改訂新版 世界大百科事典 「超高層物理学」の意味・わかりやすい解説
超高層物理学 (ちょうこうそうぶつりがく)
気象学で取り扱われている地球表層大気(地上の天気に直接関係する諸現象が起こっている対流圏と成層圏,地上約50km上空まで)よりもさらに上部にある希薄大気空間の性質と,その広大な空間内で生じている諸現象を研究する学問であり,正しくは超高層大気物理学と呼ばれるべきである。古くから気象研究者の間で,地上数十kmまでの大気を高層大気,それを研究する学問を高層物理学と呼んでいたので,さらに高い領域を研究する学問分野が1950年代に勃興したときに超高層物理学という新語が生まれた。英語では1954年にaeronomyという新造語が現れ,その定義は〈地球大気の上層部で,大気構成気体分子・原子の解離や電離が重要であるような領域を取り扱う科学〉とされている。
希薄大気にみちた地球勢力範囲空間
太陽は,電子とイオン(ほとんどが水素イオンすなわち陽子)が混在しているプラズマをつねにまわりの空間に吹き出している(これを太陽風という)。地球の磁気はプラズマ流に対する障壁となるため,太陽風が吹きすさぶ宇宙空間において,地球のまわりには磁気圏とよばれる地球磁場固有の勢力範囲空間がつくられている。地球磁気圏はすい星のような形をしており,尾部の長さは何十万kmにも及ぶ。太陽に面した側では,磁気圏と宇宙空間との境界はふだん地上約10万kmのところにあるが,フレア(太陽面爆発)に伴って放出される強い太陽風が地球に襲来すると磁気圏は収縮し,その影響を受けて地上では磁気あらしが観測され,極地域ではオーロラが現れる。
地上50km以上にある大気の総重量は地球全大気のわずか1000分の1以下にすぎないので,磁気圏中の大気はきわめて希薄であり,しかも太陽放射を受けて電離されている。電子やイオンは地球磁力線に巻きつくような運動をするため,地球磁気は大気の散逸を防ぐ役割を果たしている。地上約1000kmよりも高空にある大気はほとんどが水素原子核(陽子)と電子から成っている。地球をかこむ放射線帯(バン・アレン帯とも呼ばれる)は,高エネルギーの陽子や電子が地球磁場に捕捉されて比較的多く集まっている領域である。地球に近いところでは,酸素と窒素がしだいに大気構成物質の主成分となり,大気密度が高くなる一方,電離度は急激に小さくなる。地上高度100~300kmの領域は電離圏と呼ばれて短波無線通信電波を反射し,浮遊電子,イオンの密度が最大となっている領域であるが,電離度は何万分の1にしかすぎない。高度100km以下にある大気はほとんど電離されておらず,組成はほぼ一様(主成分は酸素と窒素で,ほぼ1:4の割合で混じっている)であるが,電離圏領域と成層圏の間の領域(中間圏と呼ばれる)にはオゾンなどが微量含まれており,それらの微量成分気体が大気中の光化学反応において重要な役割を果たしている(オゾン層)。
地球上の気候長期変動には,成層圏および超高層大気が及ぼす影響を重要視する必要があると考えられている。
執筆者:福島 直
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報