費用価格(読み)ヒヨウカカク(その他表記)cost price 英語

デジタル大辞泉 「費用価格」の意味・読み・例文・類語

ひよう‐かかく【費用価格】

資本主義社会生産される商品価値うち生産手段購入支出された不変資本労働力の購入に支出された可変資本の価値を合わせたもの。→生産価格

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「費用価格」の意味・わかりやすい解説

費用価格
ひようかかく
cost price 英語
Kostpreis ドイツ語

資本主義のもとで生産される商品価値Wは、消耗された不変資本価値c、可変資本価値v剰余価値mからなる。すなわち、Wcvmである。この生産物価値のうちの剰余価値部分は、労働者の不払い労働でつくられ無償で提供されたもので、資本家にとってはなんの費用も要せずして生産された部分である。つまり、生産のために資本家が費やすのは、生産手段の購入と賃金支払いとに支出される資本価値部分、すなわちcvだけである。この資本家が商品の生産に費やした価値を補填(ほてん)するにすぎない部分を費用価格とよぶ。

 いま、費用価格をkとすると、商品価値はWcvmkmで表される。したがってkWmとなり、費用価格はつねに商品価値より剰余価値だけ小さい。費用価格は、生産要素の費消された部分を流通で回収し、ふたたび流通で購買するにすぎないから、この価値部分が生産過程でいかに形成され、商品の価値増殖がいかに行われたかを表すものではない。

 資本家の立場からは、商品の生産の費用は資本の支出(cv)によっており、その商品の生産に現実に必要な労働支出(cvm)にはよらない。しかし、労働支出こそ現実の費用である。これに対し資本支出では費用はcvにすぎなくなる。資本支出では投下された資本が流通上販売においてどのように回収補填されるかだけが関心事で、生産過程での生産手段価値の新生産物への移転や、労働力支出の新価値の形成(vm)には無関係である。生産手段や労働力の価格の変動は、生産過程では価値移転や新付加価値部分(vm)の絶対量の決定にはなんの影響も与えない。労働力の価格(賃金)が騰貴しても商品価値(cvm)が高くなることはけっしてない。費用価格では生産における価値増殖に基づく不変資本・可変資本の区別は消滅し、価値増殖を隠蔽(いんぺい)し、もっぱら流通上資本価値の部分的漸次的補填か全部的一挙の補填かの固定資本流動資本の区別に置き替わる。費用価格では費消した資本価値だけが示され、可変資本vと流動資本の不変部分(原材料投下資本部分)の同一視が生じる。

 費用価格の観念を基礎として利潤、利潤率、生産価格の観念が生じる。商品の販売価格は、価値以下であっても投下資本価値が補填されればよく、したがって費用価格は、資本家には商品の販売価格の最低限として現れ、商品の本来的内在的価値、固有の価値と映り、剰余価値は流通過程から生じたようにみえ、販売そのものから生じる「譲渡利潤」と映る。このようにして資本の価値増殖過程は神秘化されるのである。

[海道勝稔]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「費用価格」の意味・わかりやすい解説

費用価格
ひようかかく
cost price

マルクス経済学における概念で,商品の価値から剰余価値を除いた部分をいう。 K.マルクスは資本主義社会で生産される商品の価値 W を3つの構成部分,すなわち不変資本価値 c ,可変資本価値 v ,剰余価値 m から成るとした。 Wcvm 。資本家が商品の生産に現実に要した費用は,価値でみれば cvm であるが,剰余価値 m は資本家にとってはなんら費用のかかっていない部分であり,cv 部分のみが生産要素 (生産手段と労働力) のために支出された部分すなわち填補されなければならない部分として費用価格となる。費用価格を基礎として,剰余価値は利潤という形態をとる。

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百科事典マイペディア 「費用価格」の意味・わかりやすい解説

費用価格【ひようかかく】

商品の生産に要した費用にあたる資本支出部分で,ふつう生産費といわれる。固定資本部分と流動資本部分からなる。資本家にとって商品の販売価格の最低限をなす。利潤を剰余価値からでなく,販売から引き出す資本家的概念。これに平均利潤を加えたものが生産価格である。

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世界大百科事典(旧版)内の費用価格の言及

【生産価格】より

…マルクス経済学の重要な理論的概念の一つで,費用価格(不変資本プラス可変資本)プラス利潤であらわされ,資本主義経済において市場の価格運動の基準となる。市場価格の変動の重心となる価格は,必要価格,自然価格,費用価格などと呼ばれて,すでに古典派経済学における基本的範疇(はんちゆう)であったが,それはなお経験的な概念にとどまるものでしかなかった。…

【利潤】より

…資本家にとっての関心は,これら資本の全体がどれほどの剰余価値を生み出すかということである。剰余価値を資本全体の価値(マルクスはこれを費用価格と呼ぶ)で割った比率が利潤率であり,資本家間の競争によって利潤率は一様化する。このとき資本家の獲得する利潤は投下された資本の価値にこの一様化した利潤率を掛け合わせた額となる。…

※「費用価格」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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