《平家物語》などの中世の軍記物語や江戸時代に行われた《通俗漢楚軍談》《絵本太閤記》などの通俗的な合戦譚をいう。江戸時代に刊行された軍書の最盛期は,京都に馬場信武・信意,江戸に神田白竜子の出現した宝永~享保期(1704-36)であるが,江戸時代を通じて最も読まれたのは《太平記》である。御触れによる制限もあって,写本を貸本屋を通じて借りるのが通常の享受形態であった。娯楽読物であるとともに,歴史の知識を得,兵法を学ぶ教科書でもあり,読書力を養う基礎となった。〈太平記読み〉が講釈師の別称であり,軍書解題ともいうべき《和漢軍書要覧》(1770)の著者が大坂の講釈師吉田一保であるように,講談と密接な関係を有している。幸田露伴が〈徳川時代の小説に於ける脊髄骨たるの観ありしが,徳川氏の衰ふると共に漸く衰へて,明治に至りて全く滅びたるが如し〉(《軍記物》)と記しているが,《通俗二十一史》(1911-12),《通俗日本全史》(1912-13)の刊行時にはまだ読物として楽しむ人々がいたわけである。
執筆者:延広 真治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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