性(さんしょうさんむしょう)説、第6章における影像(ようぞう)門の唯識説などであって、これらの理論が中核となって、その後の瑜伽行派の学説が展開した。弥勒(みろく)の『瑜伽師地論(ゆがしじろん)』、無著(むじゃく)の『摂大乗論(しょうだいじょうろん)』、護法(ごほう)の『成唯識論(じょうゆいしきろん)』などに引用されている。インドにおけるこの経に対する注釈書は、無著の注釈ほか2種のものが存し、いずれもチベット訳『大蔵経』のなかに伝えられている。また中国では、円測(えんじき)の『解深密経疏(しょ)』が現存する。
[勝呂信静]
大乗仏教経典の一つ。サンスクリット本は散逸し,チベット訳,漢訳が現存する。漢訳は,菩提流支訳《深密解脱経》と玄奘訳《解深密経》各5巻の2種あるが,後者が多く用いられる。成立は300年ころと考えられ,中期大乗経典に属する。序品,勝義諦相品,心意識相品,一切法相品,無自性品,分別瑜伽品,地波羅蜜多品,如来成所作事品の8品よりなり,特に阿頼耶識や三性・三無性,有・空・中の三時教判など,唯識説の中心となる思想が説かれている点が注目される。インドの唯識派(瑜伽行派),中国の法相宗,日本の法相宗などによって重視され,数種の注釈書が現存する。
執筆者:末木 文美士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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