請求権の行使に対して,その作用を阻止しうる効力をもつ私法上の権利。たとえば,売買契約の当事者である売主,買主には,それぞれ〈同時履行の抗弁権〉(民法533条)が認められている。すなわち,売主が目的物を提供することなしに代金を請求してきた場合には,買主は目的物の引渡しがなされるまで代金支払いを拒むことができ,反対に,買主が代金の提供なしに売主に目的物の引渡しを求めてきたときは,売主は代金の支払いがなされるまで引渡しを拒むことができるのである。民法上にはそのほか,保証人が債権者から債務の履行を求められた場合に保証人の有する,まず主たる債務者への履行の催告を抗弁できる〈催告の抗弁権〉(452条),およびまず主たる債務者の財産についての執行を抗弁できる〈検索の抗弁権〉(453条)などがある。抗弁権は相手方の権利(請求権)そのものを否定するのではなく,相手方の権利の存在を認めつつも,その行使を阻止することを正当化するものである。それゆえ,阻止事由がなくなればもはや相手方の請求を拒絶できなくなるという意味で,抗弁権は一時的・延期的抗弁権が普通である。ところが,ドイツ民法では,消滅時効(時効)の援用を抗弁権として構成したところから,時効抗弁権は相手方の請求権行使を永久的に阻止する役割を果たす。これを永久的ないしは滅却的抗弁権という。
抗弁権はもともとローマ民事訴訟法上の抗弁(エクスケプチオexceptio)から発展したものである。ローマ法の抗弁は,それが存在しなければ原告の請求どおりに判決(被告敗訴)されてしまうことを妨げるための一定の事実ないし条項であり,原則として被告の申出により訴訟方式書へ挿入されることにより,原告の請求を阻止する役割を果たした。抗弁権は実体法上の権利であるが,ローマ法の抗弁から発展したという沿革から,権利者が必ずその権利を行使しなければ裁判所は職権で抗弁権の存在を理由として被告に有利な判断を下してはならないとされている。なお,抗弁権と区別すべきものに,訴訟上の抗弁がある。
→抗弁
執筆者:奥田 昌道
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請求権の行使に対してその作用を阻止することのできる効力をもつ権利。権利の行使に対する防御という意味で反対権ともいう。ただし、民事訴訟法上の攻撃防御方法の一種としての抗弁とは異なる。
抗弁権は延期的抗弁権と永久的抗弁権とに区別される。前者は、たとえば、同時履行の抗弁権(民法533条)、保証人の催告の抗弁権(同法452条)および検索の抗弁権(同法453条)などであり、一時的に履行を拒絶して請求権の効力を一時的に阻止する機能を果たす。後者は、永久的に履行を拒絶して請求権の効力を阻止する機能を果たすが、日本の民法上このような抗弁権を認めうるかについては、問題が残されている。抗弁権の行使は、請求権の裁判外および裁判上の行使に対して、同じく裁判外および裁判上において行使されうる。また、抗弁権は時効にかからないとする学説がある(抗弁権の永久性)。なお、連帯保証の場合には、保証人の債権者に対する催告の抗弁権や検索の抗弁権は認められない(民法454条)。
[淡路剛久]
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…たとえば,売買契約をした売主が,買主のほうから代金を持参するまでは目的物を引き渡さないと主張するように,双務契約(双務契約・片務契約)の当事者は,相手方がその債務の履行の提供(債務の履行をするために自分でできる限りのことをして債権者の受領を求めること)をするまでは,自分の債務を履行しないと主張することができる(民法533条)。このような主張をする権利を同時履行の抗弁権という。双務契約では双方の債務が互いに対価関係に立っていることを考慮し,公平のために認められた制度である。…
※「抗弁権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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