正式の名称は,〈伽藍縁起幷流記資財帳(がらんえんぎならびにるきしざいちよう)〉といい,奈良時代,寺院の建物や宝物,すなわち仏像,絵画,仏典類(その寸法,員数まで記述している)から日常用具,所領,穀稲,奴婢などの財産を細大もらさず書きあげた目録である。伽藍とは建物,縁起とは創立の由緒のことをいう。道具類はその使用目的によって,仏物(仏分ともいい,仏菩薩の供養に用いられるもの),法物(法分ともいい,箱,机,櫃など仏典保持,供養に使用されるもの),僧物(僧侶が生活するために用いたもの),通物(通分ともいうが,仏・法・僧3者共通して使用するもの)に大別して記載されている。もともと資財帳は奈良時代,国家によって仏教が保護されていたとき,諸寺に対して年々提出させていたもので,寺院の財産が悪僧によって消費されるのを防ぐためであった。年々報告するようになったのは716年(霊亀2)以来であるが,奈良時代末期からは毎年作成するということはなくなった。ただ平安時代に入っても各寺で作成された。年々作られる資財帳のうち,とくに後世まで保管して永例とするのを流記資財帳という。また縁起の部分が付属したものもあり,寺院の由緒がこれによってわかる。それは政府に提出される公文書で信頼のできるものである。資財帳は各寺院の遺宝である仏教美術や往時の寺院の規模,経済面などを研究するうえで貴重な史料であるが,現在残っているものは原本はわずかで,ほとんどが後世の写本や引用文である。
執筆者:湊 敏郎
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日本古代の寺院の財産目録。寺院縁起(えんぎ)をあわせて縁起并(ならびに)資財帳の形式をとるものも多い。仏像、経典、堂舎、仏具、寺領などが詳細に記され、寺院経済史、仏教史、美術史などの基本史料。律令制(りつりょうせい)下では寺院の一定程度の自治が認められていたが、寺院財産は資財帳により政府に掌握されていた。寺家の僧綱(そうごう)あての牒(ちょう)、実録帳など多様な文書形式がある。写本・原本が現存するものは747年(天平19)の元興寺(がんごうじ)(抄本)、大安寺、法隆寺の『伽藍(がらん)縁起并流記(るき)資財帳』から、1094年(嘉保1)ごろの『観世音寺(かんぜおんじ)資財帳』まで20通前後がある。ほかに『法隆寺東院資財帳』(763)、『広隆寺縁起資財帳』(873)、『観世音寺資財帳』(905)、『四天王寺縁起』(1007ころ)が著名である。
[石上英一]
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