平均利潤の成立に伴い商品はその価値どおりに販売されず、その生産に要した費用価格に平均利潤を加えた価格で販売される。この価格が生産価格であり、マルクス経済学の基本的用語の一つである。現実に商品は、それに含まれた抽象的・人間的労働の分量としての個別的価値で価値が決定されるわけではない。それぞれの商品を生産する生産部門において、同一生産部門に属する生産者の生産条件は異なり、優位の生産条件のもとで生産された商品はそれより劣った生産条件の商品に比べて個別的価値はより小さい。しかし、同一部門内での競争が完全に行われれば、同じ商品には同じ価値が成立する(一物一価の原則)。それは社会的・平均的生産条件のもとで生産された商品の個別的価値に一致する。それを市場価値という。ところが、さらにさまざまな商品の生産部門についてみると、それぞれの生産部門で投下されている資本の有機的構成(不変資本・可変資本の価値比率)は異なるのが常であって、もしそれぞれの生産部門での剰余価値率(可変資本・剰余価値の価値比率)が一定であるとすれば、同一量の投下資本に対して異なった剰余価値が生産されることになる。この場合も各生産部門間で競争が完全に行われ、資本と労働より大きな剰余価値を求めて部門間を移動しうるとすれば、各生産部門において投下資本量に対する均一の比率での利潤が生み出されることになる。これが一般的・平均的利潤率である。こうして平均利潤率が成立すると、諸商品は各生産部門の市場価値から離れて、費用価格に平均利潤を加えた生産価格に転化することになる。しかし、社会の全商品の生産価格の総和はそれらの価値総量に一致することから明らかなように、生産価格は個別的価値や市場価値と無関係に成立するものではない。このようなマルクスの生産価格概念は、その先駆的形態をA・スミスやリカードの自然価格概念にみることができる。
[藤田勝次郎]
マルクス経済学の重要な理論的概念の一つで,費用価格(不変資本プラス可変資本)プラス利潤であらわされ,資本主義経済において市場の価格運動の基準となる。市場価格の変動の重心となる価格は,必要価格,自然価格,費用価格などと呼ばれて,すでに古典派経済学における基本的範疇(はんちゆう)であったが,それはなお経験的な概念にとどまるものでしかなかった。マルクスは《資本論》第3巻において生産価格を規定したが,それは価値の転化形態であり,厳密な範疇的展開を通して価値から演繹(えんえき)された概念であって,古典派のものとは区別される。マルクスによると,商品の価値はその生産に投じられた社会的必要労働時間によって決定されるが,資本は産業ごとにその生産条件すなわち不変資本と可変資本(不変資本・可変資本)からなる資本の有機的構成も,また回転期間も異にするのが普通である。そのため同額の資本を投下しても,それによって充用される可変資本の量は異なり,それによって生産される剰余価値量も異なる。したがって商品が価値どおりに売られるとすれば,投下資本量に対する剰余価値の割合すなわち利潤率は,各産業部門ごとに種々異なることになる。ところが各資本は利潤の極大化をめざして競争するため,一方で利潤率の低い部門から高い部門へ資本が流出して利潤率を平準化させる傾向が生じ,他方で商品に対する社会的需給関係の変動を通して価格の騰落が生じ,最終的には資本の構成や回転期間の相違にかかわりなく一定の投下資本に対して均等な比率で利潤が帰属するように市場機構を通じる社会的調整機能が作用し,諸商品の価格は費用価格プラス平均利潤に等しい生産価格を基準に変動することになる。これにより各産業部門の生産物である各商品はその価値とは異なる生産価格をもつことになるが,これは資本が生産過程で獲得する剰余価値の社会的な配分形態を意味するものであり,それによって労働価値説が否定されるわけではない。剰余価値と利潤の総計,価値と生産価格の総計が一致するというマルクスの命題は,その証明と考えられている。
執筆者:桜井 毅
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…各種生産部門は有機的構成を異にし,有機的構成が高いほど利潤率は低い。各部門の資本は高い利潤率を求めて競争し,資本移動を生ずる結果,社会が必要とする商品の供給に参加するかぎり,各生産部門の生産条件の相違(有機的構成によって代表させる)にもかかわらず,各種生産部門の資本に同率の一般(平均)利潤を約束する〈生産価格〉(=費用価格+平均利潤)が成立する。この場合,一般利潤率は社会の平均的な有機的構成に一致する資本の利潤率で,一般的にいうと,平均的な有機的構成よりも高い,または低い各部門の諸資本では,自己の生産する〈価値〉と,剰余の平均的な配分を含む〈生産価格〉とは一致しなくなる。…
※「生産価格」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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